第8話 勉強。そして……

 俺は一人一つ腕時計を渡し、説明を始める。


「見た目はただの腕時計なんだが、用途に応じて変化する。例えば地図。」


俺がそう言うと腕時計から立体的なホログラムが出現する。


「これで現在位置の把握と、皆の位置がわかる。そして連絡だが、ここだとスマホは制限が多いし、腕時計では簡単に連絡が取れるようにした。」


そして今度はホログラムがスマホのようになる。


「これで個人、または全員に連絡ができる。簡単だから使って覚えてくれ。」

「んーと…ボタンがないけどまさか脳内で地図とか思い浮かべたら出てくるとかそんな近未来的なわけないよね…?」

「そのまさかだ。」


 俺の一言でルナは絶句。そりゃそうだろうな。来たばっかだしここの異常さをまだ知らない。他に質問もなかったため話を終わりにする。


「午後は流石に勉強するぞ。今が一時だから、一時半まで休んでろ。半から勉強会だ。」


 食堂で全員休んでいるためクチナシに時間が近くなったら教室に案内するよう頼み、自分は先に向かう。教室には皆が悲鳴をあげるような問題集がたくさん。俺も含めて皆寝るだろう。それでもやるが。


というわけで問題集をコピーし、皆の反応を想像しながら、俺は答えと解き方などを作る作業を始めた。


***


「そろそろ移動するよー!」


 クチナシはそう言って皆を集め教室へと向かった。現在時刻は一時二五分。まだ間に合う時間だ。そして教室に皆を案内したクチナシが最初に教室に入ったのだが。


「全員静かにね。永遠見て。」


 永遠は机に突っ伏して寝ていた。皆のために色々してくれてるし、疲れたんだろう。やっぱ優しい…とクチナシが思った直後。席についた瞬間その思いは吹っ飛んだ。


「この問題…」

「わかんね。」


 机に用意されていたのは全員の苦手分野の問題だった。見た瞬間にふうかは無理宣言。


「よし。皆。罰として永遠が起きる前に何かイタズラしよう。」

「組長…私もそう思ってた。賛成。」


 みぃあも賛成し、永遠へのイタズラを企てる。クチナシの場合最近私の扱いが酷いと言っているためそれもあるだろう。



「じゃあボクがやってあげるよ」

「…ん?あ、ぬい!来たんだね!」


 いきなりの声に皆が振り向くと、そこにはルナと同じように遅れてきたぬいが立っていた。ぬいは身長150cmのボクっ娘で、髪色はピンクでふわふわの高めツインテール。

目は紫色で可愛いんだけど、常に折りたたみナイフを持っている。ちょっと怖い。


「私はぬいに任せてもいいけど…何するの?」

「簡単だよ。これを使う」


 クチナシはいたずらできれば良いため、自分がやることにこだわってもいない。そしてぬいのポケットから12本の折りたたみナイフが。


「これを永遠の周りに浮かべて、何かしらの手段で永遠を起こす。その時の永遠がどんな反応をするのか…良いイタズラじゃない?」

「なにげに刃物使うあたり怖いけどまぁ永遠の驚いた顔は見たい。」


 誰もポケットから12本もナイフが出てきたことをツッコまない。とにかく皆イタズラがしたいようだ。


「浮かすのはボクがやるから、皆は起こす方法考えて。」

「にんじんしか居ないよね。」


 即答。根に持つどころか呪ってくるレベルで恨んでいるようだ。永遠はどうなるのだろうか…。準備が終わりにんじんが永遠に近づいたときだった。


「ごめんな…皆。いつかちゃんと話すから…俺のせいで…ごめん…ごめん…今はまだこのままで居てくれ…」


 永遠の寝言に全員がフリーズした。ただの寝言であれば笑って終わりだっただろう。だが今の永遠は泣きそうなほどに苦しんでいる声だった。

…そして。


「ん……。ん?」


 直後、目覚めた永遠は目を開けると同時に床から氷柱を突き出し全てのナイフを凍らせた。


「ええ…」

「頭追いつかない…」


いたずらを考えたぬいは困惑、ふうかは正直。永遠は状況を理解するとすぐ氷を消した。


「俺寝てた?しかもイタズラするタイミングで起きたんだな…ごめん。さっと顔洗ってくる。」


永遠が教室を出た直後クチナシが教卓に立つ。


「さっきの永遠、寝言とはいえ何かあったんじゃないかと思うの。だから皆は何も言わないで。私がそれとなく聞いてみる。」


 と言い、何事もないかのように席につく。直後、永遠から着信が。


『先始めててくれ。るばあが見当たらない。連絡も無い。俺が探すから、クチナシは皆に悟らせないよう勉強しててくれ。』



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