第5話 俺とお前のオムライス 4 ―お前名前なんていうの?―
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「うわーー! めっちゃあるじゃん! これ何円分?」
礼儀知らずの正義は、袋をガッと開くと袋いっぱいに詰まった駄菓子を漁り始めた。
「そうだな、大体500円分かな」
転校生はさらっと言うが、正義は驚く。
「ご、500円!! なにそれスゲーー!! おまっ……金持ちかよ!!」
「いや……別に金持ちって訳じゃ」
と転校生は否定するが、正義からすればそうなんだ。だって500円なんて"大金"、今まで正義は手にした事すら無いのだから。
「スゲー! スゲー! つか、こんな量一人で食べる気だったの?」
「え? はは……ま、まぁ、でも俺が元々食べたかったのはコレだけさ」
そう言うと転校生は、袋の中に手を突っ込んで駄菓子を一つ取り出した。
「あっ! それウマイやつ!!」
「うん」
それはアダムスキー型のUFOに似た形の少しパサパサした生地のチョコドーナツ。
「コレを買う為に駄菓子屋へ行ったんだが、気付いたらこんなにいっぱい買ってしまっていた。あそこのお婆ちゃんが商売上手なのかも知れないけど、一番の理由は久々の駄菓子屋に興奮しちゃった自分だな」
「久々だったの?」
正義はウマウマ棒の明太子味の袋を開けた。正義が一番好きな味だ。
「うん。前に住んでた場所だと、家の近くに駄菓子屋が無かったしね。父さんがたまの休みに車で色々連れていってくれたから、その時に近くにあれば……って感じで、あまり行った事がないんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「うん。それにしても、さっきはすまなかったね」
「え? 何が?」
今度の転校生の謝罪は、ちゃんと正義の目を見て言われた。でも、正義には転校生の謝罪の意味がピンと来ない。
「君をここから出ていけみたいに扱ってさ……本当にすまなかった。こんなにいっぱい買ってしまったから、誰にも見られない所でこっそり食べようと思っていたんだ。だから、まさかの君に驚いて、あんな事を言ってしまった……」
「なぁんだ、そんな事か! 別に良いよ。俺だって、『なんでお前がここに来るんだ』って言っちゃったし。おあいこ。それにお前は俺に『出ていけ』って口では言ってないでしょ?」
「ふふ……でもそう思ってた」
「へへっ、俺も心の声でそう聞いた!」
「はは……心の声か。面白い事を言うな」
「へへっ! これさ、俺の母ちゃんがよく言うんだ。俺がさ『勉強したくなぁ~い』とか『風呂入りたくなぁ~い』とか思ってると、母ちゃんが俺に近付いてきて『心の声でそう言ってるのが聞こえたぞ! 早くやれー!』って!|へへっ!」
「ははっ! そうなんだ」
「うん! あっ……」
「ん?」
正義は突然ポカーンと口を開いて固まった。そんな正義を転校生は不思議そうに見詰める。
正義は気付いたんだ。自分の変化に。だからその変化に驚いて口をポカーンと開いた。
― 俺、コイツと喋ってると楽しい……
「ど……どうしたんだい?」
固まって動かない正義を心配した転校生が質問すると、正義は瞼をパチパチっと二回動かして、そして笑った。ニカッとした笑顔で。
「な……何だよ急に笑って」
「へへっ!」
正義は胡座を組み直すと転校生に向かって聞いた。
「ねぇ、もしかしてだけど、良い奴か?」
「い……良い奴? 何が?」
正義の言葉には主語が無かったから転校生は意味が分からず首を捻った。
「へへっ! だからぁ……」
正義はそんな転校生を指差す。
「……お前もしかして良い奴か?」
「え? お、俺が?な、何だよ急に?そんなの知らないって……」
転校生は恥ずかしそうに正義から視線を反らした。でも、正義はその横顔をジーッと見詰める。
「へへっ! そっか、じゃあ俺が決める! お前、良い奴だ!|なんかそんな気がする!」
「な、なんだよそれ……」
正義の強引な言い分に転校生は苦笑いを浮かべた。そして、その視線は再び正義の方へ向けられる。
「へへっ!」
転校生と再び目が合うと、正義はもう一つ質問をした。
「なぁ、お前名前なんていうの?」
「な、名前?」
「うん。俺さ、先週ずっとインフルエンザってので休んじゃってたから、お前が転校して来た日に居なかったんだ! だから、名前教えて!!」
「な……名前か」
転校生はやっぱり恥ずかしそうだ。モジモジして再び正義から目を反らす。
「なぁ、早く!」
「う……うん」
でも、急かされた転校生は意を決した様に、正義の顔を見詰め返した。
「俺の……俺の名前は、
「へへっ! そっか! ゆうき! お前、ゆうきって言うのか! へへっ! 俺は、赤井正義! ヨロシクな!!」
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