第1話 大木の中へ 7 ―ゴゴゴゴ……ドスンッ―

 7


「こっちです! こっち!」

 希望は基地の隅っこで立ち止まり、勇気達を手招きした。


 その場所はさっき希望が現れた木のすぐ近く。希望はその木に背中を向けて、基地の中心を見る形で立ち止まった。


「ここ?」

 希望の傍に立った愛が聞いた。


「はい! ここです!」


 と希望は言うが、どう見てもそこはただの平地。


「何かがある様には思えないが、確かにここなのか?」


 勇気の質問に、希望が頷く。


「はい! 見つけたのは凄く偶然なんですけどね。その時、僕そこの木と木の間から正義さんの戦いを見てたんです……」

 希望は後ろに生えるさっき隠れていた木を指差した。


 希望は『木と木の間から正義の戦いを見ていた』と言うが、この基地には壁が無く、壁の代わりに基地内を隠す様に木が生えている。その木々の間に入り込めば外が覗ける様になっているのだ。


「……それで、ピエロが出てきた時に僕驚いちゃって、基地の中に逃げようとしたんです。そしたら、躓いちゃってここに手を着いたんですよ。そしたらね……」


 そこまで話すと、希望は突然足で床をドンッ!と叩いた。


 すると、


 ゴッ……ゴゴゴゴゴゴ……


 希望が叩いた場所のそのすぐ先の床が、何やら揺れ出した。それは限られた範囲、目視で縦30cm、横1mくらい。


 始めは横に揺れていた。


 ゴゴ……ゴゴゴ……


 でも、すぐにその揺れは上下に変わる。


 いや、上には行かない下にだけだ。いや、ならば、これは揺れているのではない、沈んでいるのだ……


 数cm沈んではまた元の位置に戻り、更に深く沈んでは元の位置に戻り……その繰り返し。


 徐々に、徐々に、その深度は増していく。



 そして遂に、



 ドスンッ!!


 と音を立てて、床は完全に沈んだ。

 深さは15cm位。そして、今度は沈んだ場所の向こう側が動き出した。また縦30cm、横1mくらいの幅で。


「な……なんだよこれ??」


 正義が不思議そうにそう言うと、希望が答えた。


「すぐに分かります。ここからは早いんで!」


「早い?」


「そうです!」


 希望の言う通りだった。こっからはさっきのスピードの半分ぐらいの時間しか掛からなかった。


 何の時間か……それは簡単、沈むための時間だ。



 ドスンッ!!



 次に動き出した床が沈んだ。


 今度は深さ30cm。そして今度はその向こう側が動く。またまた同じ幅。そして、そこはすぐに沈んだ、45cm。


 またその向こう側が沈む。今度は60cm。次は75cm。その次は90cm……ドンドン沈む深さが増していく。


「これは……」


 今度は勇気が呟いた。


「これは……階段……」


「そうです!」


 希望が頷く。


「本当だ……隠し階段って事?」

 愛だ。


 そして、更に、更に、一段ずつ増えていく。


「へへっ! さっすが秘密基地って場所なだけあるぜ……面白れぇ! この先にさっきの果物があるのか?」


「ううん、それはもう少し先! 多分、ビックリするよ!」


 含みを持たせた言い方で希望は答えた。


「ビックリ……??」


「はい、勇気さん! きっと勇気さんもビックリする筈です!」

 そう言って希望は自信満々に腕を組んで階段を見下ろした。


「おいおい……勿体振るなよな、希望くん。早く言ってくれ」

 急かす勇気、でも正義は真逆だ。

「へへっ! 良いじゃねぇか勇気、俺はワクワクしてきたぜ! 何だか痛みを忘れられそうだ!」


「忘れられそう? 何を言っているんだ……痛みは痛み、こんな事で忘れられる訳がないだろ」


「へへっ! でもさっきより痛くないぜ!」


「それは、痛みに波があるだけだろ……」


 勇気は『やれやれ……』と言った様子で答えると、正義から視線を外し、再び階段を見下ろした。


 まだまだ階段は出現し続けていく。


 その階段を見る愛が呟く。

「これ……どこまで続くのかな?」


「ふふっ……それはね!!」


 その疑問に希望が答えようとすると……


「うぅっ!!!」


 突然ボッズーが呻いた。


「ん? どうした、ボッズー?」


 正義は後ろを振り向く。ボッズーは正義達四人を見守る様に少し後ろからついて来ていたのだが、今その顔は何故か"こしょばゆそう"な顔をしていた。


「ボ、ボッズー……どうしたんだ? 大丈夫か?」

 勇気が聞くと、


「う……うん大丈夫ボズ!! ちょ……ちょっと……ゾワゾワ……ゾワゾワがぁ!!」

 そう言いながらボッズーは体を震わせた。


「あ……もしかして」

 どうやら正義は気付いた様だ。ボッズーに何が起こっているのかを。


「ハッ!!!」

 全身をブルブルと二、三回震わせたかと思うと、ボッズーは突然『ハッ!!!』と何かを"思い出した顔"をした。そして、"思い出した顔"をしたかと思うと、突然ピューンと飛んで希望のもとへ。

「ちょっと良いボズか?」

 そう言って希望の肩に止まる。その顔はもう真剣な表情になっている。


「どうしたの、ボッズー?」

 希望もボッズーの挙動に驚いて問い掛けた。


「希望、この階段、次で終わりだろボッズー?」


「えっ!! なんで? なんで分かったの??」


 希望が驚くと……



 ドスンッ!!



 何度目かの床が沈む音が聞こえた。


 しかし、その後に続く床の揺れが始まらない。


「うぇ? 止まった……のか??」


「そうだボズよ、正義。これで最後ボズ」


 希望の肩に止まりながらボッズーは、正義、勇気、愛の三人に振り向いた。


 そして……


「これからこの階段を降りるボズ。この先には扉がある。そうでしょ? 希望?」


「う……うん。なんで分かるの?」


「へへっ! それは秘密ボズ!」

 ボッズーは人差し指を上げて希望に向かって『シーッ』と形を作った。

「勇気と愛の二人には後で訳を話すからなボズ。正義、お前は分かるよな?」


「え……? あぁ、勿論!! へへへっ!!」

 ボッズーと過ごす時間の長かった正義にはピンっと来ていた。ボッズーが"分かった"事が。

「んで、この先には何があるんだよ?」


 そう問い掛けられたボッズーは、

「それはだなぁボズ……この先には《願いの木》があるボズよ!」

『ふふふん』と笑いながらそう答えた。


「願いの木?」


「なんだそれ?」


「また、木があるのか?」


 肩を並べた正義達三人は、愛、正義、勇気の順でドミノ倒しの様に首を傾げた。

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