閑話 世界改変②
PM13:16 日本 東京都 朝霧駐屯地付近の塔にて side夕凪
戦闘車両を含めた車の三両が塔から少し離れたとこに停車した。今回は総勢13名のなかで総隊長として夕凪が指名され、残り12名を3班に分けそれぞれに佐藤、橋本、木村という一等陸曹が隊長として配置されていた。
「よし、降りるぞ。既に民間人の避難は完了しているから、銃の携帯をしておけよ。」
「佐藤了解」
「橋本了解です〜」
「木村了解っす。それにしてもこの塔どうなっているんすかね」
銃の携帯が許可され全員が銃を所持する。
夕凪は建物にしたら30階以上もありそうな塔を見上げる。
「本当にでっけぇな。まぁどうなっているかは俺も知らんが。そういえば伝えていなかったが、なんでお前らを選んだかわかるか?」
「わかりますよ。ここにいる全員ナイフの訓練の成績優秀者ですよね。恐らくですが上層部からナイフの扱いの上手いものを選定するよう言われたんじゃないですか?」
髪をポニーテールでまとめた佐藤が得意そうに答える。
「私もそう思いました〜」
おっとりとした雰囲気をもった橋本も同意する。
「御名答、と言いたいところだがちょっと惜しい。それに佐藤と橋本の2人はナイフ訓練の1位と2位だが、木村はや他の奴らは上位ではあるものの最上位じゃないだろ。」
「ひどっ!地味に気にしてるっすからね!」
「すまん、すまん。確かに佐藤が言った通り上からはナイフの扱いのたけた者達を編成するよう言われたがお前達三人はそれ以外にも理由があって選んだ。」
3人はわからないといった感じて頭を傾げている。しかし、すぐに木村が理由について閃いた。
「もしかしてなんですけどラノベっすか?」
今回選ばれた3人の隊長はライトノベルと呼ばれる小説をよく読んでいた。そしてそのことは夕凪も知っている事実だった。
「おぉ!御名答! その通りだ。今回は消えた土地に塔が現れるという意味不明な現象が起きた土地の調査だ。少しでも良いから日頃からそういうことに慣れている人間を選びたかった。」
「なるほどっす」
「皆さん〜、そろそろ入口です〜」
そんな話をしていると塔の正面の入り口に到着する。
入り口はくり抜かれた空間に切りはりされたような風貌で異様さが伺えた。
入り口は高さ3メートル程度で横幅は隊員が3人並べればいいくらいだった。夕凪は場合によっては車両での突入を考えていたがいきなりアテが外れてしまった。
「こちら夕凪、目標に現着。現在時刻13:25、ただいまより目標に突入します。念の為に突入直後に通信を行います」
『こちら成瀬了解。』
「総員突入するぞ。カウント3で突入する」
「3、2、1、今!」
夕凪の掛け声とともに13名が突入していく。特に人数が多すぎて侵入できないということもなく順調に隊員の全員が塔に入ることができた。しかし隊員達は隊長を除いて全員が言葉を失った。
塔の中は広い草原になっていたのだ。夕凪は振り返って入口が消えていないことを確認すると、直ぐに司令部に無線を入れる。
「こちら夕凪。応答を求めます。」
しかし流れるのはザーと言ったノイズだった。夕凪は無線が繋がらない事を確認してからしみじみと呟いた。
「こりゃ、やばいな。俺一人で突入しなくて正解だったぜ」
他の隊員たちも次第に周囲の警戒を始める。佐藤が一時撤退を進言するが夕凪はそれを否定した。
「1部隊だけ外に出して残りはここで戻ってくるまで待機だ。佐藤隊は一度外に出て司令本部に連絡し現状を伝えてこい。」
「わかりました。」
佐藤は部下を率いて出口へ向かった。残されたメンバーは警戒しつつ佐藤たちの帰りを待ちながら少し雑談をしていた。
「夕凪隊長って上官と話すときと俺達と話す時のギャップが激しいっすよね」
「当たり前だろ! 上官に向かってこんなに砕けて話せるかよ。それともお前らもあんな堅苦しい喋り方で話して欲しいのか?」
そう尋ねられてから隊員達は揃って首を振った。なんだかんだ夕凪は下の者からとても好かれていた。それは夕凪の気さくな性格と人柄から来ていた。
「いやです〜。あんな喋り方されたらきもちわるいです〜」
「そうマジマジ正面切って気持ち悪いと言われるとおじさん傷つくぞ」
夕凪は本来なら今はもっと上の階級にいるはずなのだ。しかし、夕凪は高官なんて自分の柄じゃないと言い、周りの者達と関わりやすい今の階級に止まっているのだった。だが功績が積み上がってきて断りきれずに最近は少しずつ階級が上がって来ていた。
部下からも慕われている彼は人柄の良さが目立つ。今回もあえておちゃらけた様子で返事をすることで全体の張り詰めた空気をほぐしていた。
こういった事態では、緊張から大きなミスにつながることもあるからだ。
雑談をしていると一人の隊員が近寄って報告をしてきた。
「お話のところ失礼します。100m先あたりで二匹の狼のような生命体を発見しました。」
報告を受けた夕凪は手持ちの双眼鏡を使って確認する。
「ほんとうだな。木村あれどう思う?」
「少なくとも俺はあんな品種知りませんね。良くて森などにいるような普通の狼、最悪の場合は通常の狼よりも数段強いラノベでいうところのモンスターっすね」
「だな。なんにしてもこちらから刺激するのはよくない。ひとまず佐藤達を待とう。もし相手さんがこっちに牙を向いてきた場合を考えて、向こうを狙えるようにして警戒しておこう」
こうして佐藤の意見を肯定した夕凪は佐藤達が戻ってくるのを待った。
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「佐藤隊合流しました。」
「ご苦労さん。成瀬さんなんて言ってた?」
佐藤は敬礼をして、成瀬の命令を伝達し始めた。
「はい。内部に人間がいた場合は可能な限り保護を行い。日本の脅威となる対象を発見し次第、これに対処すること。また、内部との通信が取れない状況下のため只今より夕凪三等陸尉は調査部隊の全指揮取ること。との命令を受け取りました。」
「まぁ、この状況ならそうなるよな。銃に関しては。」
「各位、夕凪隊長の判断で撃って良いそうです。」
大体は夕凪の予想通りの命令だった。この状況では外部から指令を受け取るためには外に出なければない。それでは調査という名目で来ているのに再び戻ってはロスが大きすぎるのだ。
ところが、予想外だったのは『日本の脅威に対処せよ』という指令だった。平和を謳っている日本では例え外敵でも、ファーストコンタクトでは調査に留め刺激しない方針を取る方がよっぽど多い。
「わかった。」
「とりあえず、敵意剥き出しのアイツらをどうにかしようか。」
佐藤たちが戻ってくる少し前から近くに何体か出現しており、無闇に殺傷するわけにもいかないため警戒に留めていた。しかし、射撃許可が出ている以上、ここで時間を更に使うわけにはいかなかった。
「射撃用意.......撃て!」
射撃音が草原に拡散していく。次の瞬間、銃弾は狼たちを貫通して狼たちは動かなくなった。
しかし、右前方に再び狼が現れた。
「やっぱり〜、ここはダンジョンだと考える方が自然です〜」
「そうっすね。塔がダンジョンだとすると今のはリポップってところじゃないすか?」
「リポップ? すまん。俺はそれを知らないんだ。教えてくれるか?」
夕凪は頭をかきながら佐藤たちの方に向き直す。
「ライトノベルやゲームのダンジョンでは、モンスター達が再出現するんですがその現象に酷似しているんです。」
「つまり前を制圧したからといって、後方に敵が出現する可能性もあるってことだな。じゃあ後方を注意しながら進むか」
夕凪たちはゆっくりとしかし確実に塔の内部を進んでいくのであった。そして30分後、塔の内部で夕凪の部隊は消息が途絶えてしまった。
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