第1話 血色の怪文書 20 ―卑怯者は逃がさねぇ!―

 20


「デヤァ!!!」


 セイギとユウシャとボッズーの戦いは続いていた。


 セイギはダーネと戦い始めてから、何度も『ジャスティススラッシャーを使おうか……』と悩んだ。


 ダーネは弱い、一撃の斬撃で倒せてしまう相手だ。ユウシャのレーザーを大剣で吸収し、ジャスティススラッシャーを放てば、大量のダーネを一発で一掃出来る事は明らかだった。


 しかし、セイギはそれをしなかった。何故なら、戦場が戦場だ。セイギ達の周りは住宅に囲まれているし、安全を図れて戦闘が始まった訳じゃない。ジャスティススラッシャーがもし人や家に当たれば一溜りもない事は明らか……


 だからセイギは大剣を振りに振りまくるしかなかった。

 幸いにしてダーネは、負け戦が明確な状況でも逃げ出すという選択が取れる程の頭脳は持っておらず、牧羊犬によって柵の中に追いやられる羊の群れの様に、セイギが仲間を倒し続ける場所に続々と集まってきていたから戦いやすいは戦いやすかった。



 そして、全てのダーネを倒した時、セイギは言った。



「あの怪文書を書いた奴がこの近くにいる筈だ……」



 と。


 ダーネと戦いながら三人は言葉に出さずとも共通の疑問を抱いていた。『コイツらが"木で出来た人形"でしかないのならば、怪文書を書いた人間は何だ?』と。

 深夜に起きた放火事件のニュースは三人とも見ていた。事件の裏にいるのは確実に怪文書を書いた人物だった。


「ニュースを見た時は、ソイツがバケモノになった姿がコイツだと思った……」

 地面にしゃがみ込むセイギは、ダーネの木屑を指先で摘まみながらそう呟いた。

「デカギライと同じで『また分身する奴か……』って思ったよ」


「しかし……どうやら違うみたいだな」


「あぁ、コイツらに怪文書を書く知性はないだろうしな、やっぱり裏にいるのは人形じゃなくて人間だよ。コイツらはただの操り人形で……なぁ、ボッズーどうだ?」

 セイギは空を見上げて聞いた。


「ダメボズよ……怪しい人間なんて何処にも見当たらないボズ」

 ボッズーは上空から町を見下ろしていた。でも、見えるのはダーネが起こした騒動に怯えた表情を浮かべる人達ばかり……


「そりゃそうか……もう逃げちまったよな、コイツらを倒すのに時間をかけ過ぎた。馬鹿だ、俺は。やっぱりジャスティススラッシャーを使うべきだったか……」


「いや、お前の判断に間違いはない。命の安全の方が大切だ……それよりも、今度の敵はデカギライよりも更に卑怯な奴みたいだな。こんな木偶の坊に時間稼ぎをさせて、自分はおめおめと逃げるとは……」


「あぁ……ちきしょう!! ムカつく!!」

 セイギは立ち上がった。強く、強く、拳を握って。

「逃がさねぇぞ絶対に! どんな卑怯な手を使ってこようが、絶対に逃がさねぇ!! 見付け出してやる、俺が……」


「いや、俺達が……だ」


「そうだボッズー!」


「へへっ! そうだな! 俺達が絶対に見付け出すッ!!!」


 正義は空に向かって拳を突き上げた。

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