第3話 空が割れた日 7 ―あれは何?UFO?―

 7


「ボッズー、行くぜッ!! 決めるぜッ!!!」


 ガキセイギは腕時計を叩いた。

 叩くと文字盤が開き、中からは白い柄が飛び出す。

 柄を握り、抜き取ると、翼の形をした白い刃を持つ大剣が現れる。


「セイギ、全速力で行くでボッズーよ!!!」


 その背中にはボッズーが飛び付いた。

 ボッズーは両手両足を使い、ガキセイギの背中に掴まると雄々しく叫ぶ、


「変形! ビュビューンモード!!」


 それもまたに向けての叫び。

 叫ぶとボッズーの小さな翼は大きく広がる――その翼にが起こる――二本の翼は上下に分かれ、四本になり。バサバサと羽ばたけるしなやかだった翼は、ジェット機の翼に似た硬質な物に変わった。


「セイギ、 跳べボッズー!!」


「ヨッシャア!!!」


 ガキセイギはボッズーから合図を受けると力いっぱいに地面を蹴り、大空に向かって跳び上がった。

 英雄の姿になった赤井正義の身体能力は常人を超える。力強く跳び上がったその姿はロケットの様だ。


「行くぞぉボッズーッッッ!!!」


 ガキセイギが跳び上がると次に動くのはボッズーだ。

 ボッズーは上下に分かれた四本の翼を作動させた。"上の翼"には風を吸い込む機能がある、"下の翼"はその逆だ。

 ボッズーは"上の翼"にビュービューと風を吸い込み、"下の翼"で噴き出した。その威力はジェット噴射が如く。凄まじい勢いの風に乗って、二人は大空を高速で飛ぶ、目指すは空に生まれた紅の穴。



 そして、時は進む……


 勇気と愛と通信を取ったその直後へ――



「う~ん、ブルブル……寒いボズなぁ!!」


「寒い? そんな訳ねぇだろ、空なら太陽に近くなるから暑いぞ!! 実際、俺は汗だくだぜ!!」


「違うボズ、これは"ゾワゾワの記憶"だボズ!! 空に開いた穴から出てきた光体が、お前にも見えてるだろ? アイツ等の記憶を思い出したんだボッズー!! ……アイツ等の名前は《シードル》、悪の王が使役する存在。人間の悪意を利用し人間自体を変化へんげさせる《バケモノ》とは違って、生粋の《王に選ばれし民》の操り人形だボッズー!!」


 紅の穴からは目映い白い光を放つ光体が現れている。その光体を見ながらボッズーは言った。


「操り人形か……人形のわりには楕円形で花の種みたいだけどな。って、んな事はどうでも良いな、俺もアイツ等の事なら知ってるぜ。アイツ等はこのあと輝ヶ丘を、いや世界中の国々を破壊し尽くす! 俺は六年前からそれを知っている!」


「そうだな! 俺も知ってるボズ!」


「絶対阻止するぞ!! 悪の王の前にアイツ等を、シードルをぶっ潰す!! ボッズー、突っ込め!!!」


「ほいやっさ!」


 ボッズーとセイギは紅の穴から、四体の群れで現れた光体=シードルに矛先を変えた。


 ―――――


 光体=シードルは輝ヶ丘を見渡す様にゆっくりと回転を始めた。それは品定めでもしているかの様で『何処にしようか、何処から破壊しようか』そんな聞こえもしない声が聞こえてくる。

 全身から白い光を放つシードルには、目も無ければ顔も無い。形は楕円で、花の種に似たフォルムをしている。その尖った先端から視覚を得ていると認識してしまいそうになるが、実際には分からない。

 実体があるのかも怪しい。目に映る姿だけをいえば、光の塊でしかない。


 そんな怪奇な存在に、輝ヶ丘の住民達は本能的に恐怖を覚えた。


 しかし、それにしても、やはり……

 恐怖を感じたとしても、非現実的な存在を目の当たりにした人間は驚愕から思考停止になってしまうのか、シードルを目撃した人々はただ唖然とした表情で固まり、逃げようとはしなかった。


 いや、人々の唖然とした表情の中には、思考の色も見える。ならば、思考が停止しているのではなく、逆に思考が錯綜し過ぎて取るべき行動が何か、その答えが出せずにいるだけなのかも知れない。



 ………アレはなに? UFO?



 ………本物? いや、嘘でしょ?



 ………CG? 違う違う、そんな訳ない



 ………どうした方が良いの? 逃げた方が良い?



 住民達の頭の中ではこんな思考が巡っていたのではなかろうか。



 その時、誰かが叫んだ――



「皆、逃げろ!! シェルターに行くんだ!! ここに居ては危ない!! 逃げるんだ!!」


「立ち止まらないで、逃げて!! 早く!!!」



 ――それは二人の男女。


 輝ヶ丘高校の制服を着たその二人は、避難を呼び掛けながら人々の間を駆け抜けていった。


「シェルター………」


 二人の声を聞いた男性が声を発した。今まで光体の動きをただ見ているだけだったその男性は、二人の声を聞くと我に返った表情になって、走り去る二人の背中を視線で追い掛けた。


「シェルター……そうか、シェルターか!」


 走り去っていった二人の呼び掛けによって、自分が取るべき行動が何なのか気付いた男性は、

「皆、逃げましょう! こんな所にいても仕方がない、シェルターに急ぐんです! 早く、早く!!」

 大きな声で周りの人々にも呼び掛け始めた。


 これが、スイッチとなった。


 この男性の呼び掛けが第一波となって、その波は輝ヶ丘全体へと広がっていく事になる。


 輝ヶ丘高校の時と同じだ。


 再び、愛と勇気の呼び掛けが避難の波を生み出したのだ。


 ―――――


 住民が避難を始めたとほぼ同時、街を見渡す様にゆっくりと回転していた四体のシードルの内の一体が動きを止めた。


 やはり、シードルは尖った先端から視覚を得ているのかも知れない。何故なら、動きを止めたシードルが先端を向けた先には、快晴の空を飛ぶ真っ赤な飛翔体がいたからだ。


 そして、シードルは震え出す。

 最初はブルブルと小刻みに、しかし暫くもしない一瞬で、残像を残す程にその震えは激しくなっていった。

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