世界征服部

無形の空

第1話 始動 世界征服

『世界征服部。魔王と勇者で世界を征服することを目標に活動しています。興味のある方は部室までお越しください。尚、種族に決まりはありませんので何方でも大歓迎です。 部長 高等学部2年 16代魔王 エイレーナ・フェリア』


 第1多目的室。一風変わった募集用紙を張った世界征服部が魔王のコネと駄々で手に入れた根城。

 もともと荷物置きとして使われていた部屋であり、ただでさえ狭い部屋の大半は段ボールや新品の掃除用具、使わなくなった教材が占拠していた。

 荷物によって幅を取られた狭い部室を更に狭くするようにパイプ椅子2つと小さな机が置かれている。

 銀色の髪を持ち、黒い角を生やす魔王、エレーナ・フェリアと黒い髪のユニセックスな見た目をした勇者、テウス・アンドレイは小さな机を挟み部活の現状について話し合っていた。


「テウスよ。われが部活を設立して1か月、部室を手に入れ3週間、募集用紙を張って2週間。設立から順調に進み城(第一多目的室)も手に入れた。1か月前の目標では既に部員は最低で10人、部費もたんまり貰って世界征服の軍資金が手に入る予定だった」


 自分の思惑通りにことが進まなかったエレーナは不服だとばかり口を尖らす。


「なぜじゃ。なぜここまで人が集まらんのじゃ。これでは部活を作った意味がないではないか」


「だから言ったろ。世界征服部なんて物騒な名前の部活なんて誰も入ってくれないから名前だけでも変えろって。ただでさえ魔王が部長をやって、勇者が副部長をやってる色物部活なのに」


 人間と魔族で争っていた幾千年前までなら世界征服を目論む魔王の元に集う者がいたであろうが、戦争が終わり、憎しみや悲しみを抱いている者が少なくなった今、争いの種になりそうな部活へ入りたい者はいない。

 そもそも学校の部活であっても遊び感覚で『世界征服部』と言う名前を付けるのでさえ不埒な行為と言える。

 

 この名前が許されているのも魔王の権力と勇者が所属していることがあってのことである。

 学校ではエレーナが日ごろから無茶苦茶なことをやっているのは有名な話であり、入学から今まで魔王のお守りは勇者の役割と言わんばかりに教師からエレーナのことは任されていた。

 俺は勇者でありながら世界征服部などというふざけたような部活へ入部することになったことが不服でならなかった。

 

 勇者を必要とする争いがなくなった今、お飾り勇者のような存在であるが、それでも嘗て先祖が得た栄光を汚すような行為は避けたかった。

 それこそ、魔王と世界征服を企むことなどもってのほかであり小言の1つや2つ言いたくなっても仕方ない。


「配下のたくさんいる魔王様がなんでそんなにも人望がないんでしょうね。エレーナの配下がこの学校にも何人かいるんだからそいつらを誘えばいいだろ」


「我もそう思って既に四天王の2人と他の部下は勧誘したのじゃ。我じきじきに誘ってやったのに、あ奴ら『ごめんーちょっと忙しいから無理かなー』って皆、口をそろえて雑に断ってきたのじゃ。我、魔王じゃぞ。魔を統べる王で魔王なのに部下からなぜこんな不当な扱いなのじゃ!」


 なんて人望のない魔王だと口からでそうになった言葉を飲み込む。

 断られた当の本人は一通り文句を言い終え、喉が渇いたのか購買で買ってきていたパックのジュースをストローでチュウチュウと飲み喉を潤していた。

 子供っぽい見た目であるエレーナが両手でパックを持ってジュースを飲む姿は高校生にはまるで見えない。


「先に言っておくが俺は部員集めの力にはなれないからな」


 俺が協力できないことを知らせるとエレーナはあっけらかんと言い放つ。


「安心するのじゃ。最初から頼るつもりなどないわ。じゃってお主が友人と呼べる存在がほとんどいないことを我は知っておるからな。我とテウスは1年以上の付き合いじゃそのぐらいわかっておる。いくら我とて友の少ないお主に部員集めなどの酷な真似はさせん」


 我は分かっているぞ!と理解者面を向けるエレーナ。

 いきなりのディスに心をえぐられる俺。

 

「…………いや。勇者として表立っての協力は出来ないって言おうとしてたんだけどな。いや、まぁ、俺友達ほとんどいないもんな。ごめんな、役立たずで」


「えっ、あっ」

 

 自分の思考とは全く違う理由にエレーナは驚愕と気まずそうな顔を浮かべる。

 俺もテウスで余計なことを言わずにエレーナの話に便乗しておけばよかったと後悔をする。


「…………」


「…………」


 二人の間に微妙な空気が流れる。

 おとぎ話に出てくる時間停止魔法を疑似体験しているような感覚に陥るほど二人の動きが止まっていた。

 そんな空気を壊すかのようにいつもなら開くことが殆どない部室のドアが勢い良く開く。


「うっーす、やっとるかね……ってなにやってんだお前ら見つめ合ったりして」


 二人そろって声のするドアのほうを向けば赤色のだぼだぼジャージを着ただらしない格好の教師、アリア・エリースが立っていた。

 気ダルそうな風貌の髪がボサボサな巨乳の女性。間違いなく美人であることは確かなのに色気を一切感じさせない。

 これでいて種族がサキュバスなのだから人は見た目で判断できないとつくづく思い知らされる。


 「あ、いや何でもないっす。それでアリア先生はなんの用ですか?いつもだったら部屋が狭くて落ち着かないって部室にこないじゃないですか」


 「そ、そうじゃの、顧問にしてやったというのに1回も顔を出さないお主が急にどうしたのじゃ。やっと世界征服する気になったのか?」


 アリアの登場により先ほどまでの空気はどうにか散漫したのだがそのアリアの様子がどこかよそよそしい。

 いつもだったらふてぶてしい姿なアリアにしては珍しく感じられた。

 少し考えた素振りを見せた後に決意を決めたのか口を開く。


「いやーそれがな。このままだと部活を廃部することになりそうなんだわ」


「「ええええええええええええ!」」


 一瞬の硬直を終え部室に声が響く。


 世界征服部活動期間1か月で廃部の危機。


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