ガキ英雄譚ッッッッッ！！！！！～世界が滅びる未来を知った五人の少年少女はヒーローになる約束をした～

第一章 正義の英雄の帰還 編

第１話 約束の日は前途多難

第1話 約束の日は前途多難 1 ―少年とタマゴ―

　―世界の終わり―

　世界が滅びを迎えたその日、最後に残された男の頬に一筋の涙が流れた。

『何も出来なかった……』

『見ている事しか出来なかった……』

　太陽の光も、星の煌めきも失われ、全てが消えた世界で、枯れ果てた筈の涙は何を意味するのか。

　絶望か、哀しみか、それとも懺悔か……

　その答えを知った時、

　男はゆっくりと瞼を閉じた。

　終幕の鐘が鳴った"あの日"から、開き続けた瞼を。

　遠い昔に別れた友を思い出しながら、

　永遠の眠りをもたらす者を求めて、

　世界を滅ぼした己に、恨みをこめて……

　―――――

　―始まりの日―

　六年前、まだ小学五年生だった俺は不思議な男の子と出会った。

　その男の子は突然降った大雨の中、輝ヶ丘（かがやきがおか）の大木の下で寂しそうに座っていた。

　輝ヶ丘の大木とは、俺の故郷、《輝ヶ丘（かがやきがおか）》にある大きな大きな木の事だ。

　大木は街の南側にある山の中腹に立っていて、それはそれは大きな木だから、街のどこからでもその姿を見る事が出来る。

　街の人達からは「守り神様」と呼ばれていたりもする。

　当時の俺は、公園で遊んでから、駄菓子屋へ行って、それから大木の立つ高台で遊ぶ……そんな毎日を繰り返していた。

　その日も俺は友達と一緒に高台に行った。「んじゃ、鬼ごっこでもしようか！」なんて話していると、天気予報でも言ってなかった突然の大雨が降り出した。

　慌てた俺たちは雨宿りをしようと大木の下に駆け込んだ。

　そして、男の子と出会ったんだ。

　友達と一緒だったのだから、ひとりじゃない。

　いつも一緒に遊んでる同級生の青木（あおき）勇気（ゆうき）と、幼稚園からの幼馴染の桃井（ももい）愛（あい）、学年は違うが不思議と気が合う黄島（きじま）夢（ゆめ）、最後に弟みたいに可愛がっていた一番年下の緑川（みどりかわ）優（まさる）、いつもの仲間と一緒だった。

　その男の子は初めて見た子だったから、はじめは誰も話し掛けようとはしなかった。けど、その子があまりにも寂しそうな顔をしていたから、俺は話し掛けてみる事にした。

　話し掛けてみると、俺たちはすぐにその男の子と友達になれた。友達が増えると俺達はうずうずしてきてしまって、雨宿りをしていた筈なのに、気が付けば雨も気にせずに鬼ごっこをして遊んでいた。

　それから……

　ひとしきり遊んだ後、男の子は不思議な事を俺達に言ったんだ。

「6年後の2月15日の17時、空が割れ、世界に破滅をもたらす王が現れる」

　……と。

　―――――

 第1話　『約束の日は前途多難』　1　―少年とタマゴ―

　6年後――

　2月15日――午前8時。

　空を見上げれば、どこまでもどこまでも飛んでいけそうな雲一つない青空が広がっている。連日快晴が続いていたが、今日ほどの日はなかった。路地裏に隠れた野良猫たちも今日だけは表に出てきてうたた寝をしたくなる、そんな日だ。

　青い草の匂いがツーンと鼻に抜ける河川敷の原っぱに、澄んだ青空を抱き締めようとするかの様に大きく手足を広げて少年が寝ていた。

　少し茶色かかった髪が風になびき、少年の瞼に触れる。色白で整った顔には微笑みを湛えている。

　少年が着た赤色のダウンジャケットにも風でなびいた草がサラサラと触れる。季節はまだ二月、少年の着たダウンジャケットの下は白いTシャツに着古したジーンズ。他人からすれば少し寒々しく思うかもしれない。

「いつまで寝てるんだ……起きるんだボズぅ」

　イライラした様子で甲高い声が少年に囁いた。

「う……うぅ～ん。分かってるよ……時間には間に合うってぇ」

　少年は唸ると、眠そうな目を開く。

「信用出来ないね！ いつもそうやって遅刻だボッズー！ 約束の時間は17時なんだぞボズぅ！」

「大丈夫だよ……今のところ一分一秒計算通りだよ！！」

　少年は瞼を擦り、勢い付けて起き上がった。

「計算出来る頭があればだけどねボッズー！」

「へいへい、大丈夫だって言ってんだろぅ。へへっ！」

　少年はふかふかに繁る原っぱにあぐらをかくと、大きく口を開けてニカッとした笑顔を見せた。

　その瞬間、透明感のある整った顔立ちに無邪気さと幼さが纏われる。

「やれやれ……前途多難だボッズー」

　甲高い声の主――少年の友達は、少年の能天気とも思える笑顔に呆れたのか頭をポリポリと掻く。

　その手は小さい。手だけではない、その体もまた小さい。30㎝あるかないか。

「今、何時だボッズー」

　小さな友達は少年の膝を叩いた。

「う～んと」

　少年はジーンズのポケットからスマホを取り出した。

「まだまだ8時になったばっかり、間に合うぜ！ 大丈夫！ 大丈夫！！」

「本当かボッズー？」

「そうだって言ってんだろぅ！」

　そして、少年の膝を叩いた手は不思議な形をしていた。それは翼に似た形。普通の鳥が翼を広げた時に一番先端にくる場所にオマケかの様に小さな手がついている。

「むぅ～～ん」

　翼の手を持つ友達は少年の言葉に納得しないのか、顎に手を置き、唇を……いや、クチバシを歪めた。

　少年の友達は、翼の形の手を持っているだけではなく、体全体が鳥に似ているのだ。二頭身な大きな顔には白い羽根が生え、大きなクチバシを持ち、フクロウの目に似た大きな瞳も持っている。下半身に目を向ければ、その足はアヒルの足の形をしている。

　その体色は殆どが白だが、羽根のない、クチバシ、瞳、足、この三つの部分だけが黄色い。

「へへっ！ 俺を信じろっての！ 約束の17時までには絶対に間に合うから！！」

　少年はニカッと笑いながら鳥に似た友達の頭を撫でた。

　友達の体は白い羽根に覆われているが、頭を撫でてもその手触りはフサフサとしていない、友達の頭はつるつるとしているのだ。

　何故なら、友達はその頭にタマゴの殻を被っているから。上下に割れた真っ白なタマゴの殻を、一つは頭に被り、もう一つはパンツの様に履いているのだ。

「信じてはいるだボズよ……ただ、前途多難な予感がするんだボッズー」

「お前は本当に心配性だなぁ。ネガティブ過ぎると、マジで失敗すっぞ！！」

「ぺゅぅ！！ 縁起でもない事を言うなボズぅ！！」

「いてぇ！！」

　タマゴを被る鳥に似た友達は、鳥に似ているのだから勿論背中にも翼を持っている。背中に生えた小さな翼で飛び立ち、少年に頭突きをくらわせた。

「お前、マジで石頭だな！」

「石頭じゃないボズ！！」

「へへっ！ 石頭だよーー！！」

　少年は頭突きをくらった額を擦りながらニカッとした笑顔を浮かべ、タマゴか鳥かの友達を両手で抱いて立ち上がった。

「無駄話はもういい！ そろそろ行くぞボッズー！！」

「へへっ！ 分かってるよ！！ んじゃ、行こうか！」

　少年は河川敷の隅に止めていた赤い自転車まで走るとカゴの中からリュックを取り出し、その中に"タマゴ"な友達を入れた。

「ぺゅぅ！！ 雑にするな、痛いだろボッズー！！」

「へへっ！ ごめん、ごめん！ んじゃあ、行くぜ！ 約束の場所、輝ヶ丘（かがやきがおか）へ！！！」

　少年は自転車に跨がり、"タマゴ"と共に青空の下を駆け出す。

　遠い日に誓った約束を果たす為に。

　―――――

　東京都、東都市（とうとし）、輝ヶ丘（かがやきがおか）――

　そこは数十年前の再開発によって、住宅、交通、興行施設を兼ね備えられた、俗にいうニュータウンだ。

　しかし、特別な事はなく、日本の何処にでもある普通の街である。

　都心より少し離れてはいるが、交通の便もよく「住みたい町ランキング」というものにも毎年選ばれる場所でもある。

　街に住む人々を見守るように、緑が繁り、山もある。自然も豊かな街だ。

　そして、この街には創立二十年を迎える「輝ヶ丘高等学校」がある。

　元々は街に住む子供たちを入学させるのが狙いの高校であったが、三年前に校長が変わり教育にも力を入れ始め、まだ進学校とは言い難いが、国立大にも現役で合格する生徒を出せるようにもなっている。

　ここに通う一人の女子生徒がいた。

『桃井愛』

　それが、彼女の名前だ。

　少し小柄な彼女は、本来であれば大きな瞳の美しい顔をしているのだが、今は浮かない表情。

　少し下を向いて歩いている。

　俯き加減で歩いてはいるが、その足取りは急いでいる。前髪を少し残して後ろで一本に結んだ髪がゆさゆさと揺れている。

　彼女は校門をくぐると、足早に自分のクラスへと向かった。

　二年A組。

　それが彼女のクラスだ。

　席に着くと、愛は考え深げに窓の外を見る。

　窓の外には雲一つない青空が広がる。

　その青空を見て、普通の人ならば晴れ晴れとした気持ちになるだろう。

　だが愛はそうじゃない。

　何かを怖がる様な、心配する様な表情で空を見詰める。

　それから、黒板の横に掛かったカレンダーを見て今日の日付を確認する。

　そして、そのまま視線を動かし、黒板の上の時計を見る。

　「はぁ……」と息を吐き、左腕につけた文字盤の大きな腕時計にも目を落とす。

　暫くすると担任が教室に入ってきた。

　今日も一日の始まりを告げるチャイムが鳴り。HRが始まった。

　一日の始まり、学生にとっての日常。

　いつもと変わらない、日常。