第4話 セイギ・ドリッチ・カイドウVS黒い騎士と五人の子供 24 ―ダメデェス、ソノドアノブハ使エマセーン―
24
「ダメデェス、ソノドアノブハ使エマセーン」
『騎士はこっちが動き出したと感じるとすぐ走り出す筈だ』とセイギは言っていた。
この言葉の中にある『こっちが動き出したと感じると』の意味は、表世界へ逃げる為の行動=『走り出したと感じると』であったが、その考えは甘く、騎士は彼らが走り出すのを待ちはしなかった。
分厚い煙の向こうに最前まで見えていた騎士の影の大きさは、セイギが手で計ったとしたらその掌に収まる大きさだった。
凡そ20~30mは離れていた筈。しかし、普段は喋り方と同じで重たく鈍く動く騎士だが、
普段の鈍さは嘘みたいに、騎士の動きは速くなる。
瞬間移動かの様に移動し、太刀筋は残像を残す程に速い。
この時もそうだった。
『ダメデェス』……と聞こえた次の瞬間には、騎士はセイギとカイドウの間に立っていた。
そして、『ソノドアノブハ使エマセーン』の言葉と共に、カイドウが投げたドアノブを斬撃によって破壊した。
「なに……」
「あっ!!」
全ては一瞬の出来事。騎士は一瞬でセイギとカイドウの間に立ち、一瞬にしてドアノブを破壊してしまった。
セイギとカイドウが目を見張った時には、既に全てが行われた後だった。
「クソッ……!!!」
自分の作戦がたった一瞬で塵になったと悟ったセイギは、騎士の背中に向かって大剣を振るう。
ドアノブを破壊した後に騎士が取る行動は容易に想像出来た。それは攻撃の開始―――セイギは始めから騎士と戦うつもりだったのだから、騎士の攻撃の矛先が自分に向けられても良いと思っていた。
だが、現在騎士が向いているのはカイドウの方向。
カイドウの傍には金城と藤原もいる。
もし、金城と藤原に矛先が向けば二人の命もドアノブと同じく一瞬にして消える……その結末は必ず防がねばならぬ事。
だからセイギはなりふり構わず大剣を振るった。急いでいるから型もなく、雑に、大振りに。避けられても良い、騎士の意識を自分に向けられれば良いと考えて。
「鈍イ……」
大剣を振る音が聞こえたのだろう。セイギの思惑通り、騎士は振り向いた。
『意識を自分に向けられれば』と考えていたのだから、セイギは傷付いた体でも騎士と戦えると思っていた。
セイギはデカギライと戦った。ホムラギツネとも戦った。ピエロとは対等に渡り合った事もある。
今までの経験からセイギは『自分はやれる』と自信を持っていたのだ。
しかし、その自信はドアノブと同じく一瞬にして破壊される。
「ソンナ鈍イ攻撃ジャ、騎士ハ倒セナイヨ」
振り向いた騎士はセイギが振り下ろした大剣を片手で掴んだ―――が、セイギは掴まれたと認識出来なかった。
何故なら、騎士は振り向いた直後にセイギを斬っていたのだから。
「………ッ!!!」
左肩から斜めに斬られたセイギの体はぐらりと揺れて、壊れた操り人形の様に倒れた。
倒れる時、セイギのスーツの火花は全身に広がった。
この火花が消えた後、ガキセイギはいなくなっていた。いるのは少年、赤井正義……
「正義さん!!!」
倒れた正義を見てカイドウは叫んだ。
この叫びを遮る様に騎士も言った。
「残念、赤イ英雄ハ死ンダ……残念、トッテモ残念」
淡々と、喜びすら表さずに、騎士はカイドウに向き直ろうと動き始める。
「死んでねぇよ……まだやられてねぇ……」
が、その足を正義が止めた。
火花が消えた後も、スーツが消えた後も、正義はまだ気を失っていなかったのだ。
正義は悔しかった。自分の弱さが、自分の不甲斐なさが。だから、消え入りそうな意識を気持ちだけで保ち、騎士の足に手を伸ばしていた。
だが………この僅かな抵抗ですら踏みにじられる。
「死ンデナカッタカ……」
騎士は再び振り向くと、正義の体を蹴り上げた。
そして呟く。
「ジャア死二損ナイダ」
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