ル・パンダ参上
菜月 夕
第1話
「ル・パンダ参上!!!」
-------------------------------------------------
夜の闇を走る 怪しい影ひとつ
あれは闇のヒカリ パンダ ル・パンダ ここに在り
昼は動物園で みんなの人気者で
それは仮のスガタ パンダ ル・パンダ そこにいる
悪を憎み 白と黒を つ け る
君の心盗む か い と う ル・パンダ
-------------------------------------------------
その日、黒塚邸は騒然としていた。
明らかにカタギとは思えない黒服・黒眼鏡の男達と警察官が互いに火花を散らしながら睨み合っていた。
「ですから、我々の準備はこうして万端なので警察の
お世話になる必要などないのですよ」
「しかし、我々もこんな予告文を送られては出動せ
ねばなせないのですよ」
お前の大事なものを今夜奪いに行く。
怪盗 ル・パンダ 🐼
この町の裏世界を仕切る黒塚は、警察の登場を忌々
しく思っていた。痛くも無いと言う訳ではない身なの
で警察に踏み込まれる事態は排除したかった。
一方、警察の面々は『この際、こいつらを根こそぎ引っくくる証拠もつかんでくれる』などとも考えていた。
「しかし、遅い。もう予定時刻ではないか」
「だから言ったでは無いですか。ここの警備は我々だけで充分だと。さあ、お帰りを。
まったく、漫画でもあるまいし、今どきルパンだなんて。」
「いえ、ルパンでは無く、ル・パンダなのです。」
「だからルパンなのだろう?」
「いえ。”ル”で切って、パンダ。この”ル“は、フランス語の定冠詞、英語でÀやTHEのように名前の頭に付ける言葉なのですよ。
最近、あちこちに出没して襲っている謎の怪盗で正体も判らず、パンダを見たという報告しか無いのです。」
「ふんっ!」
憤りを隠しながら黒塚は、ふとそこに有った何かでいっぱいに成ったゴミ箱を見た。
「なんでこんなところに。家政婦は何をしているんだ!」
そう言って蹴り飛ばすと、そこから黒縁のパンダ柄の眼鏡を掛けたパンダが出てきたのであった。
「ヤットデレタ」
「うん、何か聞こえたような」
神宮寺警部はあまりの展開に動揺しながらも警官たちに号令をかけようとした。
「はーーーっはっはっはっ。裏社会を牛耳る黒塚よ。お前がご近所の子供達からゆすり取って裏帳簿に貼って隠していたこの限定ラメ・パンダのシールはすでに頂いたっ!!!
裏帳簿・粉飾決算隠れっ!!!」
その瞬間、帳簿がバラバラになって宙に舞った。
「お前ら、その帳簿を集めるんだ!」
「いえ、黒塚さん。これは怪盗ル・パンダの重大な証拠物件として接収します。みんな一枚も残すなよ!」
こうして、一つの事件により黒塚は裏の裏まで調べられる事となり、永い刑役に服することとなった。
ル・パンダの行方は 茫として知れず、そちらは未解決のままであった。
そしてル・パンダはひっそりと動物園に戻り、顔に掛けたパンダ柄の黒縁眼鏡をはずしたが、その下は外す前と変わらないパンダ柄であった。
「ふっ、まさか同じ柄の眼鏡をしているとは思うまい」
このあまりな展開に誰も気づかなかったが、大きなパンダがどうやって屑籠に入っていたかは、永遠の謎となったのである。
パンダは必ずやってくる。
---------------------------------------------------------------
ビルの谷を走る 君の影の潜む
あれは遠い叫び パンダ ル・パンダ そこに居る
タイヤ見ると遊ぶ いつも笹を食べる
それは君の味方 パンダ ル・パンダ また寝てる
悪を憎む 涼しげなその ヒ ト ミ
影から尻出てる か い と う ル・パンダ
「ル・パンダ慕情」
「そう、こうしてル・パンダはここを去ったのです。あの黒マントがキモだったのです。あの時、空中に散らばった書類の影に隠れて自分の黒マントに包み、そこに有ったゴミ袋に同化して翌日、他のゴミ袋と共に回収され、そこから逃亡したのです」
そこに登場していたのは少年探偵・有栖川だった。
ル・パンダ現れるところに彼は必ず押しかけ、ル・パンダの手口を解き明かすのだ。
「なんと、我々がそんな事を見逃すとは。さすがル・パンダ!」
神宮寺警部はその大胆な手口に舌を巻きつつ、傍らの事件現場に
紛れ込んだ少年をみつめ、「この闖入者の少年を放りだせっ!」と周りにいる刑事たちに号令をかけた。
まったく、事件現場を荒らすとは。
神宮寺警部は有栖川少年の推理の鋭さに感銘しながらも業務は遂行するのであった。
事件現場を放り出された有栖川少年は路地裏に隠れ、その扮装を解いた。
「ふっ、苦しかった」
探偵帽子を取るとそこから長い髪が現れ、脱いだ上着から膨よかな胸がシャツを押し上げていた。
そう、少年探偵・有栖川の本当の名は他之倉アリス。
かってル・パンダに救われ、借金の形に裏社会を支配していた黒塚にメイドとしてこき使われながらあわや美味しく頂かれるところであった矢先にのル・パンダ襲撃であった。
黒塚の悪事は暴かれ、彼女の借金も黒塚の偽装であったために解消され、形として取られていた黒塚邸も彼女の元に戻り財産を得、こんな真似も出来るようになったのだ。。
「そう、あの時。私は確かに助けを求めた。そしてル・パンダ様がやってきた。あの時から私の心はル・パンダ様のもの。」
彼女はル・パンダに助けられたと思い込み。吊り橋効果を通り越し、ル・パンダに恋してその現れる所に駆け付け、押しかけ、乱入してしまうのであった。
怪盗には少年探偵、そう確信した彼女はその姿を変えて少年探偵として活躍し始めてしまったのだ。
「ル・パンダ、ル・パンダ、ル・パンダ。ああ、アナタは私の物。私だけの物。絶対に絶対に一番最初に私の物になるのよ!」
ただし、少しヤンデレ化していた。
その様子を周りの住人は観て見ないふりをする事で彼女の秘密は守られるのであった。「あんな風になってはダメよ。」
その頃、ル・パンダは「今回、出番が無かった。」とぼやいて昼寝の続きをするのだった。
そしてその頃、とある英国風の一室でロイヤルドルトンの紅茶セットでほうじ茶を飲んでいる男、写楽ほうじ茶がつぶやいた。
「そろそろ私の出番だろうか」
こうしてうやむやのうちに謎は深まり、人々は集い、新たな物語を始めるのであった。
次回「ル・パンダ炎上」に続くかも知れない。
ル・パンダ参上 菜月 夕 @kaicho_oba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます