ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!!~世界が滅びる未来を知った五人の少年少女はヒーローになる約束をした~
第1話 「ズーンッ!」からの「バイーンッ!!」からの「ギューンッ!!!」 4 ―作戦開始、そして現れたバケモノ―
第1話 「ズーンッ!」からの「バイーンッ!!」からの「ギューンッ!!!」 4 ―作戦開始、そして現れたバケモノ―
4
「ふぅ……」
ビルから降りたアイシンは、トレンチコートの男が歩く道へと着地すると『ふぅ……』と一息吐きながら、腕時計を叩き桃井愛の姿へと戻った。
「英雄の姿のままだと男が警戒するからね、か弱い女の子の振りをしないと……」
そう独り
「ボッズー、どう? 男は変わらずこっちに向かって来てる?」
「うん……」
腕時計から聞こえたボッズーの声は、愛と同様に囁く様な声だ。
「変わらず、向かって来てるだボズよ」
「分かった……」
ボッズーから男の状況を聞くと、愛は次の確認をする。
「せっちゃん、勇気くん、そっちはどう?」
この質問に答えたのはセイギだ。
「OKだ。俺達も地上に降りたぜ。とりあえず、俺達も一旦変身を解く。んで、気配を消してゆっくりと男に近付くぜ……」
その次に聞こえたのは勇気の声。
「桃井……こっちから見える現在の状況を話すぞ」
「うん……」
愛が言葉だけで頷くと、勇気は少し早口で話し出した。
「今、桃井と男との距離は目視で10mくらいだ……しかし、男と桃井との間にはパーカーを着た男性が居るんだ。恐らく、この人が居なくなってからでないとトレンチコートの男は桃井に手を出そうとはしてこないだろう。だから桃井は、トレンチコートの男に怪しまれない様に、パーカーの男性を遣り過ごしてほしい……出来るか?」
「うん……やってみるよ」
「宜しく頼む……」
「うん……それじゃあ、腕時計の通信はONにしたままにしとくから、何かあったら教えて」
「分かった……」
「おう……」
勇気と正義の了解の声が聞こえると、
「ふぅ……」
愛はもう一息吐いた。
それから、何気ない仕草でコートのポケットからスマホを取り出す。そして、それと同時にイヤホンも取り出すと、おもむろにSNSを開いてアーティストの生配信をつけた。
だが、イヤホンの音はミュート。でも、生配信を楽しんでる風を装いながら、すぐ側のガードレールに腰掛けた。
― 私はただの学生……遊び疲れた帰り道の途中で、好きなアーティストの生配信がやってるのに気が付いて慌てて見始めた……そんな感じ、そんな感じ……
愛は自分自身に与えた"役"を頭の中で呟いて、スマホを取り出したポケットとは反対側のポケットからグミの袋を取り出した。
― 本番が始まると思ったよりも緊張するな……
ドキドキと高鳴ってきた心臓の鼓動を感じながら、愛は太ももに挟んだ袋からブドウの形をしたグミを一個取り出し、口に放り込んだ。
それから、トレンチコートの男の方向にチラリと横目で視線を向けた。生配信を見ている
勇気からの情報だと、愛とトレンチコートの男の距離は10m。"チラリと"だけでは男の姿を視界に捉える事は出来なかった。
代わりに男と愛との間に居るパーカーを着た男性の姿が見えた。男性はフードを目深に被り、ポケットに両手を突っ込んで、ゆっくりゆっくりと歩いている。
コツコツ……コツコツ……
パーカーの男性の足音が静かな夜道に響く。
― イヤホンから音が漏れてないと不自然かな? ……あぁ、でもこの人は遣り過ごすだけで良いんだから、ちょっと怪しまれても良いのか……
愛は頭の中で独り言ちた。
パーカーの男性との距離は凡そ5mくらい。
コツコツ……コツコツ……
段々、足音が近付いてくる。
―――――
「正義……気付いたか?」
トレンチコートの男を尾行する勇気は、とてもとても小さな声で囁いた。
「あぁ……あの男、さっきよりも早足になってるな」
答える正義も、とてもとても小さな声。
「だよな……」
「置いてかれない様にしようぜ……」
二人はトレンチコートの男に置いてかれない様に、それでいて足音を立てない様に、足を早めた。
―――――
生配信をしているアーティストはアカペラで歌を歌い始めた。音は聞こえないが、愛はそれに合わせて体を揺らした。……と、同時に再び視線をチラリと、トレンチコートの男が居る方向に向けた。
― あっ! トレンチコートの男が見えたぞ……あっ、ちょっと早足じゃん……そろそろ来るか……
愛は"取っ捕まえる"準備の為に、太ももに挟んだままでいたグミの袋をコートのポケットにしまった。
― 今、トレンチコートの男はさっきパーカーの人が居たくらいの場所に居たな……多分、私との距離は5mくらいかな? パーカーの人の方はチラッと見た感じだと、私との距離は後2mくらい……もう少し……もう少しだ……あぁ、心臓がバクバクする。お願い、パーカーさん! 早く行っちゃって!
愛は言葉には出来ない懇願をパーカーの男性に送りながら、再び視線をスマホに向けた。
その耳にさっきよりも大きくなったパーカーの男性の『コツコツ……』という足音が届く。
―――――
「ん?」
「何だ? どうかしたか正義?」
「いや、気のせいかな? なんか、パーカーの人がチラチラって愛を見てる気がするんだ……それに、さっきよりもあの人も早足になってる気がする」
「そうか? 俺には分からないが……」
トレンチコートの男を尾行する正義達とパーカーの男性との距離は10mは離れている。勇気はスマホを見てる風を装いトレンチコートの男を尾行しているから気が付かなかったが、スマホも何も持たずの正義は――パーカーの男性と距離があるから良くは見えないが――男性が起こした変化に気が付けた……
―――――
コツコツ……コツコツ……
― 早く、早く! 行っちゃって!
コツコツ……コツコツ……
パーカーの男性の足音はドンドン大きくなる。
― もう少し……あと、もう少し……サッサと通り過ぎちゃって!!
愛はスマホの画面を凝視しながら願った。
― パーカーさん! あと五歩だよ! 五歩歩けば私の前を通り過ぎれる! コツコツ……一歩、二歩! コツコツ……三歩、四歩! さぁ、あと一歩だ!!
愛は頭の中で叫んだ。
だが、
― ……………ん? 何で? ……………何で? 通り過ぎないの???
何故だろう。パーカーの男性の足音は、愛の目の前で止まってしまった。
「え?!」
愛がゆっくりと顔を上げると、そこには……
「ペロリっ……」
目深に被っていたフードを取り、まるでカメレオンの様な長い舌を口内から覗かせたパーカーの男性が立っていた。
―――――
「「……………ッッ!!」」
正義と勇気は同時に走り出した。
それは愛の前にパーカー男が立ち止まった瞬間に………いや、もっと正確には"パーカー男がフードを取った瞬間に"だ。
パーカー男がフードを取ったのは愛の前に立ち止まった瞬間であるから"立ち止まった瞬間"でも間違いではないが、二人が走り出した理由は『パーカー男が何者なのか分かったから』なのだから、やはりフードを取った瞬間なのだ。
そして、走り出した瞬間には『俺達は追うべき相手を間違えていたんじゃないか!』と気が付いた。
何故なら、パーカー男は事件の捜査中に現れたのならば第一に疑いたくなる存在だったからだ。しかも、走り出したそのすぐ後には"カメレオンの様な長い舌"すら見せてきた。
「あの野郎! 遂にバケモノになりやがったか!!」
「本郷……この場所の時点でアイツを疑うべきだった!!」
正義と勇気は既にトレンチコートの男を見てはいなかった。『トレンチコートの男よりも、カメレオンの舌をペロペロと動かすパーカー男の方が明らかに怪しいのだから、トレンチコートの男を注視する必要も、尾行していた事がバレやしないかと気にする必要も無い!』と正義と勇気の二人共が思っていたからだ。
―――――
では、二人が走り出したこの時にトレンチコートの男はどうしていたのか………それは、当然とも言える反応だった。
それは、"驚愕"……トレンチコートの男は背後から叫びながら走ってくる正義と勇気を見て、驚愕の表情を浮かべていたのだ。
しかし、その後の反応は不思議なものだった。
「ふふっ……!」
トレンチコートの男は笑ったのだ。不敵とも取れるニヤリとした笑みを浮かべたのだ。
そして、フワリとコート靡かせて男は方向転換をすると、自分の真横を走っていったばかりの正義たちに背を向けて、この場を去っていってしまった……
―――――
「ぐへへへぇ~~君、可愛いねぇ! 今日の獲物は君に決めたよぉ!!!」
パーカー男は『ぐへへ』と笑い、舌先をチョロチョロと動かしながら愛に向かって手を伸ばした。
「……ッ!!」
対する愛は驚きで一瞬固まった。しかし、それは、あくまでも"一瞬"。愛は英雄だ。すぐに彼女は驚きを捨てて動いた。
「獲物? それはどっちかな?」
愛は自分に向かって伸ばされたパーカー男の手を蝿を追い払う様な仕草で払い退けると、次の瞬間にはガラリと開いた男の胴体に向かって掌底をお見舞いしたのだ。
「何っ?!」
尻餅をついて驚く男……この驚きは更に強まる事になる。
「ドリャ!!!」
「トウッ!!!」
その理由は赤と青の英雄の登場だ。ガキセイギとガキユウシャに変身した正義と勇気の二人はパーカー男に向かって跳び掛かった。
「ぐぇっ!! 英雄!!」
しかし、男は素早い奴だ。突然の英雄の登場に驚きながらも、パーカー男は口先でチョロチョロと動かしていたカメレオンの様な長い舌を更に更にと長く長く伸ばし、すぐ近くにあった街灯の天辺に素早く巻き付けた。
「私はお前らが嫌いなんだ!! 来るんじゃないよ!!」
そして、巻き付けたかと思うと、今度は舌を縮め、ワイヤーアクションが如く動作であっという間に街灯のランプの上に移動してしまったのだ。
「テメェ!! 降りてこい!!」
セイギは大剣を取り出した。
「そうだ降りてこい!! 二度目の正直!! 今度こそお前を倒す!!!」
ユウシャもホルスターから二丁拳銃を取り出した。
「何が二度目の正直ですか!! 前回は私は冤罪だったでしょうが!!」
パーカー男はセイギとユウシャに向かって唾を吐いた。
「うわっ! 汚ったねぇ!! この野郎! 『前回は』て事は、今回はやっぱりお前がバケモノか!!!」
「それはそうでしょう! ただの人間が今の非人間的な動きが出来ますかぁ?」
この言葉に対してユウシャが叫ぶ。
「出来はしないだろうな!! そして、普通の人間では出来ない事がもう一つある!! それは貴様の様な嘘をつく事だ!!!」
ユウシャはレーザーを発射、パーカー男が乗る街灯を破壊した。
「うわっ!! 危ない!! 何て事をするんですか!! ………つか、嘘って何ですかぁ?? ペロンっ!!」
パーカー男は地面に落ちる前に再び舌を伸ばして、また別の街灯に乗り移った。
「貴様は罪を償うと言っただろうが!!!」
ユウシャはまた街灯を破壊した。しかし、同じだ。パーカー男はまた別の街灯に乗り移る。
「『罪を償う』……ですかぁ? 私、そんな事言いましたっけ??」
「この野郎……」
「貴様ぁ……」
ふざけた口調でとぼけるパーカー男に向かって、セイギとユウシャは同時にキレた。
「「言っただろうが!!! 柏木ッッッ!!!」」
そう……
「ひぃ~~! 私の名前を叫ばないで! 恥ずかしいですよぉ!!」
パーカー男はホムラギツネ事件の際、人間でありながらも《王に選ばれし民》に手を貸した
「もう恥ずかしい! 恥ずかしい! こうなったら"消える"しかないですねぇ!!!」
柏木はニヤリと笑うと、その姿を変えた。
長い舌が口内からダラリと垂れて、ギョロリとした大きな目玉が目立つカメレオンに似た真っ白な姿へと……
さっきまで着ていたパーカーはこの姿を模した物だったのだろうか。大きな目玉が目立つその顔は、大きなパーカーのフードの様な物で、鼻から上はカメレオンなのだが、鼻から下は元々の柏木の顔が見えている。強い風が吹けばフードが捲れて隠れた柏木自身の顔が見えてしまうだろう。
だが、この姿をセイギもユウシャも長くは見れなかった。何故なら、バケモノの姿を露にした柏木は一瞬にして姿を消したのだから……
……しかし、柏木は気が付かなかった。透明になる前に自分の体にピンク色の光が纏わり付いた事に。
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