第5話 化け狐を追って 12 ―真田瑠樹―
12
ドーンッ………雷はまだ鳴り続ける。
―――――
山下から輝ヶ丘高校へ行くには中間地点として町の中心部を通らなければならない。
"真田萌音を追い掛けているつもり"の愛は、『いつまでも、いつまでも追い付けないな……』と思いながら、遂に町の中心部にまで来てしまっていた。
「う~ん……全然追い付けないんだけど。先輩……足速すぎだよ……それとも、私に教えてくれた以外の近道でもあるのかな?」
ボソボソと独り言を呟く愛は、辺りを見回しながら駅前公園に足を進めた。何故なら、駅前公園の中を突っ切って行く方が輝ヶ丘高校へ行くには近道だからだ。
この近道を愛に教えてくれたのも真田萌音、(厳密には、真田萌音が教えてくれたのは輝ヶ丘高校から山下へ向かう際の近道だが)だから愛はこの近道を選んだ。『きっと先輩はこの道を通って行った筈だ』と考えたから。
そして、駅前公園に入ると、愛は少し変わったものを見付けた。
「……ん? アレって?」
駅前公園は遊具のあるスペースと、ボール遊びやジョギングをするのに最適なフリースペースに分かれているのだが、そのフリースペースの方で何やら行列が出来ていたのだ。
その行列の先には、何台ものテーブルと、その上には大きな鍋が、幾つも……幾つも……
それを見た愛は語尾に疑問符を付けてまた独り言を呟いた。
「炊き……出し?」
愛にとって炊き出しは被災地のニュース等で見るくらいで、馴染みの光景ではないから、疑問符を付けてしまったが、それは明らかにそうだった。
「誰がやってるんだろ? ボランティアさん?」
愛は常々思っていた。『《王に選ばれし民》が現れてしまったこれからの時代は、人々が手と手を取り合って、助け合って生きていくべきだ』と。
目の前の光景はその思いが実現した様な光景で、愛は興味津々に行列に近付いていった。
すると、
「あ……スミマセン、輝ヶ丘にお住まいの方ですか? それとも"閉じ込められた方"ですか?」
行列の近くに立つ女性が愛に話し掛けてきた。
その人はビブスを着けている。おそらく炊き出しの関係者の人だ。
「え? あ、私輝ヶ丘に住んでますけど……」
愛がそう答えると、関係者の女性はこう言った。
「そうですか……それでは申し訳ないのですが、本日はご遠慮頂けないでしょうか」
「あ……はい。いや、私、元々貰おうとかそういうんじゃなくて」
愛は炊き出しを貰おうとは思っていなかった。その旨を伝えて女性に詳しい話を聞いてみると、この炊き出しは輝ヶ丘以外に住んでいて《王に選ばれし民》のせいで町に閉じ込められてしまった人達に向けたものらしい。
「なるほど、そういう事なんですね。教えて頂いてありがとうございます」
愛は詳細を教えてくれた女性に頭をペコリと下げた。
「そっかぁ……」
それから、愛は再び行列に視線を向ける。
― 先輩と同じで自分の家に帰れなくなっちゃった人達が……こんなにいるんだ
と考えながら。
そして、もう一つ。
― どうにかしてあげたい……何の罪もないこの人達が不自由な生活をしなきゃいけないなんて間違ってる! サッサと《王に選ばれし民》から輝ヶ丘を解放しないと! その為にも、私はサッサと先輩に会わないと!
「あっ!!!」
二つ目の考えが頭に浮かんで気付く。
― ……つか、ここで立ち止まってたらドンドン先輩に追い付けなくなるじゃん! 急がなきゃ!!
……と。
だから愛は行列から視線を外して前を向く。
しかし、
「ねぇ、アンタ、桃井さん?」
走り出そうとした愛に話し掛ける者がいた。
その声は、行列のすぐ近くに置かれたダンボールで作られたゴミ箱の方から聞こえた。
「ん?」
と、愛がその方向を向くと、
「あぁ、やっぱりそうだ。桃井さんだ」
その"子"は手に持っていた使い捨ての容器をゴミ箱の中にポトリと落とし、軽い会釈をして愛に近付いてきた。
「………ん?」
愛は一瞬、その子が誰なのか分からなかった。何故なら、一年振りに会ったその子は愛の記憶よりも少し大人になっていたからだ。
でも、
「あっ! もしかして!!」
昔からの顔馴染み。少し大人になっていても分からない訳はない。でも、一応愛は確かめる為に聞いた。彼の名前を。
「
そう……それは、真田萌音の4つ下の弟、真田瑠樹。
「はい、そうです。お久し振りです」
そして、彼は愛に向かってこう聞いた。
「桃井さん、姉ちゃん何処います? 会いたいんですけど、俺……」
ドーンッ………雷がまた鳴った。
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