第2話 絶望を希望に変えろ!! 20 ―秘密の約束―

20


「う……うん」


 少年が何故こんな真っ白になっているかというと、それはタマゴとの約束があったからだ。タマゴは工場で言っていた。『相手が人間ならお前はそのままの姿で戦わなきゃいけない』と。だが、少年はリーダー格の男と対峙する時に、あの不思議な白い大剣を使ってしまった。

 あの時の少年には一切迷いは無かった。だって、あの方法しか無かったのだから。だから剣を使った事に悔いはないし、『男の子を守るためだ!』と胸を張って主張も出来たろう。


 しかし、


― 約束を破ってしまった……


 それも事実だ。剣を使った事に悔いはないと思っていても、事実は事実だ。

 しかも、この"約束"は『男に対して剣を使わない』という事だけじゃない。もう一つの意味も含まれていた。それは『少年が不思議な力を持っている事を秘密にする』という内容だ。

 この約束は少年が小さな頃から、タマゴに口うるさく何度も何度も散々言われてきた約束で、更にいえば今まで最重要視してきた約束だった。

 しかし、究極の事態を避ける為だったとはいえ、約束の日の当日にその約束を破ってしまった事実を考えると、少年の顔は白くなっていく。



 しかし、タマゴからの返答は……



「そか、斬ってないのよな?」


 意外と軽かった。


「え?」


 返答の内容は予想通りの確認ではあったが、その言い方だ。その言い方が軽かった。まるで、


『今日の夕飯なに?』


『カレー』


『そか』


 こんな感じだ。


「う……うん」

 少年は驚きながらもその質問に答えた。

「……斬ってはない。勿論だ。ただ、あの銃をどうするかって考えたら、剣を使うって答えしか出せなかった。勿論、銃を取り上げたらそれ以上は素手でやったよ。でも、ホントにごめん……"今日"になって、俺が英雄だってバレる様な事をやっちまった。ずっと守ってきた約束を破っちまった……」


 少年は肩に止まるタマゴの目を、真摯な眼差しで見詰めた。


 その少年の言葉に対してのタマゴの返答は


「そか」


 またこれだった。


「え……それだけ?」


 少年はまた驚いた。


 だが、タマゴのこの『そか』という軽い返答には訳があった。


「トドメに剣を使わなかったなら良いボズ! アレは人間に使っちゃいけない力だからなボッズー。それよりお前が生きててくれた事が俺には一番だボズよ。まぁ確かに、お前が力を持っている事は本当は秘密にしなきゃいけないから、使わないのがベストだけど、銃は想定外だボッズー。さっきのは緊急事態! 俺だって使ってただボズよ! つか、伝えとけば良かったなボッズー『剣を使え!』って! だから気にするなボッズー!!」

 タマゴは小さな手で少年の頭を慰める様にトントンと叩いた。

「ハハハッ!」

 そして、タマゴは大きな声で笑った。


「そうかぁ……」

 そんなタマゴの笑い声に動揺しながらも、その優しさに少年は感謝した。

「ありがとう」


「ハハッ! でも、これからも人間のお前が力を持っている事が秘密なのは変わらないぞボッズー」


「あぁ、分かってる!」



 と、二人が話していると……



「ねぇ??」


 男の子が割って入った。


「へ?」


「ん?」


「「あ………!!」」


 この時、二人は気が付いた……



 もう一人、二人の秘密を知る者がいる事に……



「あ、ああぁ………っと!!」

 少年は純粋な目で自分を見詰める男の子の顔を見ると、頭をポリポリと掻き出した。頭を掻くのは少年が考え事をする時の癖だ。考え事をしているという事は、困っているという事。

「あぁ……っと、あ、あのさ!」


「ん? なにぃ?」


 男の子は少年の顔を見詰めながら、一歩前に踏み出した。


「俺達、俺達……さぁ、色々! 不思議な事をしたと思うんだけど!! それ、それさぁ……」


「ふふっ……」


 男の子は笑った。小さな微笑みで。そして、


「うん!」


 コクリと頷いた。


「分かってるよ! 秘密なんでしょ? 全部聞いてた! だから僕、その事聞こうと思ったの。僕、お兄ちゃん達の事、誰にも話さない方が良いよね?」

 どうやら二人の会話は男の子にも聞こえていたみたいだ。


「え……あっ! そう! そうそう!! 言わないでほしいんだ!!」


「うんうん! そうそう! 俺達の事は秘密にしてほしいボッズー!」


 二人は真剣な表情で男の子に頼んだ。


「ふふふ」

 男の子は真剣な二人が何んだか面白く思えたのだろう。ニコッと笑った。

「分かってるよぉ! 信用して! 僕、絶対誰にも話さないから!!」

 そして、自分の胸をドンッと叩く。

「警察の人にも言わないつもり! 何か聞かれても、知らない人が助けてくれたってそれだけ答えるよ!」


「本当?」


「本当ボズか?」


「うん! 絶対! だって二人は僕にとってヒーローだもん! 僕は、僕のヒーローとの約束を一生守り続けます!!」

 そして、男の子は少年の笑顔に似たニカッとした笑顔を見せた。


「へへっ! そっか!」


「ハハッ!」


「「ありがとう!!」」


 少年とタマゴは声を合わせて感謝した。


「うん! 絶対守るから大丈夫だよ!」


「ありがとな! 助かるぜ!」


「うん! 感謝しか無いボッズー! あっ! そうだ、そうだ! お礼としてもう一回お空に飛ぶのはどうだボズ?」


「えぇ、良いよ。内緒にするのが僕のお礼なんだから、お礼にお礼って」

 と、男の子はタマゴのお礼を断ろうとしたが、

「あっ……!」

 喋っている途中で、何かを思い付いたのか、それとも思い出したのか……そんな顔をした。


「ん? どうした?」


 少年が聞くと、


「ううん、なんでもないよ」


 と誤魔化そうとする。でも、その顔は明らかに何かを考えている。


「何だボズ? 何でも言ってくれボッズー! 遠慮すんな!」


「そうだよ、言え言え!」


 タマゴと少年がそう促すと、

「う……う~ん」

 男の子は申し訳なさそうな顔をして

「じゃ……じゃあ、一個だけワガママ言っても良い?」

 と人差し指を上げた。


「ワガママ?」


「ワガママだボズか?」


「うん……僕を輝ヶ丘の大木まで連れていってほしいんだ?」


「輝ヶ丘の……」


「……大木だボズか?」


 少年とタマゴはまるでリレーをする様に言葉を繋いだ。そして、二人は目を見合わせ、


「へへっ!」


「偶然だなボッズー!」


 笑い合った。


「え? ぐう……ぜん……?」


「あぁ、超偶然!」


「偶然にも程があるボッズー!」


「え? なに?」

 訳が分からないんだ。男の子は首を傾げた。


「へへっ!」

 そんな男の子に向かって少年はニカッと笑う。

「実はな、俺達もあそこに行こうとしてたんだよ! 輝ヶ丘の大木に!」


「えっ!! 嘘ぉ?」


「ううん! 本当ボズよ!」


「へへっ!! だからさぁ」

 笑いながら少年は男の子の背後に回り込み、男の子を後ろから抱き締めた。飛び立つ準備だ。

「御安い御用だって事だよ!!」



「うん! そうだボッズー!!」


「へへっ! なぁ二人分だぜ、ちょっと重いけど落とすなよ!」


「分かってるだボズよ! 大丈夫、大丈夫! んじゃ、行くボズよ!!!」


 その少年の背中をタマゴがガシッと掴んで、



「ワハッ! ヤッターー!!」


「へへっ!!」


「んじゃ、輝ヶ丘の大木に向かって出発だボッズー!!」



 三人は大空に向かって飛び立った。


――――


「あ、そう言えばさっきお兄ちゃん達が話してたバケモノの話って」


「あ……そ、それはさぁ」


「ふふっ! 分かった! 内緒だね! OKっ!!」

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