第16話 鑑定以上の何か
「メディウス君、メディウス君」
「はっ!? 司祭様」
「良かった。やっと声が届いたみたいだね」
「え!?」
「ソナタが水晶玉に手を置いて、鑑定はすぐに終了したはずなんじゃが、手を放す様に問いかけても、全然反応が無かったんじゃ」
司祭様の隣の白髪の老人が髭を撫でながらそう答えた。
「メディウス君、どうやら見たところ君はトランス状態になっていたみたいだ、何かその時に不思議なものは見えたのかな?」
(確か他言無用って出てたよな? 適当に応えておこう)
「いえ、特に。ただ、水晶のエネルギーが流れて来たような気がして、それから意識が無かったんだと思います」
「そうですか、そんな事が。君は選ばれた人間なのかもしれないな」
「鑑定結果をもう見られたのですか?」
「いや、まだだよ。水晶は鑑定は行うが、直接文字を投影するわけではないからね。それを文字にすることが出来るのが、鑑定士の仕事だ」
彼が説明してくれる途中で、鑑定結果の印刷が完了したのか? 一人の牧師が彼に紙を渡すと、奥の部屋へと消えていった。
では、見てみようか。
*******************
名前:メディウス・アーネスハイド
身分:元男爵家、現騎士の息子
レベル:3
HP 052 MP 0501
STR 001 ATK 05XX
DEF 002 AGI 051
LUK 不明 INT 0015
CHR 00001
EXP 不明
加護:
便利眼、マガジン、イマジン、アニメ、
口寄せ
ズルXX、X間XX、X力XX、X憶X、速読、X生X力
不明、その他
魔法属性:8
勇者確率:対象外
英雄適合率:なし
*******************
(あれ? 何かところどころおかしい?)
そう思っていたところ、僕よりも驚いていたのは何を隠そう司祭様だった。
「そんな馬鹿な!?」
「何がですか? 司祭様」
「おい、鑑定士をスグに此処へ呼べ!?」
ゾクッとした。先程の彼とは全く別人の人が目の前に居る様に見えた。気迫だけなら、森で戦闘を繰り広げていた父様と変わらない。まるで刃を抜き取った戦士の様な眼をしていた。
「おっと、メディウス君済まない。私とした事が」
「いえ………」
(元の司祭様に戻った)
「お呼びで御座いますか!? オム………」
「ん?」
「いえ………フィアット司祭様」
「君がこの子の結果を水晶から書き写したのか?」
「はい、左様でございます」
「結果はこれで間違い無いのだな?」
「はい、このルドルフ。神明に誓って間違い御座いません」
「そうか、疑って済まない」
「いえ、それでは失礼致します」
どうしたと言うのだろうか? 最初に会った時の自信に満ちた顔付きがまるで無くなっている。今回の僕の鑑定結果の紙が破けてしまわないだろうか? 紙を強く握り締めている手は震え、血管が凄く浮き出ている。
中心部を引っ張られた紙は、ぴんと張り詰め、今にも引きちぎれん勢いだ。
「司祭様、すいません」
「いや、済まない。メディウス君。私の推測が間違っていた様で、それで取り乱してしまった」
「推測ですか?」
「ああ、私はね。君が勇者の生まれ変わりだと考えて居たのだよ。しかし、私の予想を裏切る様に君の勇者確率は、パーセントすら示さない対象外だった」
「すいません。期待に添えれなくて」
「いや、いいんだ。君は決して悪くない。大事な紙を渡す前にこんな状態にして済まない。直ぐに新しいのを用意させる。時間も少し約束よりも長くなってしまった。お父様も連れの方もきっと心配しているに違いない。一度祭壇の間へ戻って待って居てくれたまえ」
「分かりました、それでは」
◆◆◆
「皆の者、少々私は疲れたので、新しい鑑定の用紙が出来るまで奥の部屋で休憩する事にする」
「「「畏まりました」」」
どう言う事だ? 私の直感は彼は只者では無いと悟って居た。そもそも私がこの地位になれたのは、この力が国王陛下に認められたにほかなら無い。解せぬ、鑑定結果が間違いだと私の加護が感じている。
「大主教様、大主教様!?」
今人が頭の考えを整理していると言うのに。ドアを叩く愚か者は誰だ!?
「何だ!? 私はさっき休憩する事を伝えた筈だ。緊急の用以外邪魔をするな」
「申し訳ございません。しかし、お伝えしたい緊急のお話が二点御座いまして」
「何? 緊急の話だと………よかろう入れ」
「失礼致します。お休みのところ申し訳ございません」
「そんなのは良い。謝罪よりも話を早くしなさい」
「では、ある意味悪い知らせと、不思議なお話の二つが御座いますが、どちらからお話すれば良いでしょうか?」
「勿体ぶらずに順番に話せばいい」
「畏まりました。悪い知らせは、クリスタルに問題が無い事が判明しました。試しに我々でテストを行いました所、正常な鑑定結果が出ました。ですので、あのメディウスという少年は間違いなく勇者では無いと言う事になります」
「そうか」
彼は勇者じゃないのは間違い無いようだ。希望が見えたと思ったが……違ったか。今回は私の加護でも読み違えたか。
「はい。そして不思議なお話なのですが、クリスタルのインクルージョンが彼の鑑定の後暫く経ってから全て消えておりました」
「そうかインクル………おい、お前今私に何と言った?」
「ひぃいいいい、大主教様!? おっ、お止めください。おっ降ろひて、いひがいひ………」
「済まぬ」
ドサッ!?
「はあ、はあはあ。いえ、大主教様」
危ないところだった。今日の私は少しおかしい様だ。気付いたら彼の胸倉を掴み持ち上げていた。興奮と喜びで。
私の中で、新しい考えが浮かんだ。あの水晶のインクルージョンをあの少年が触れた事によって、完璧な水晶へと昇華した。後何百年もかけてようやく完璧なものになる代物をだ。それを彼が変えてしまった。
「急いでこの部屋に水晶を用意しなさい」
「はい、それはいいのですが、鑑定書の方は?」
「他の者が代わりに彼に渡しておやりなさい。彼等には私に急用が出来たと伝えればそれで良い。それと、彼の鑑定結果の紙を私にも用意してくれたまえ」
「畏まりました」
こうしてはいられない。私の仮説が正しければ、彼は勇者を超える存在になるかもしれない。水晶玉と鑑定書を王都へ持ち帰り。分析をさせる必要がある。もし、彼がそうであれば、この世界への希望が蘇り、人々がまた教会へ集い信仰は更なる発展へとなるだろう。さすれば、光と闇のバランスが良くなり、この世界を救えるやもしれん。
今、この世界は混沌と闇で溢れ返った、正に未曾有の危機なのだ。
この世界を救えるのはもう勇者ではなく、あの少年しかいない。勇者でも賢者でもない。そんな新たな存在がこの世界には必要な時期なのかもしれない。
それを神が遣わしたのだと私は信じたい。
これ以上民衆の苦しむ顔を私は見たく無い。悲痛な叫びを聴くのが辛い。子ども達が自由に野山を駆け回るそんな安寧な世界、そしてこれからこの世界を支えていく若者が無駄に生命を落とす事なく、安全に成長できる世界を私は取り戻したい。
「大主教様、どうぞこちらが先程の少年の鑑定結果となります」
「ご苦労」
フフフ、ワハハハハッ!?
「どうされました、大主教様」
「私が今日此処に居るのはきっと神のお導きに違いない」
「はあ………?」
水晶玉はインクルージョンのみが消えただけではない。賢者の瞳の加護の無い者には見えないが、鑑定書が無くとも、鑑定した結果の者の情報が表示されている。
そして何より、彼の鑑定結果を私は読み違えていたようだ。
勇者確率:対象外
英雄適合率:なし
まず、この意味は勇者や英雄になれないのでは無い。計り知れないと言う意味で捉えた方がよさそうだ。
次に加護について、
加護:
便利眼、マガジン、イマジン、アニメ、
口寄せ
ズルXX、X間XX、X力XX、X憶X、速読、X生X力
不明、その他
全く過去のデータには無い。未知の加護ばかりだ。
これが意味するところは、今まで以上の加護の持つ者を天より遣わしたと考えてもおかしくない。文字が化けて読めないところも何かを隠したい現れ。
そして何より、興味を引くのが魔法属性の項目。
これは恐らく神様の悪戯で本人はもちろん、第三者に気付かれないようにカモフラージュされているに違いない。
魔法属性:8
これは実は数字の8ではない。人は一度見た事を変える事は難しい生き物。しかし、私はこのからくりに気付いてしまった。角度を変えてみれば答えが見えて来る。属性に縛りが無い。無限のシンボルに私の
私のスカラやカズラに施された上級魔法の文字が読めたのもこれで納得がいった。
この考えが正しければ、あの子は既に物凄い力を持っている。
間違いなく将来は勇者以上になるに違いない。
しかし、恐らくまだ彼は覚醒していないのだろう。それを導くのは私じゃなく神だ。そう、私の加護も心にそう話し掛けている。
いずれ彼は大きく成長し、必ず王都に来る日が訪れる。私はその時の為に、準備をしよう。彼をいつでも迎え入れる事が出来る準備を。
こうしてはいられない、彼等が教会から去った後、ホーリーフェニックスを召喚し、急いで王都へ帰還するとしよう。この土産話を聴いたら、娘もさぞかし喜ぶ事であろう。
此処で召喚すると、少々目立ち過ぎる。
少し場所を移動してから、召喚するとしよう。
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