遺書(独白)

Kurosawa Satsuki

自分語り

両国が憎い訳でも、

嫌いな奴に仕返しをしたい訳でも無い。

ただ、疲れたんだ。

もう頑張れない。

虐めもあった。

親の喧嘩も散々見てきた。

殆どお金の話だった。

貧しい環境が憎かった。

祖母に頭を下げてお金を借りる母親の姿を幼い頃から何度も見てきた。

父親は、気性が荒い人だった。

お金の話になると、母親と口論になり、

最終的に、父親が手を出す。

その繰り返しだった。

母親も病んでいた。

いつもヒステリックを起こしては、

家族に対して喚き散らしていた。

姉に毎日殴られた。

お前さえいなければ、妹がよかった、

そんな事を姉から言われ続けた。

そんな姉は、今では無職の引きこもりだ。

気に入らない事があれば癇癪起こして、

度々、家族を困らせた。

そんな姉に、小遣いを渡している自分も馬鹿な奴だ。

でも、そうしないとまた暴れるから。

もう関わりたくないのに…

そのお金は、教会に通うために使っているそうだ。

姉は祖母から好かれていたけど、

無愛想な自分は心底嫌われていた。

何か言われた訳では無いが、

感謝も出来ない人間だから、

言われなくとも、

好かれていない事くらいは分かっていた。

幼い頃から嫌われ者だった。

普通じゃない自覚はあった。

気持ち悪いと言われた。

死ねばいいのにと言われた。

俺は相変わらず笑っていた。

馬鹿にされながらもおどけてみせた。

そうでもしないと、きっと壊れてしまうから。

今思えば愚かな事だった。

恥を晒して後悔ばかり。

そんな自分に腹が立った。

嫌われるのが怖くなった。

迷惑をかけないように、不快にさせないように、

傷つけないように、壊れないように、

頭の中で唱えながら、自分を隠しながら、

必死になって取り繕った。

それでもやっぱり嫌われた。

ココへ来てから差別を受けた。

あの国さえなければと、散々言われた。

生活も更に難しくなった。

毎日、親戚から貰ったたくあんと、

虫の入った米と味噌汁を食べていた。

米すらない日は、カップ麺で腹を満たした。

学校のトイレで何度も吐いた。

期末テスト当日に、栄養失調で倒れた。

ムカデやゲジ、ゴキブリ、便所コオロギと、

部屋中は害虫だらけで、

虫嫌いの自分にとっては地獄のような日々だった。

野ねずみまで大量発生して、

この先生きていけるのかと、不安ばかり募り、

毎晩、金縛りに遭うほど眠れなかった。

家に、浴槽は無く、

シャワーヘッドも壊れているため、

お風呂に入る際は、ヤカンに水を入れて沸かし、

タライにお湯を注いで体を洗った。

もう、あのゴミ屋敷のような家には住みたくない。

父親が何度も失業して、

家庭崩壊する一方手前まできていた。

その時、初めて父親の涙を見た。

中学の時の担任に、

お前らは何も出来ないし、

どうしようもないゴミクズだと言われた。

その担任は、不良みたいな性格の人で、

誰かが教科書をわすれたり、問題を間違えたりする度に、机を蹴ったりして暴れた。

そして、特定の生徒を虐めていた。

目が細い、太っているという理由で、

その男子生徒をからかっていた。

授業中は、机に座りながら教えていた。

稼ぐようになってから消費が増えた。

過食を繰り返すようになった。

ココへ来てから適応障害になり、

高校卒業と同時に世間から孤立した。

対人恐怖症になって、話すどころか、

人の顔すら真面に見れなくなった。

外出した時は、イヤホンで音楽を聴き、

俯きながら歩いていた。

その時期は、精神科に通っていたのだが、

担当医にすら本音を話せなかった。

というより、向こうは聞こうとする素振りはするも、

PCをカチャカチャ操作していて、

とても、話を聞いているようには見えなかった。

相談事を予め書いて渡したが、

必要な書類が書かれた用紙以外はスルーされた。

仕事はしていると医師に伝えると、

じゃいいじゃんと、あっさり切られてしまった。

だから、ネットで調べてどうにかした。

調べる他にも、

自分のことや自分の好きなことを、

ノート等に纏めたり、

自分の本音を知る為に歌詞を書いてみたり、

セルフケアを繰り返し、

ようやく寛解と言えるくらいまで調子を取り戻した。

それでも、トラウマは消えなかった。

親にも幾らか貸したけど、

返ってきたのはたったの一割。

残りは、なかったことにされた。

そんな親から、お前は恵まれているだろと言われた。

自己責任論を突きつけられた挙句、

お前といると苦しいとまで言われてしまった。

父親からは、今まで親から何を学んできたんだ?

と、訳の分からないことを言われた。

何故って、父親は俺らの養育には無頓智だったから。

母親と喧嘩するか、寝そべってテレビを見ているか、

一服するか、

缶ビールを呷る姿くらいしか思い当たらない。

会社の同僚にも嫌われた。

散々からかわれ、散々嫌がらせを受けて、

他の人に相談したらふざけんなって怒られた。

お前が全部悪い、お前が変われ、不快だった、

失望した、せっかく世話してやったのに、

胸ぐらを掴まれながら、そんな事を言われ続けた。

ある日の晩、発作を起こした。

震える自分の手を見て俺は笑っていた。

俺の理性は、既に壊れていた。

上司にもいびられ続けた。

俺らには基本だ規則だと煩いのに、

自分はその規則を平気で破る人だった。

上司のミスも俺らのせいにされた。

悔しかった。

期待では無い怒りが込み上げてきて、

また発作を起こした。

過呼吸と震えが止まらなかった。

今まで蓋をしてきた嫌な思い出が、

一気に降り掛かって来て、

何で、何で、何で、何で…。

声を出しながら小さな子供みたいに泣き続けた。

家に帰って何度も吐いた。

上司の期待に応えようと必死になっても、

返ってくるのは説教ばかりだった。

隣人の騒音のせいもあって、

寝れない日が増えた。

自分なりに試行錯誤しながら、

一生懸命対応しても、客から無視されたり、

横柄な態度をされたりして、

一度治ったはずの心的状態は、

再発するどころか、ますます悪化した。

感染症に罹った。

動く気力すらなくて、

一日の殆どをベッドの上で過ごした。

隔離解除されてからも、

喉の痛みが治らなかった。

教会へ行くのが嫌になった。

今まではちゃんと届いていた。

居場所だったんだ。

けどもう、信じられなくなった。

親に言っても伝わらないから、

その思いを全部、ノートに吐き捨てた。

先輩からの嫌がらせ、

上司の説教、客からの罵詈雑言、

隣人の騒音、隣のアパートから漏れる灯り、

新興宗教、親が作った借金、家族関係…

おかしいな、嫌な事ばかり続くんだ。

生きるのが嫌になった。

死にたいでもなく、消えたいでもなく、

生きたくないと思うようになった。

二回ほど自殺未遂をした。

一回目は、自室の窓から飛び降りようとした。

二回目は、自分の首元に包丁を突きつけた。

家族に阻止されて、全て失敗に終わった。

何になりたいかと言われれば、

俺は決まって、女になりたいと言う。

今まで男として生きてきて、

ろくなことがなかったからだ。

あともう一つは、誰かの特別になりたかった。

そして、特別な存在が欲しかった。

これまで生きてきてそれが一度も叶わなかった。

自分の隣には誰もいなかった。

一人でいることが当たり前だった。

結局、浅はかな夢物語だった。

俺は、言葉を書いた。

誰にも言えない事や、言っても理解されない事、

自分の夢や理想、願望をノートに書き記した。

なんで俺なんだ?どうして俺なんだ?

あの時、心臓病の手術が失敗して死んでいれば、

こんな苦しまずに済んだのに、

なんで俺を生かしたんだ。

なんで俺を殺さなかったんだ。

死んだ方が幸せだ。

そういう思いでいっぱいだった。

書いてみたはいいものの、

どれもこれも、自己満足の産物に過ぎなかった。

阿呆が書いたくだらない文を読んで、

誰が笑うのか?誰が涙を流すのか?

俺はまだ、子供なのだろうか?

変わりたくないと願った結果が、

今の自分なのだとすれば、

俺は、過去の自分を呪うしかない。

幼い頃に嫌いだった大人に、

いつの間にか自分もなっていた。

いや、大人になった訳じゃない。

時間と共に老いただけだ。

分からないものが増えただけ。

見えない誰かのせいにすることで、

自分の正しさに安心するような最低な人間になった。

何も無いのに綺麗事ばかり思いつくような、

どうしようもない馬鹿になった。

何をやっても中途半端で、

変わることを恐れて逃げる情けない奴になった。

誰かの不幸から目を背けるような、

美しいものを妬むような醜い人間になった。

もう戻れない、死にたい癖に死ぬ勇気もない。

いつまで逃げる気だ?

そう心の中で誰かが言っている。

大人になるという事。

それはつまり、責任が増えるという事。

人の愚かさを知るという事。

守るものが増えれば増えるほど、

自分を殺せなくなるという事。

感謝もされず、感謝もできず、

守るものも無い俺は、

やはり、いつまで経っても子供のままだ。

昔からよく怒られてばかりだった。

異性からも簡単に嫌われた。

自分を好いてくれる異性なんて何処にもいないと、

期待も希望も勝手に辞めた。

自業自得と言われればそれまでだ。

そりゃ、信頼出来る仲間は居たよ。

こんな自分にも優しくしてくれる人がいるんだなって安心したよ。

久しぶりに再会した友達が、

今でも自分を気にかけてくれて嬉しかった。

心臓病の手術を担当した先生だけでなく、

今まで何度も周りに救われた。

独りじゃ本当に何も出来ない小さい人間だった俺が、今もこうして生きてるのは他でもない皆のお陰だって事は俺自身が一番理解しているつもりだ。

けど、それだけじゃ足りなかった。

俺は傲慢な人間だ。

本当は、理屈を言って欲しかった訳じゃないんだよ。

弱っている時にできないこと言われても仕方がない。

失敗ばかりしてきた。

何をやっても破れかぶれで、余計な言動ばかりして、

迷惑ばかりかけて、中途半端に諦めて、

残ったギターは宝の持ち腐れ。

ピアノも、バイオリンも、それ以外も、

全部ダメだった。

画材も機材も全部捨てた。

流石に馬鹿でも気づくよ。

自分に才能なんてないんだなって。

そうやっていつも逃げてばかりだった。

「甘えるな、みんな頑張っている、

恵まれている癖に文句を言うな」

分かってるよそんな事。

自分に降りかかる出来事は全部自分の責任。

今の自分が、

これまでの自分のしてきた結果だという事も。

今思えば、矛盾ばかりの人生だった。

あまりに愚かで、情けなくて、弱くて、

そんな奴だった。

何も分かっちゃいないのは自分の方だった。

けどさ、やっぱり生まれて来なければよかったって思ってしまうんだ。

もっと普通に生きたかった。

国同士のいざこざとか、

それのせいで生まれる差別とか、

新興宗教とか、男だからとか、

貧困とか、障害とか、暴力とか、

そういうのとは無縁の人生でありたかった。

まさに、自己責任論者のようなぬるい人生を、

味わいたかった。

故郷を侮辱された時、

ものすごく悔しかった。

アイツらのせいだって言葉が痛かった。

結局俺は、自分の願いも叶えてやれないのか?

そんな人生に何の価値があるんだよ。

俺は、自分の言葉で自分を救いたかった。

けど、何もできなかった…。

そんな遺書を、二十歳の時に書いた。

書いてみたはいいものの、

結局死ねずに今もこうして生きてる訳だ。

何も成しえないまま、過去を引きずっているんだ。

俺は、そういう奴なんだ。

たまに自分が何者なのか分からなくなる。

国籍を変え名前を変え住所を変えて、

思考を変えればもうそれは別人。

結局俺は誰なんだ?

昔は失敗しても平気だった。

今みたいに人間関係に怯える事もなかった。

どんな事があっても前向きだった。

けど今の俺はどうだ?

変われないと言ったのは嘘だ。

悪い意味で変わってしまったよ。

ほら、今だって見知らぬ女学生二人に、

正気じゃないって文句を言われてやんの。

彼女らの言う通り、俺は普通じゃないんだ。

初めからマトモじゃなかった。

やっぱり俺って社会不適合者なのか?

今更何考えたって無駄だよな。

そうやって、自己嫌悪に苛まれる日々が続く中、

周りは前へ前へと大人になっていく。

一人だけ取り残されたような気持ちになる。

夢の中で煙草を吸った。

現実では勿論吸ってないし、

吸った事すらないんだけどな。

周りには天井まである滑り台等の遊具と、

玩具が散乱していた。

いかにも幼い子供が喜びそうな空間だった。

なのに俺は大人の姿だった。

気づけば俺も親父と同じ道を辿っていた。

いや、親父よりも酷い有様だ。

最近忘れ物が増えた。

何やっても上手くいかない。

仕事の休憩中も同じ所を行ったり来たり。

横になっても休まらない。

色んな不安が俺を襲う。

周りからの些細な言葉が俺の心を抉る。

夢の中でも仕事をする。

スキャナー持って、案内して、

これが俺の人生か?

起きた瞬間、虚しさが込み上げてくる。

頑張れって言葉も、もはやただの脅しだ。

心の病気を沢山知って、

有識者の言葉を信じて色々試した。

それでも埋められない溝だらけ。

今まで過ごしてきたクソみたいな人生。

それでも俺はここに立ってる。

裏切った奴らを見返したいって想いは、

もうこれくらいで十分だろ?

後悔と憎しみはポケットに閉まって、

明日からまた終わりを待つだけ。

いつも通りに生きるだけ。

何も無いまま大人になった。

何もなし得ないまま死ぬのかと思った。

横を見れば誰もいないし、下を見れば崖っぷち。

見上げるだけで現実を突きつけられたような不快な気持ちになる。

嫉妬というやつだ。

何も無いからこそ、人の努力を知らないからこそ、妬みの感情が生まれる。

みんな大人になったら、他人の為に社会の為に、愛する家族の為に奮闘し、それなりの結果を残す。

自分にできることを一生懸命やり続ける。

どんなハンデを背負っていても、

理不尽な言葉を投げられても、

常に前を向き、走り続けている。

なのに俺は、

歳をとっても、本当の自分を受け入れずにいる。

知ってる音楽が400曲まで増えた。

みんなが奏でるコイツらが俺を支えてくれた。

コイツらに感化されて歌を書きたくなった。

気づけば俺もこんな歳だ。

いつまで経っても惨めなままだ。

逃げたい。

消えたい。

疲れた。

もう生きたくない。

やめようか?

終わろうか?

そんなことばかり考えるのも億劫になった。

だから今日、俺は俺を卒業しようと思う。

俺をここまで育ててくれた人達へ、

今までありがとうございました。

それでは皆さん、さようなら。


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遺書(独白) Kurosawa Satsuki @Kurosawa45030

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