第2話 絶望を希望に変えろ!! 4 ―ミルミルミルネ―

4


「ふぅ~……ここなら良いんじゃないかボッズー」


 タマゴはそう言って、ゆっくりとボンから足を離した。


「こいつ、本当よく寝てるボズ。全然目を覚まさないボッズー。でも、暫くはそうしてた方が良いぞボズ。大人しくしとけば、俺達が脱出する前にちゃんと降ろしてやるからなボッズー。でももし、その前に起きちまったら……ひぇぇぇぇ~ドキドキだボッズー!!」

 タマゴは寝ているボンの真上でブルブルと体を震わせた。


 タマゴの言う通り、ボンは本当によく寝ている。ヒンヤリと冷たい工場内に出ても目を覚ます気配はなかった。

 だが、今からのボンはもっと良く寝ていた方が良いだろう。

 目を覚まさない方が懸命だ。

 だって、タマゴがボンを置いた場所は工場の屋根のすぐ下を走る鉄の梁の上なのだから。

 もしボンが目を覚まして『ここはどこだ?』と少しでも体を動かしてしまったら、きっとボンはコンクリートの地面に向かって真っ逆さまに落ちてしまうだろう……


 何故、こんな場所にタマゴはボンを置いたのか、それはタマゴがこの場所に用があったからだ。いや、この場所というか工場内を見渡せる"この高さに"だ。

 この高さならばフクロウの様に首を左右にグルリと回せば工場内を全て見渡せる。

 まあ、タマゴはフクロウの様には首を回す事は出来ないけども。だが、この場所でタマゴは捕まっているもう一人を探すつもりなんだ。

 しかし、工場内が真っ暗なのは忘れてはいけない。こんな暗闇の中でどうやって探すつもりなのか、それはさっき少年が言った言葉を思い出してほしい。


『お前の"目"を使って』


 そう、タマゴの"目"にかかれば工場内の暗闇など屁でもない。捕まっているもう一人を探す事など容易だ。


 タマゴはボンを梁の上へと置くと、早速と動き出した。


「コレ、疲れるから本当はやりたくないんだけどねボッズー……」

 そう言いながらタマゴはボンのすぐ横に降り立つと、工場内を見下ろした。

「でも、約束は約束ボズ。バニラの為に頑張るんだボッズー! いや……世界を救う為だボッズー!」

 タマゴは「はぁ!」と大きく息を吸い込むと、「むむむ……」と眉間に力を入れて、黄色の瞳で工場内を睨んだ。


「ぐぬぬぬぬ……!!」


『更に更に、もっともっと!!』……とタマゴは力を入れ、次第に口もへの字に曲がり、殻の下から少し見える額にはピキピキと太い血管が浮かんだ。


 すると、どうだろうか、タマゴの大きな黄色い瞳に変化が現れた。

 真ん中の黒目はそのままに、その黒目から瞳全体へ広がる様に瞳の色は黄色から青色へと変わっていった。

「ぐぐぐぐぐ……!!!」

 タマゴはまだまだ力を緩めない。

 ドンドンドンドン青色は広がっていく。


 そして、一分もかからずにタマゴの瞳は完全に青色へと変わった。


 その青い瞳で工場を見回し始めたタマゴは

「ん?」

 と小首を傾げて一画に目を留めた。

「………ッ!!!」

 息を止めて更に力を入れる。

 晴天の空の様な青さが、より濃くなってネイビーブルーへと変わる。

 額に浮かんだ血管もドクドクと脈打つ。


 睨む、睨む、睨む………


 もっともっと! と睨む……


 そして、暫くして「ぷはぁ……!!!」と大きく息を吸い込むと、タマゴは一気に力が抜け、まるで枯れた花の様にだらけた。


「やれやれ……ボズ。こりゃ三個じゃちと足りなかったかもなボッズー」

 タマゴは「ふぅ…」と息を吐き出すと

「聞こえるか……ボズ?」

 何者かに向かって呼び掛けた。


 すると何処かからか声が聞こえた。

「どうだ? 何か分かったか?」

 少年の声だ。

 タマゴの呼び掛けに答えた少年の声は囁く様にとても小さい。

「うん……分かったぜボズ……疲れたでボズよ」

「ごめん、ありがとな。助かるぜ。で、どうなんだ何処に居るんだ?」

「ちょっと待ってろ、分かりやすいように今からそっちにも送るからボッズー」


 そう言うと、タマゴは目を閉じた。

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