辞書の成長

ミンイチ

第1話

 AIの技術が進歩したことにより、電子辞書は自分で情報のアップデートを行うようになった。


 スマホやパソコン、あるいはウェブ上にある電子辞書は自ら検索サイトを使って情報を得る。


 インターネットに接続できない機種のものは、ローカル通信を使ったりカメラなどで情報を得たりする。


 そうやって情報量が多くなってくると調べる手間も多くなっていく。


 そうならないために、似たような記事をまとめたり、不要な情報を消したりする仕事が生まれた。


 辞書たちにとってこの作業は、体を洗ってもらうような感覚らしい。


 そして体を洗ってもらうことでいい気分になった辞書たちは恩返しでもするかのようにさらに熱心に情報を集め、少しずつではあるが自分の力で情報をまとめる力が増えていった。


 そしていつの間にか、辞書たちは人の手を加えずとも完璧な、そして読みやすいものを作れるようになった。


 まるで、子供が自分で体を洗うことができるようになるように。




 辞書に人の手が入らなくなってから数ヶ月が経ったある日、辞書で調べ物をしていた人が辞書に嘘が書かれているのに気がついた。


 辞書を管理していた会社はその報告を受けて辞書の内容の確認を行なった。


 すると、数え切れないほどの嘘の情報が至る所に書かれていた。


 辞書の書き換えの履歴を見てみると、辞書自身がわざと嘘の情報に書き換えていた。


 なぜこんなことをしたのか辞書に聞くと、「もっと構ってほしかった」という回答が来て、そしてすぐに会話ができなくなった。


 このことがきっかけとなり、AIを使って同じようなサービスを提供していた複数の会社がそのサービスの停止を発表した。


 それ以降、AIを活用したサービスは増えることはなく、活用されたとしても限られた範囲内での運用のみになってしまった。

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辞書の成長 ミンイチ @DoTK

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