第3話 慟哭 16 ―正義の決意―

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 勇気の想像通りだった。正義は変えようとしていた、勇気の暗い表情を。いや、表情だけじゃない。それは、勇気の考えもだ。


 正義は分かっていたんだ。勇気の呼び出しが、決して明るいものではない事を。


 これまでの正義は、愛に勇気の事を聞かれた時『大丈夫!』そう即答していた。その言葉に嘘はない。何故なら、正義は勇気が《勇気の心》を持っている事を知っているから。だから『勇気は大丈夫!』そう答えた。『《勇気の心》さえあれば、勇気は英雄になれる。《勇気の心》さえあれば、どんな絶望の淵に立たされようが、勇気はまた立ち向かえる』そう信じていたから。


 でも、それは正義が信じているだけじゃダメだった。何よりも、勇気自身が自分を信じていなければならなかった。

 ボッズーは勇気に言っていた『自信を持て』と。力を与えられている正義には、その言葉の意味が感覚として分かる。『もし勇気が自分を信じる事が出来なくなれば、《勇気の心》の灯火は弱まってしまう……』という事なのだと。


 勇気が自信を喪失している事を正義が察したのは、それこそ勇気からの通信が届いた時だった。勇気はその事を口にはしなかったが、声色を聞けば正義にはすぐに分かった。


 そして、正義は勇気にもう一度自信を取り戻させる為に基地へと戻ってきたんだ。

 たとえ今は自信を失くしていても、勇気はもう一度立ち上がれる筈だと正義は信じているから。

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