第3話 裏世界へ 6 ―目指すは本郷―

 6


 それから――


「何? これ?」


 道路に連れていかれた剛は驚いた。


「何これって自転車だよ」


 何故なら、道路に到着すると、そこには何故か七台もの自転車が並べられていたからだ。


「さっき僕、自転車に乗れるか聞いたでしょ?」


「うん……それじゃあ、今からこれに乗るの?」


「ううん、今からって言うか、明日からね。今日はもう十分も無いからね。因みに、この自転車は僕がこの辺りから持ってきた物だよ……」


 ……と言って、優は辺りをグルリと指差した。


「剛くんは気付いていたかな? この渋谷って僕ら以外の人間は一人も居ないクセに、自転車や車はそこら辺に普通にあるんだ。人の居ない世界にある物なら、誰の物でもないでしょ? だから、持ってきた」


「そ、そうなんだ。で、自転車に乗って何処に?」


「本郷」


「本郷? それって東都市とうとしの?」


「そう! そこが次の僕らの目的地だ!」


 優はそう言って剛に向かって頷いたかと思うと、


「つか!!!!!」


 何故か突然、空に向かって叫んだ。


「うわっ!!」


 剛は驚きで叫んだ。しかし、優はそれには気付かず空に向かって叫び続ける。


「何でこの説明を毎回僕がしなきゃいけないんだよ! もう六回目だぞ! お前が説明しろよ魔女!! 何が『私はやる事があるからねぇ。後から来る子供達には坊やが説明するんだよ』だ、ボケー!!」


 優は魔女の声真似をして怒鳴った。


「サボるなよな!! 何で俺なんだ!! ハチ公前に一番乗りして頑張り損じゃないか!! クソババア!! ………ふぅ」


『ふぅ』と息を吐くと優は顔を下ろした。その顔はスッキリとした顔をしている。


「ごめんね。ストレスが」


「大分……溜まってたみたいだね……」


「うん! でも、今のでかなりスッキリした! それじゃあ、説明を始めるね!」


「う……うん」


 優は自分の挙動にいちいち驚きの反応を見せている剛に気付きもしないで、早速と説明を開始した。


 ―――――


 優は早口で話し始めた。


「さっきも言ったけど、僕達は明日から本郷に向かって出発します! 『七人目が揃ったら坊や達は本郷へ行け』……これが魔女が僕らに課した次のお題なんだ……お題? ん? 何か違うな……任務? ん? これも違うね。何だろう?」


「う~ん……何だろうね? 何でも良いんじゃないかな?」


「あそっか、そうだね! 何でも良いや! 話を続けるね! ……えぇ~っと、行くと言ってもそれは期限付きだ。魔女が条件を設けてきたんだ。それは『十日以内』。でね、魔女が言うには『渋谷から本郷までは40㎞以上ある』らしい。僕らは一日に三十分しか動けないから、十日あるにしても徒歩じゃ絶対に無理だよね。だけど魔女は言った。『車は使っちゃいけないよ。無免許運転はいけないからね』って。しかも、『電車は動いていない』とも言うんだ。それから、こうも。『絶対に七人全員でゴールしなきゃいけないよ。時間内に必ず七人で本郷に到着するんだ』って。『もし出来なかったら、ドアノブは永久に坊や達にはあげないよ』ってさ。そして、捨て台詞でこう言いやがった。『さぁ、どうすれば十日以内に本郷まで辿り着けるかな? さぁ、考えるんだよ坊や』ってさ……はい!! ここで魔女からしろと言われた説明は終わり!!」


「終わり……」


「そう、終わり! そして、ここからが僕自身の説明だ!」


「優くんの?」


「そう、僕の! 僕の説明をする前に、この魔女の説明をするのが本っっっっっ当に面倒なんだよ! 僕は早く自分の考えを喋りたいのに……はぁ、めんどくさい! でも、剛くんでこれも最後だ!」


 どうやら優は"魔女の代わりに説明をするのが面倒"ではなく、"自分が話したい事があるのに、その前に魔女の代わりに説明をするのが面倒"……とと思っていたらしい。


「そ、そっか……それじゃあ早くしてくれるかな? 優くんの説明を」


「うん! 勿論だよ、催促しないで! それじゃあ、えぇ~~っと………魔女からの説明が終わるとね、僕はすぐに作戦を考えたんだ。そして、その答えはすぐに出たんだ! ふふん! コイツを使えば良いんだってね!」


 優は七台ある自転車の内の一台を平手でポンッと叩いた。


「スマホで調べたら、自転車を使えば渋谷から本郷までは大体三時間くらいで着けるんだって! 『七人目が揃ったら』って言うから今日の分は一日消化しちゃう事になるけど、それでもまだ九日はある。途中で休憩が取れるくらいの余裕があるんだよ! ……ん? なに? まだ不安そうな顔をしているね? 僕の説明で何か気になる点があった?」


 優は自分の挙動にいちいち驚く剛には気付かなかったが、自信満々に話をしても全然不安顔を解いてはくれない剛には気が付いた。


「う……う~ん」


 質問された剛は眉をしかめてこう言った。


「いや……あのさ、計算上はそうかもしれないけど……俺たちの中で渋谷から本郷まで行った事がある人は一人でも居るの?」


「いないよ!」


 この問い掛けに、優はあっけらかんに答えた。


「いる訳ないよ。だって、まず東京に住んでいるのが僕しかいないんだから。金城くんは沖縄だし、旭川さんは北海道、畠山くんは秋田、小山くんは熊本だし、藤原さんは大阪だ。渋谷にも本郷にも今まで訪れた事が無いって人達ばかりだ。僕ですら渋谷から本郷なんて電車を使ってでしか行けないよ」


「えぇ……」


 この答えに、剛の眉は更に歪んだ。


「なら……悪いけど、俺は全然余裕とは思えないけど」


「そうなの?」


「うん……だって、もし道を間違えでもしたらどうするの? 俺達は一日に三十分だけしか動けないんだよ。少しでも道を間違えれば十日以内に本郷に着けない可能性は全然あるじゃないか。そしたら、もうドアノブは手に入らないんでしょ? そんなの、俺は不安でしかない……」


 剛は不安な気持ちを吐露した。だが、やはり優はマイペース。微笑みを浮かべながら剛にこう返す。


「それなら大丈夫だよ、ナビがあるから」

 

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