第3話 裏世界へ 13 ―少年少女たちの推理―

 13


「とまる……とまるか、他に何かあるかな? あっ、とまるはとまるでも"ホテルに泊まる"、こんなのどうかな?」


「おっ! それ、なぞなぞっぽい! 良いじゃん!」


 こう言い合ったのは小山と金城だ。


「あ……金城くんも良いと思う?」


「おう、言葉遊びがなぞなぞの答えっぽいじゃん!」


 一度は我を忘れて混乱してしまっていた小山だが、自転車で移動を始めた辺りからは落ち着きを取り戻し始め、今では積極的になぞなぞの答えを考えていた。


 そんな小山を一度は怒鳴った金城も、カッとしやすい分カラッとした性格をしているからか、今では自分が『良い』と思えた推理を称える為に、金城の背中をバンバンと叩いていた。


「なんや、喧嘩してたのに単純な二人やなぁ。まぁええけど」


 藤原はそんな二人をツッコミつつも、『微笑ましい』といった感じで笑った。


「あ……そや、私も一個思い付いたんやけど」


 それから、自分の推理を披露する。


「殆んどダジャレみたいなもんなんやけど、"とまっている"を"戸待っている"って考えてみたらどうやろ? "戸"って扉の"戸"なんやけど」


「戸待ってる?」


 剛が聞き返すと、藤原は少し恥ずかしそうに苦笑いを浮かべながらこう答えた。


「うん、自動ドアが開く前ってちょっと待つやろ? だから"戸待ってる"。ダメかな?」


「自動ドアを調べるって事?」


「そう、ビルやマンションの入口でも良いし、エレベーターでも良いし。とにかく自動ドアがある所を。ダメ?」


「いや、俺はそうは思わないけど」


 ―――――


「ここまで話すと、次に俺達は『誰の推理を採用するか』って話に移りました。……因みにですが、俺と優くんと金城くんは、悔しいけど"コレ"って推理は出せなかったんです。そして、色々と話し合ったのですが、どの推理が良いかって答えは出せなくって、結局『皆が思い付いた場所を、皆で手分けして探そう』って結論になりました」


「だから集団行動を取らずにバラバラに行動していたのか……」


 勇気が言うと剛少年は頷いた。


「はい。探す場所の振り分けは、基本的に推理を思い付いた本人がその場所を。旭川さんなら信号機、小山くんならホテル……みたいな感じにしようってなりました。でも、俺や優くんや金城くんは何も思い付いていないので……」


 ―――――


「じゃあ、剛くんは藤原さんに協力してあげたら?」


 バス停のベンチに座る優は、眼鏡のレンズを眼鏡拭きで拭きながら『それじゃあ、俺達はどうしようか?』と訊いた剛にこう答えた。


「自動ドアやエレベーターなんて、本郷の中にいっぱいあるだろうし、一人じゃ大変だろうからさ」


「あっ、確かに。そうだね、分かった! それじゃあ俺は、藤原さんに協力する。藤原さん、ヨロシクね!」


「うん、こちらこそヨロシク」


 バス停の時刻表に寄り掛かる藤原は腕を組みながら、優の横に座る剛に向かってコクリと頷いた。


「それじゃあ、俺はどうしようかな?」


 これは金城だ。


「俺は小山のが良いって思ったし、小山に協力しようかなぁ」


 金城は顎に手を置いて考えるが、こんな金城に対して優がすぐに首を振った。


「いや、本郷にはホテルはそんなに無いよ。ビジネスホテルが何軒かあるくらいだ」


「あ、そうなんだ?」


「うん。だから金城くんは、畠山くんの協力をしてあげてよ。畠山くんの『鳥が止まる場所』っていうのは枠がデカイからさ」


「あぁ……まぁ確かに、そうだな。分かった。俺は畠山の協力をするよ」


 ……と、金城は頷く。


「あっ、待てよ」


 ………が、頷き終わると、その顔はすぐに何かを思い付いた顔に変わった。


「ん? どうしたの?」


 優が訊ねると金城はこう言った。


「いや、『道路標識や電柱を調べながらだったら、同時に信号機もいけるな』って思ったんだ。なぁ優、旭川のも一緒にやっていいか?」


「それは、まぁ全然。金城くんが負担じゃないなら」


「そうか! それじゃあ、旭川、キミのも手伝うよ!」


「本当? ありがとう」


 旭川は金城にニコッと笑いながら、ペコリと頭を下げた。

 それから、こう言う。


「それなら、私も畠山くんの場所も調べながら信号機も探すよ。街路樹もあるっぽいから、それも一緒にやる」


 旭川は辺りを見回しながら言った。


「じゃあ俺もそうするかな!」


 これに、金城が同意した。


「ふふん! じゃあ、話が纏まったね。それじゃあ、僕も畠山くんのコースをやろうかな」


「優、お前もか?」


「うん。ちょっとね。理由があって。僕は高い所に居たいんだ」


「高い所に居たい?」


「うん、高い所から皆を見ていたんだ」


「何だそれ? 高みの見物か? 不思議な事言うな……」


「ふふ、勿論僕も探すよ。そうだ、四人になったから二手に分かれようよ。地上は旭川さんと金城くん。ビルの屋上や看板は僕と畠山くんで。畠山くん、どうかな?」


「あぁ、別に俺は構わないけど」


「ふふん! じゃあそうしよう。ヨシッ、これで全員の配置が決まったね。後は明日の勝負を待つだけだ!!」


 優はそう言うと、


「よいしょ!!」


 ベンチから立ち上がった。


 それから、数歩進んで少し開けた場所に行くと「1・2・3」と声に出しながら、突然、腕をぐるぐると回したり、屈伸運動をしたり、準備運動の様な動作を始めた。


「な……なんだ急にアイツ?」


「さぁ……ヤル気満々だね」


「魂の状態で運動しても意味ないやろ」


 こんな"突然"に、金城や剛や藤原や、


「コヤマくん、優くん意外と良い動きだね?」


「いや、旭川さん。俺、オヤマなんだけど……」


「なぁ優。準備運動なら俺が教えようか? もっと腿を上げた方が良いぜ」


 旭川や小山に畠山たちが不思議がるが、優は気付かない。

 優はドキドキしているんだ。


「初めてだな……初めての実戦。上手くいくかな……」


 明日から始まる"戦い"に……

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