第34話 丘頭桃子警部の捜査(その9)

 丘頭警部は過去の二つの殺人事件と事故に何らかの関連性がないか三つの調書を並べて読んでいた。そこに舛上コーポレーションからですと声が掛かり、受話器の向こうで秘書課の氷見ですと言う。

「どうされました?」

氷見に訊くことはあっても聞かれることは無いと思っていた。

「実は、事件以降当社に対する誹謗中傷がネット上に氾濫してまして、メールも多数寄せられ困っています。どうにかできないものでしょうか?」いつもの迫力はなくくぐもった声で本当に困っている様子。

「それなら、警察に被害届を出して記者会見で告発も辞さないとか強気の発言でもしたらどうでしょうか? その辺も警察に専門家がいますから相談してみてくださいな」丘頭警部は担当違いなので軽く答える。

「それが、実際に起きた下請け会社の社長自殺事件などで本社とその社長とのやり取りが細かく掲載されていて、事実無根とまで言えないような内容でして、本社内部とか警察内部とかから情報が漏れた可能性が有るんじゃないかと思われるんです」

「警察は情報なんか漏らしませんよ!」

警察と聞いて腹が立った。

「情報が漏れたとすればそれは本社内部じゃないの?」

強く言うと氷見は言い過ぎましたと謝罪の言葉を発したけど疑いが消えたわけではなさそう。

「で、私に何をして欲しいの?」

「事件についての記者会見を開いて、その中で誹謗中傷を止めるようにと言って頂けないかと……」

ふふふと丘頭は思わず小さく声にして笑ってしまった。

「そもそも記者会見するかどうかは捜査の進捗を上層部がみて判断するもので、私らがどうこうできるものじゃないのよ」

そう言うと氷見は残念そうに、そうですかと小声で言った。

「ところで、話は違いますが、貴社が保有していた昔の車の車番って分かりますか?」

過去の二つの殺人事件の目撃情報にあった車番下一桁が「8」の車両を捜索するため、氷見の話は終わりにして質問した。

「運転日誌を見れば分かりますが10年で廃棄することになっていますので、古いやつは無いかもしれません」

「そしたら20年前のは分からないですね?」

氷見は少し間を空けて無理だと回答した。

丘頭警部は取引先の車の販売店を訊いて電話を切った。

流石に規模が大きいだけに複数のディーラーの複数店舗と長い付き合いがあるようだった。

丘頭警部は捜査員にそれらを分担し20年前の舛上コーポレーションが所有していたすべての車の車種と車番を調べるよう命じた。後からその対象に舛上海陽と紅羽と秘書らの名前を加えた。

 

 日にちの経過とともに続々と報告が入ってきたが、1週間を経過して未だ見つかってはいない。そもそも記録が無く分からないと言う販売店もあった。

じっと待っていた丘頭警部に10日目田川刑事が満面の笑みを浮かべ捜査課に飛び込んできた。

「警部、ありました。あの秘書用の車でした」そう言って販売記録の写しを出した。

 

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