第2話 絶望を希望に変えろ!! 13 ―鼻先1cm―

13


 ギィーと軋む扉が開いた瞬間、少年は目に入った光景に驚いた。

 天井から差し込むスポットライトが一つから二つに増えていたからだ。


 二つ目に空いた天井の穴は、少年がリーダー格の男に連れ込まれた部屋の近くに空いていた。


 少年はその二つ目の穴を見上げながらボソリと呟いた。

「やっぱり君が言う通り……アイツがまた穴を空けたみたいだな」


「アイツ?」

 男の子は首を傾げた。


「あぁ、俺の友達だよ。さっきちょっと話したろ?」


「とも……だち……?」

 男の子は不思議そうな顔をして天井の穴を見上げた。

 そりゃそうだ、『天井の穴を空けたのは友達』と言われたって『どうやって?どんな友達?』と思うのが普通だろう。


「あぁ、そうだぜ。スゲー奴なんだ、でも……」

 少年は男の子にそう答えながら、二つ目の穴の下へと男の子を抱いたまま移動した。

「それにしても、アイツいったいどこに行っちまったんだ?」

 少年は辺りをキョロキョロと見回した。


 工場の外へと通じるシャッターの方に体を向けて、外を覗いてみてもタマゴの姿は何処にもない。

 シャッターから差し込む光と、二つになった天井の穴から差し込むスポットライトの様な光が、工場の暗闇を和らげてくれてたから、少年が立つその場所から入り口のシャッターまでは暗闇に慣れた少年の目だと完全に見渡せた。


「いないなぁ……」


 少年がそう呟いたその時、二人を照らすスポットライトの光を何かが遮った。


「ん?」


 少年と男の子が天井を見上げた時、何かが穴を通って工場の中へと入ってきた。

 その何かが光の中に影を作っていたのだ。


「おっ? ……アレは」


 逆光でその顔はハッキリとは見えない。だが、大きな翼を広げた姿形は明らかにタマゴだ。

少年はその事に気が付いてタマゴに声を掛けようとした。だが、タマゴの方はこちらに気付いていないみたい。ミサイルの様にタマゴの殻の先端をこっちに向けながら猛スピードで飛んでくる。


「え! 何アレ!」

 男の子は驚いて声をあげる。少年の背中に回した手にグッと力が入った。


「え………うわぁ! ちょっ……ちょっと!!」

 少年も驚いた。だって、タマゴはまるで二人に突進するかの様に飛んでくるのだから。

「待てっ! 止まれ! 止まれってッッ!!」

 少年はタマゴに向かって叫んだ。


「ん?」

 その声が届いたのか、タマゴが顔を上げた。

「え???」

 タマゴの顔に"?マーク"が浮かぶ。

「はぅわっ!!!」

 やっと気付いた。一拍の間を置いて、タマゴは少年にやっと気付いた。だが、猛スピードはそう簡単には止まれない。

「ヤバヤバヤバーーーー!!!!」

 奇声をあげて、目をひん剥いて、キキーッ!タマゴは急ブレーキをかけた。


「うぅぅ!!」


「………ッ!!」


 そんなタマゴとは反対に、少年と男の子は目を瞑る。


 ………。


 …………。


 ……………。


 沈黙の三秒間。何も起きない。少年と男の子は瞼を開いた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 すると、タマゴは少年の鼻先に後1cmの所で止まっていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 再び、沈黙の三秒間。

 少年とタマゴは荒れた呼吸で見詰め合う。


 そして、最初に口を開いたのは

「あっ!! あぁ……」

 タマゴだった。タマゴはクチバシをパクパクと動かす。でも、驚き過ぎているのかそこから先の言葉が出ない様だ。


「ど……どうしたんだよ? そんなに慌てて、こっちは成功したぞ! ほら、早く逃げるぞ!」


 少年が言った言葉を理解したのかしてないのか、タマゴの視線が動く。

「せ……成功?」

 と少年の顔から視線を斜め下に向けた時、やっとタマゴは男の子の存在を確認したらしい。

「あぁぁぁぁ~~~~!!!!」

 タマゴの情緒は狂っているのか、男の子の存在を確認すると、今度は泣き出しそうな顔になって叫び出した。

「良かったぁぁぁ! 良かったボッズぅぅぅ!!!! 助かったんだボッズーねぇぇぇぇぇ!!!」

『泣き出しそう』ではなかった。大号泣だ。タマゴの大きな目からダムの水が放流される様に涙が流れ出てきた。

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