第17話 本屋にも色々有ります 前編


「父上、お待たせしました」


「思ったよりも時間が掛かってたみたいじゃの?」


「ああ、ジルスさん心配おかけしてすいません。少し司教様とお話していたので遅くなりました」


「そうか、何か面白い話でも聞いたのか?」


「ええ、まあ」


「それよりも、結果はどうでしか? メディウスさん」


「実はまだ、ちょっとしたトラブルが有ってまだ紙をいただいていません」



 な~~にぃ!? って顔になるよね、そりゃ。司教様が司教様とは思えない程人が変わったなんてとても言えない。まさかあんな柔和な人があんなにも取り乱すなんて思わなかった。心に話し掛けてきたルーザーさんと同じで、あの人も僕の事を勇者の生まれ変わりだと言った。でも、今回の結果を見て何処をどう見たら、救世主って思うのだろう?



「お待たせしてすいません。こちらが鑑定書となります」


「いえ、ありがとうございます」

(うっ、何か視線を感じる)



 ジルスさんもそうだけど、メルさんまで瞳を爛爛と輝かせている。そんな顔をされたら見せないわけには行かないよね。



「ど、どうぞ」


「みっ、見てもよいのかの?」


「ジルスさんが遠慮されてるなら、じゃあまずは私が」


「んっん~~此処はやはり父親である私が」


「「どうぞ!?」」



 (父様も矢張り気になっていらっしゃったんですね)

 (すいません、相変わらず何も無い息子で御座います)

 (何か、父様には期待を裏切る形で申し訳ないな……)



「良かった。メディウスは見せても問題無いみたいだから、君達も見てくれたまえ」


「えっ!? 父上、何処がいいのですか? 僕は全然英雄になれる将来性がありません。それに加護だって、全然だし」


「メディウス、だからいいのだ。私はお前にになって欲しくはない。人よりも力を持つと言う事は、そこに責任が生じる。自分が願っていなくてもだ。私も嘗てそれに近かった」


「いや、近いってもんじゃないぞい。ノラン殿は次の剣王と噂されてたほどじゃ」



 ジルスさんはまるで自分の自慢話の様に言ったが、父は何処か遠い目をしてから、重く口を開き、続きを語り出した。



「ジルスさんの言う通り、確かに私は次の剣王と言われていた。でも、私はそれを望んでなったのではない。


 剣を持ち、ひたすら人を守る為に研鑽し、毎日魔物と戦うことで、知らない間に人よりも剣の腕が上がっていたただそれだけだ。そして、望んでもいない責務が付いた。気が付けば、王国の部隊長の一人に推挙されていた。


 私はねっ、キマイラに遭遇ったであった事に感謝しているんです。彼に打ちのめされなければ、私は何処かで戦死していたかもしれない。そして、妻と息子に会う事も無かったかもしれない。


 私は、今のこの辺境でのノンビリとした暮らしに大変満足してます。だから、メディウス!? 私はね、お前が普通に産まれて来たことを感謝しているんだよ」



 そんな風に父様が思っているとは思わなかった。嘗て一級剣士であり、剣王に近いと言われたいた人だったので、僕は当然同じ道へ進む事を期待されていると思い込んでいた。


 でも、それは違っていた。


 父は別に剣の道を究めようとしたのではなく、人々を魔の手から守るためだけに剣を振るっていた。そして人々の命を必死に守る為、剣の腕を磨いた結果が嘗ての地位になっていただけだった。


 父様自身は本当は普通の暮らしがしたかった、普通に暮らす町の人と思いは変わらなかったのだ。



「でも、僕は普通以下の様な気がします」


「お前はまだ5歳だ。何故今回の結果だけでお前が凡人以下だと決めつけれる? 能力とはこれからの経験で幾らでも成長する」


「そうですよ、メディウスさん」


「そうじゃな、儂も若い頃は皆に冒険者は向いとらんと笑われたもんじゃ。じゃがどうじゃ、今は立派に冒険者をやっとるじゃろ。嘗て儂を笑った奴らはどうだ、皆魔物の腹の中じゃ ワハハハハ」


(いや、ジルスさん最後の話は何か笑えません)


「ジルスさん、そこは笑えないとおもいますわ」


「えっ!? 儂は何か言い過ぎたかの?」



 僕等は一斉に頭を縦におろし、”うんうん”と頷いた。



「良いこと言ったつもりなのじゃがの〜〜」


「全然っです」



 メルさんは両眼をめいっぱい力強く閉じると大袈裟に言ってみせた。その表情が可笑しくて、思わず皆破顔した。



「さて、鑑定結果は分かった事だし。メディウスの目的の場所へでも行こうか」


「目的の場所が他に有るんですか?」


「本屋です。メルさん」


「本じゃと!? メディウス殿はブックワームなのじゃな」


「ブックワームとは何ですか?」


「本をこうやって見てる人の事を言います。見た感じが、まるで本を齧る芋虫に似ている所から、本好きの人をそう呼ぶのですよ ウフフフ」



 そう言いながらメルさんは本を持つ様な動作で、顔を思いっきり近づけると、大袈裟に上下に動作をしてみせた。確かに何かの幼虫が頭を上下に動かして本を齧っているように見える。



「違います、違います。流石にそこまででは。イスカの町よりも此処の方が大きな本屋さんが有るって、アンナさんが教えてくれたんです」


「確かに、オートナーリアには本屋さんが何軒か有りますわ」



 何軒かですと!? 一軒大きな本屋さんが有るだけでも、一日じゃとても周り切れないと言われてるのに。この町にはそんな本屋さんが何軒も有る何て、とてもとても今回の旅行じゃ見る事が出来ないじゃあ〜〜りませんか!?



「あの〜〜メルさん、オートナーリアには一体何軒の本屋さんが有るんですか?」


「え〜〜と、確か普通の本屋さんが三軒に古本屋が二軒、それと大人の方が読む本屋が一軒有りますね」


「「何? 大人の? それは何処に!?」」



 何か二人の大人がメルさんの話に食い付いた!? 今の父様からは威厳の""の字も感じられない程、情けなく緩んだ顔になっている。ジルスさんなんか見間違いなのか分からないが? 森で見たゴブリンという魔物の様に鼻が長くなっている。


 もっとも鼻の下が 、なんだけど。

 一体全体なにが二人をこうも惹きつけるのだろうか……。

 

 

 

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