第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 8 ―希望はゲームに夢中―


 8


「あっ! クソッ!! バカッ!! やれっ! あっ………あぁ!!! クソォ!!! また負けたよ!! アツガミバットめ! お前はもうアツガミバットじゃない! ポンコツバットだッ!! ポンコツバットに改名しろ!!」


 荒々しい声を出すのは誰なのか……


「バカ!! バカ!! バカ!! バカッ!!」


 ………それは、希望だ。


 自室の学習机に座る希望は、学習なんてせずにスマホゲームに夢中だった。


「バカッ!! マジで使えねぇ!!」


 敵キャラにボロ負けした希望は、子供特有の"覚えたての汚い言葉"を駆使して、自分が持つキャラを罵倒しまくる。


「チェだぜ!」


 苛つきを抑えるために希望は机の上に置いていたコーラを一口グビッと飲んだ。炭酸の爽やかさと強い甘味が心を癒す。


「プハァ!!! クソッもう一回!!!」


 希望はドンッとコーラの缶を机の上に置くと、スマホを片手に立ち上がり、部屋の反対側にあるベッドに向かった。


 ベッドの上にはさっきまで読んでいた漫画雑誌がある。それを『もうお前は用済みだ!』とでも言う様に片手でベッドの下に落とすと、希望はボディプレスが如くベッドの上に寝転んだ。


 天井を見上げ、「フゥー!」と一息。


 再び希望はスマホを構えた。左手でスマホを持ち、顔の前に持ってくると、右手は人差し指だけを立てて画面に添える。画面を睨む目付きは真剣そのもの、勝負を前にした男の目付きだ。


 希望が睨む画面に映るのは、全身紙細工で作られた様なペラッペラのコスチュームに身を包んだ男のキャラクターだった。コウモリの羽の様なマントを身に付けていて、羽を広げたコウモリのシルエットを模した"仮面舞踏会で着ける様な目元だけの仮面"を付けている。仮面の奥の目付きは鋭く、コスチュームも真っ黒で明らかに悪役という感じだ。


 そんな鋭い目付きで真っ直ぐに希望を見るキャラクターの下には、レベル、パワー、スピード……等のデータが表示されていて、キャラクターの頭上にはそのキャラクターの名前が表示されていた。



《仮面バイカーアツガミバット》



 そうだ、希望がやっているのは仮面バイカーのゲームだったんだ。そして、これがこのキャラの名前だ。子供に人気の仮面バイカーシリーズの最新作『仮面バイカーダンボールジョーカー』に出てくる"悪の仮面バイカー"。


 だけど、希望はこのキャラクターがお気に入りだった。だって……アイツの宿敵だから。大嫌いで大嫌いで仕方ないアイツの。


 アイツを倒すためにアイツが出てくるステージを希望は何度もチャレンジしてる。悪役を選択すればチャレンジ出来る特別ステージ。特別だから、勿論その分難しい。レベルは激ムズだ……でも、希望はアイツを倒したいから何度もチャレンジをするんだ。


「……ッ!!」


 希望は『今度こそ!!』と素早い動きでアツガミバットをタッチした。すると、『OK??』大きなテロップが画面に映し出された。

 それをまたタッチ。これがこのゲームの使用キャラの選択になる。


 希望がアツガミバットを選択すると、スマホから若い男の声が聞こえてきた。


『もう一勝負付き合えよ!!』


 アツガミバットの決め台詞だ。


 この決め台詞に答える様に希望も言う、


「おう! もう一勝負付き合えよ!! アツガミバット!!」


 ゲームはトップ画面に戻り、特別ステージにチャレンジするかどうかの選択肢が表示された。


 答えは勿論、YESだ。希望は人差し指で『YES』をタッチ。画面は一瞬黒くなって「loading……」と表示され、この文字が消えればゲームスタートだ。


 それから……


 真剣な目付きで人差し指を高速で動かし、希望はドンドンステージを進んでいく。特別ステージは全部で10ステージ、中間のステージで中ボスが出てくる。

 でも、やり込みまくりの希望からすればザコだ。あっさりと倒した。6、7、8と進んでく。

 9ステージ目は少し苦戦した。集中が切れ始めたんだ。希望は一旦ゲームをストップし、スマホを置く。


 目を閉じ、目頭を指でギュッと押す。そして、立ち上がり、机まで行くと再びコーラを飲んだ。


 炭酸の爽やかさと強い甘味が………………さぁさぁ、遂にラストステージだ。

 ラスボスだ。奴が出てくる。アツガミバットの宿敵でもあり、大嫌いで大嫌いで仕方のないアイツが……


「来い!! ダンボールジョーカー!!!」


 希望は宿敵に向かって叫んだ。


 ピンポーーーン……!!!


「ん?」


 希望の耳にインターフォンの音が聞こえた。

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