第39話 丘頭桃子警部の捜査(その12)

 鑑識の結果待ちをしている丘頭警部の所へ、氷見に連れられて寒井大樹が鳥井唯を殺したと言って自首してきた。取り敢えず事情を聞いているところへ、田川刑事が鑑識の結果を持ってきた。任意で提出した寒井の髪の毛と鳥井唯から発見された男の体液のDNAが一致したというものだった。

またしても秘書の仕業だ。

 

 寒井の自供によれば、実家は長野市の郊外にあり両親は健在だが、父親が心臓に病気を抱えていて、働くのに限界があるためパートの仕事をしていた。それで寒井は毎月10万円程を生活費として仕送りしていた。酒もギャンブルものめり込むところまではいかないがそこそこ小遣いは使っていて、財布の中には大きな札は余り入ってはいなかった。

 そんな時、紅羽が妊娠して算部産婦人科に定期検診を受けに行くため、寒井が社用車で送迎することがままあったようだ。

診察が終わるまで車で待っていると、看護師の鳥井唯が話しかけてきたと言う。

鳥井はちょっと見栄えの良い寒井にちょっかいを出そうと考えたのだろう。「運転手さん。まだ時間かかるから中で休んでも良いですよ」車の窓を叩いて話しかけてきたが「いや、ここで待つよう言われてますので」そう断ると、数分後鳥井が熱いコーヒーを持ってきたそうだ。

そんな会話を切っ掛けに話をする様になり、寒井には特別な女がいなかったので食事に誘うようになったが、鳥井は複数の男やホストと遊んでいると言うのでちょっとがっかりしたようだ。

それでもその内懇ろになり鳥井が以外にも大金を持っていることを知った。

そういうタイミングで父親が病気で入院することになり、それまで以上に仕送りをしなければならなくなって、鳥井に事情を話して借金を申し込んだが、鳥井は自分の遊び金だからといって貸そうとはしなかったようだ。

 そしてある日鳥井が突然病院を首になった。が、「私には親の遺産がまだ沢山あるし、さらに大金が入る見込みまであるのよ」と余裕を見せるので、それならそれを奪おうと計画を立てたと言う。

 しかし、その大金が入ると見込んでいる先が舛上家だと知って寒井は戸惑った。そして鳥井が恐喝で得た金を自分が横取りしようと考えたのだった。

予想通り舛上海陽は鳥井に金を渡したが、秘書の氷見や寒井自身が鳥井を尾行しそのアパートを突き止めてしまった。そしてドアをピッキングで開けて金を取戻し恐喝のネタの写真も氷見が持ち帰った。

結局、寒井は自分の計画はパーになって腹が立ったし金が欲しかったので、仕事が終わってから鳥井の家に行って、金を寄越せと言って首を絞め脅していくばくかの金を奪ったら、警察へ行くと言い出したので、強盗の仕業に見せかけようと、暴行してから殺し、それから部屋中荒らしたそうだ。

 結局、父親は治療費を払えないと言って自分から病院を出て自宅療養をしていたが、事件の半年後に亡くなってしまった。自分が不甲斐無いばっかりに父親を助けられなかったと悔し涙を流したという。そしてその1年後母親も亡くなってしまった。寒井は悪いことをした罰が当たったんだと思ったそうだ。

そんな風に事件のあらましを語った。

 

 捜査員が寒井の自宅を捜索している頃、今吉の工場から発見されたチューブなどは殺害現場の痕跡とは一致しないとの報告が飛び込んできた。報告書を見ると擦り傷や塗料の付着痕などが現場の換気口の羽などに付着したものと大きさや色までが異なったと記されていた。

 そして同じアパートの住人が事件の2日前今吉の玄関前にボンベの有るのを目撃したと証言したのだ。その住人は、車を置く場所が今吉の玄関前なので乗り降りするとき嫌でもガスボンベが目に入って、アパートは都市ガスなのになんででっかいガスボンベがあるのか疑問だったと説明した。その住人は今吉との付き合いはなかったので信頼できると証言だと判断した。

「釈放だ~っ! 、今吉を釈放だ~っ! 、捜査のやり直しだ~っ!」

丘頭警部は絶叫した。

 

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