闇の烏龍茶

プロローグ

 東京浅草は国内外に名の知れた観光地であり訪れる旅行客も多い、日中、多くの旅人は雷門の前で記念の写真を撮り、仲見世通りでお土産を買い名物を食べ、浅草寺でお参りをする。夜になると浅草寺や雷門がライトアップされひとつの観光スポットとなっているし、仲見世道りのすべての店が一斉に閉店しシャッター通りになると、400メートルに及ぶ浅草絵巻が表れそれもまたスポットのひとつになっている。

 

 そんな華やかなイメージの有る浅草寺から1キロほど離れた住宅街に隣接したとある病院の深夜、微かに唸る空調機の低いモーター音と、時折聞こえる赤ん坊の泣き声と、キュッキュッキュッと看護師の早歩きの足音が聞こえる程度で、ほの暗さと静寂が病院を包んでいる。

 

 新生児室には足首にネームバンドが付けられている数名の新生児の寝姿が、ぼんやりしたオレンジ色の照明に中に浮かび上がっている。

 目を凝らしてよく見ると誰かがその子らの足元に屈んでゴソゴソと何かをしている。そしてそれを大きな廊下側の窓越しに覗き込んでいる人がいることに気付いていない。

しばらくして、静にその人影が立ち上がると覗いていた人物はさっと姿を消した。そして部屋から出てきた人影は辺りを気にしながら足音を立てずに立ち去った。

 

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