第19話 魔眼を持つ者 前編
ここで、新たに魔眼と言う謎の力についての話が出た。面白い事に、この力は鑑定書の結果にも出ないと言う事だった。メルさんが言うには、この力は一般の人には無いものなので、一つの加護だと認識しているらしい。確かに人知を超えた力なら、神から与えられたものだと考えるのは普通だと思う。
今日本屋さんへ行くのだけでも凄く楽しみだったのに。僕にが魔眼の持つ人間なのか? それが知れるなんて、こんなにワクワクする事は無い。
「時間的にどちらかしか回れないが、メディウスはどうしたい?」
「古本屋に行ってみたいです」
「新しく出版された本はそこには無いし、誰かが一度手に取ったものだぞ」
「はい、大丈夫です。僕は今のところ何も加護が発動していません。母さんの話では、加護に使用する年齢制限は無いと言っていました。もちろんその力の差異はあるとはいいますが、僕の場合は、全くと言って良いほど何も使えないのです。それなら無意識でも使用できる魔眼が有るか? それを知りたくなりました」
「そうか」
「では、古本屋へ行く事と言う事で。メディウスさん、行く前に一つ注意事項があります」
「何ですか?」
「もし、他の文字が読み取れた場合、私達以外の第三者へは自分の能力について口外しないでください」
「それはどうしてですか?」
彼女は通りに誰も居ない事を確認したあと、先程よりも声量を抑えて静かに話し始めた。
「魔眼を持つ子どもは攫われる恐れが有るからです。この世界にはダンジョンという迷宮が存在します。そこには多くの秘宝やレアアイテムが隠されている場所が有ります。その隠し場所のありかが書かれている本が世の中に存在します。しかし、それは」
「魔眼を持つ者しか読むことができない」
想像よりも僕の声が大きかったらしく、慌てて口の前に人差し指を立てた後。
「その通りです。だからノラン様、私の様に成長していれば、そうそう狙ってくる輩も現れませんが、子どもとなると大変危険です」
「でも、メルさんは戦闘系の人じゃないので、同じく危険なんじゃ?」
「大丈夫です。危なくなったら、転移魔法か空間魔法で逃げてしまいます。こんな感じです」
!?
そう言った瞬間、彼女の姿が無くなった。
何の前触れもなく、道に一切の砂埃すら立ち昇らずに。
「メルさん、メルお姉さん!?」
「流石メル殿凄いな。この速さでは、私の剣速を持ってしても追いつけない」
「父様の眼でも追跡できなかったのですか?」
「できるわけ無いですよぉ~~」
大きく手を振って、遠くの方から声を掛ける人影が見えた。
「メル……さん?」
間違い無い、あれはメルさんだ。一瞬にして、数百メートルの距離に彼女は立っていた。
「これが、空間転移と言うものか、私も初めて見るが凄いな。もし、彼女が攻撃系特化の場合であれば、剣聖にもなれるかもしれない」
「それは、無理ですよ」
「えっ? さっき、あんなに離れていたのに。もう僕の隣に!?」
「メディウスさん、驚かせちゃってすいませ〜〜ん」
「それより、どうして無理なのか知りたい」
「私の空間転移の力には制限があります。別の魔法と同時に使用することができません。剣聖の方は魔法とは違うのでしょうが、剣に魔力を込めての剣技が有るとききます。恐らくですが、もし私が空間から突然現れて、剣を振るったとしても、魔力無しだとノラン様は受けきれるのではないでしょうか?」
「そうなのですか? 父上」
「百聞は一見に如かずです」
そう彼女が言った瞬間、さっきと同じ様に姿を消してしまった。そして父様もさっきとは別人の様に何かに集中していた。
………………
………………
………………
キンッ!?
急に金属と金属が激しくぶつかる音が聞こえた。でも、父様は剣を手で引き抜いてはいない。僕は父様の腕の起動を追うと、剣は抜かずに片手で鞘をごと背中の攻撃を防いでいた。
「お見事です。ノラン様」
「まあ、こんな感じです。ノラン様の様な一流剣士には、私の戦闘は何の意味も成しません」
「いや、メルさんは底が知れないようだ。回復と防御系の魔法使いと思っていたが、そこそこ剣も扱えるとは。しかも先程の太刀筋、私への手加減は一切感じなかったのだが?」
……どういう事だ?
メルさんは父様に一切の手加減無しで、剣を振るってたなんて。もし、父様が先程の攻撃を防ぎ切れなかったら、危なかったのでは無いだろうか?
「メルさん?」
「……………」
DUDUDUDUDUDUDU
DUDUDUDUDUDUDUDU
DUDUDUDUDUDUDUDU
「メッ……メルさん?」
また、彼女が消えた。
今度は何の予告も無しに!?
どういう事だ? さっきから何かおかしい……父も様子が変だ。
僕の傍に来ると、鞘から剣を抜き身構えた。
こんな昼間の時間に、大勢では無いが、幾らか人も往来しているというのに。
「申し訳ありませんが、此処で貴方達には死んでもらいます」
!?
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