第4話 セイギ・ドリッチ・カイドウVS黒い騎士と五人の子供 16 ―カイドウは身を潜めていた―
16
ガキカイドウは隠れていた。場所は公園のグラウンドの隅。息を潜め、身を屈めている。
何故隠れているのか、その理由は前回隠れていた時の理由と同じだった。
カイドウは畠山を捕まえていた子供を倒す直前にそれまで疑問に思っていた出来事の答えを導き出していた。その疑問は『子供は臭いを嗅いで僕達の居場所を探るが、臭いが発生した場所であり仲間が倒された場所には何で行かないのかな?』……こんな疑問だったのだが、カイドウが出した答えは、
『なぁ~んだ、僕は馬鹿だな。多分、行っているんだ。行っているけど、僕がサッサとその場から離れているから知らないだけ。ただそれだけ。そして、他にも臭いがする場所があるから、子供は「そこに敵がいる!!」って来てるんだ。きっとそうだ』……こんな答えだった。
この答えを実証する為……とまでは考えてはいないが、カイドウは『僕の考えが正しければ、子供はまたこの公園に来るはず!』とは考えていた。
だから身を隠している。
先に倒した子供の残骸である腐った葡萄の様な匂いがする黒い液体が濡らすグラウンドの中央を睨みながら。子供が現れたらすぐに動き出せるようにガキハンマーを構えて。
……が、残念ながら二日目の内には次の子供はやってこなかった。
しかし、カイドウは辛抱強く待った。三日目に突入しても待ち続けた。
そして三日目に突入して十分が経った頃、声が聞こえた。
「バリバリ!!!」
「ん?」
声が聞こえるとカイドウは立て膝でいながらも、地面に着けていた尻を上げた。
声はまだ遠い。公園内ではないと分かる。だが、近付いてきてはいる。だから尻を上げならもカイドウは不動を選んだ。『近くにきたなら、子供はきっと臭いを頼りに公園に入ってくる筈、下手に動くよりも待つ方が良いだろう』こう考えたのだ。……が、ハンマーを持つ手を握り直した時、もう一つの声が聞こえた。
その声は叫んでいる。いや、声には怒りが混じっているのだから『叫び』とするよりも怒鳴りが正しい。
その声はこう言っていた。
「なにくそぉ~~! 待てったら待てぇーー!!!」
……と。
「え?! セイギさん??」
カイドウはすぐに声の主が誰か察した。
「待てぇ!! 止まれってぇ!!!」
セイギの声も近付いてくる。姿を見なくてもセイギが子供を追い掛けていると、カイドウは察した。
「何してるんだよ」
不動でいようと決めたカイドウも流石に気になった。カイドウは立ち上がり、グラウンドの隅から――大きな木の下から、声がする方向を覗いた。
すると、グラウンドを囲む金網の向こうに子供とセイギの姿があった。
公園の外をセイギと子供は走っている。
「もう……何してるの」
カイドウは仮面の中で眉を困らせて辟易とした表情で呟いた。
「自分で考えた作戦なのに失敗したの?」
届かない質問を呟きながらもカイドウは認識してはいた。子供が電動キックボードに乗っていて、セイギが足を引き摺っている状況を。
『あれじゃ、いくら追い掛けても捕まえられないだろうな……』とカイドウは思った。
「あ……こっちに来る」
子供はセイギよりも数mは先をいき、グラウンドの外を曲がった。
カイドウがいるグラウンドは四角い。
カイドウ、セイギ、子供が居る位置を四角形で例えるならば、セイギは上辺の外を走っていて、カイドウは左辺の中に居た。子供は上辺から左辺に向かう角を曲がったのだ。
だからカイドウは『こっちに来る』と言った。
そしてカイドウが隠れている場所からは、左辺にあるグラウンドの出入口が見える。
三メートル程先に在るその出入口を見ながら、カイドウは心の中で呟いた。
― あの子供があのまま真っ直ぐに進んでくれれば、僕が出入口を通って外に出たら子供の正面を取れるな……
……と。カイドウは思うと当時に決意を固めた。呟き終わると同時に動き出す。
カイドウは『やってやろう』と考えたのだ。セイギの代わりに子供を倒してやろう、と。
再びガキハンマーを握り直し、カイドウは出入口へと向かい足を進めた。………が、その時だ。
「バリボリ! バリボリ!」
三つ目の声が聞こえた。
その声は明らかに子供だ。しかも、公園内から聞こえた。
「え……!!」
カイドウは慌てて振り向いた。すると、下辺にある出入口からグラウンドの中央に向かって走る子供の姿があった。
「嘘でしょ!!」
カイドウは思わず叫んでしまった。
セイギが追い掛ける子供を倒そうと動き出した矢先だ。カイドウは『このタイミングで来るのか!!』と驚いてしまったのだ。
この驚きは仕方がない。しかし、叫んでしまったのは良くなかった。
何故なら、カイドウの叫びは下辺から公園へ――グラウンド内へ、入ってきた子供の耳にも届いてしまったらしいから。
「バリボリ!!!」
下辺からの子供は液体が濡らすグラウンドの中央へと行く前に立ち止まってしまった。しかも、子供は声が聞こえた方向を見た。
「バリィ……」
「あ……ヤバい」
カイドウも体を捻って下辺の子供の方を見たままだった。
カイドウと子供は目と目が合ってしまう。
グラウンドの隅で身を隠したままだったならば見付からなかっただろうが、カイドウはその前に立ち上がってしまっていた、更に叫びもした……子供に見付かってしまった。
「あっ……!!」
状況はより悪くなる。カイドウの存在に気が付いた子供は踵を返し、下辺の出入口に戻ろうと走り出してしまったからだ。
「あぁ……正義さん、ごめんなさい! そっちはやっぱり自分でやって!!!」
カイドウもまた踵を返す。
カイドウはセイギの代わりに電動キックボードに乗る子供と戦うのは止めにした。
『自分は自分から逃げる子供を追うべきだ!!』……と考えたから。
「待てぇーーー!!!」
カイドウは走る。グラウンドを出ようとする子供に向かって。
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