超越者の成り上がり〜今日もダンジョン探索を始めよう!〜
猫野いちば
第1章
閑話 世界改変①
本編より約3年前、世界は震えた。
文字通り世界中で同時に震度5強の地震が確認されたのだ。
震度5強のため日本では棚や物が落ちる程度であったが、問題は地球のプレートの関係上揺れるはずのない国でも地震が起きたということだった。
これにより普段から地震を経験している日本と違い、世界各国は混乱に陥った。当然だが耐震設計などしているはずもなく、他国では建物の倒壊が起きることも多かった。世界中が恐怖と不安に包まれる中、同様に日本もこの地震によって恐怖に包まれたのだった。
その原因は今回の地震の不可解な点にあった。
後に『世界大地震』と名付けられたこの地震は、世界中の全てが土地も関係なく平等に揺れたのだ。言い換えれば世界中の海の中から地中までどんな場所でも震源地となっていた。それに余震と呼ばれる地震の揺れ返しすらも起きていなかったのだ。もはやこれは地球そのものが揺れていると言っていい。
これが今回の異常現象が地震大国の日本すらも混乱させる理由だった。
AM12:00 日本 東京都 陸上自衛隊 朝霧駐屯地
朝霧駐屯地の中の中央の建物の一室、来客を招くこともある他より大きめで少し豪華な部屋。そこにはいくつものバッチを胸に付けた体格の良い男がどっしりと構えて座っていた。男が座っているデスクの隣には日本の象徴とも言える日の丸が描かれた旗が飾り付けられている。
「成瀬陸将、これが本日の会議の資料になります。会議の後の本日の予定は御座いません」
座っていた成瀬は資料を受け取ると見落としがないようにじっくりと目を通していく。
多くの者の上に立つ者として陸将ともあろうものが会議の時になって内容について知りませんじゃ困るのだ。なので見落としがないようにしっかりと見て忘れていたり補足情報が必要だと思った物に関しては陸将補佐に尋ね、確認を取り調整をする。
「----よし、これで会議に関しては終わりだ。それにしても、一等陸佐を超えた辺りから会議やらが増えて、机仕事で体がなまってしょうがない」
成瀬はぼやきながらも体を伸ばして伸びをする。
それを見た陸将補佐の曽根は呆れた目をして成瀬を見ていた。
「なんだその目は...」
「はぁ...この方は仕事はできるんだけどなぁ」
「何かいったかね」
「い、いいえ!なんでもありません!」
曽根はわざとらしく咳払いをして次の資料を成瀬に渡す。
「ゴホン。そちらの報告書のチェックもおねが『地震です、地震です』」
部屋に『ウー、ウー』とけたたましい音とともに地震警報が流れ始める。成瀬達はとっさに近くの机の下に入り頭を守った。
揺れ始めて2分ほど経つと2人は本当に収まるのかという考えが微かによぎる。その後、時間にして約3分揺れ続けたのだった。
揺れが止まり成瀬達は机の下から周りが安全だと確認すると机から出て頭を切り替える。
ここは自衛隊基地だ。地震の規模や被害次第では隊員や救援ヘリを派遣しなければならない場合もある。よって、首相官邸にどれほどの被害が出ているのかはわからないが、総理や直属の上司である防衛大臣に連絡を取らなければならない。
成瀬は現状把握を済ませると即座に指示を出すことにした。
「大丈夫か?悪いがテレビをつけて外部の現在状況を確認しておいてくれ。私は防衛大臣に電話をする」
「わかりました。周辺地域の避難誘導や災害支援の物資の運搬の必要があるかもしれません。先んじて3等陸佐以上には通達してもよろしいですか?」
「あぁ、頼んだ」
成瀬はできるだけテレビの音が入らないように部屋の端によって電話をかける。しかし電話から返ってくるのは機械の案内音声のみだった。
「クソっ!」
思い通りにいかない事態についつい悪態が出てしまっていた。
震災が起きた際はしばしばあることだが、回線が混み合っていて電話が繋がらなかった。
「仕方ないか。曽根くんの報告を聞こう」
「承知しました。まずこの地震は非常に特殊なものとのことです」
「特殊? どう言うことかね?」
「気象庁に問い合わせたところ、震度5強の地震が日本全土で確認されました」
「なっ、つまり日本全てが被災しているということか!?」
「その通りです。更には3分以上も揺れが続いており異様な長さです。揺れ自体は強くなくとも、長さから想定される被害規模は計り知れません」
成瀬は最悪の事態を想定し始めた。自衛隊は地震などの震災現場に派遣されることが多いが、基地は耐震性能が良いわけではないのだ。首都付近であればともかく、地方の基地では震度4から5弱に耐えるのがいいところだろう。
今回は震度5強な上に日本全土の規模だ。地方でもまともに機能できる自衛隊基地の数を考えると成瀬は頭を抱えざるを得なかった。
「気象庁からは、『日本全土全て平等に同じ震度の地震が起きていた、それと他国も同じ状況下にあるかもしれない』との報告が上がっております」
「信じられんが、それが本当であるなら揺れは海外にまで及んでいる可能性がある。震災支援の要請が来るかもしれんが止めておいてくれ」
「止めるのですか?」
「ああ、一つの県や街程度であれば問題はなかったが、被害規模が日本全土では自衛隊の手が足りない。そんな時に他国に派遣する人材が不足するのはわかりきっているからな」
「そうか、日本全土では通常通り被害の少ない地域に避難は難しそうだな。国からの指示は来ているか」
「はっ、通常より大規模かつ特殊なこの状況を鑑みて、各自衛隊基地は付近の地域住民の避難誘導や災害救助の任につくようにと指示が出ています」
二人が今後の対応について話していると、つけっぱなしだったテレビから一際大きな声の報道が聞こえてくる。
『ご覧ください! 元あった土地がくり抜かれたかのように消え、そこには塔のようなものが建っています。繰り返します---』
そこには、東京ドームの観客席が不自然に円状に消えさり、残った大きな空間にはヘリが滑空している高さと同じくらいの塔が
二人が呆気に取られていると、一人の隊員が勢いよく入室してきた。
本来では、上官の部屋に許可も得ずに勝手に入るなど機密保持に関わるため許されないが、今は非常事態だ。二人はその行動を咎めず次にその隊員が発する言葉を待った。
「天海入ります! 国からの緊急回線から入電です! 先程の地震と共に日本各地に謎の塔が出現。通常の地震の規模を超えて想定外の事態が多いため、首相官邸はこの地震の緊急対応会議を開くことに決定しました。」
成瀬は報告を受け考えをまとめていく。報告から考えてもあまりにも対応しなければならないことが多い。成瀬は次から次へと起こるこの異常な現象に頭を抱えたくなるが、その気持ちを我慢して入ってきた天海と会話しながら対処策を考えていく。
「了解した。他の通達はあるか?」
「はい! それに伴い成瀬陸将の任を先程の避難誘導指揮から解き、新たに塔を仮称アルファとしてこれの調査チームを編成して随時報告するように。とのことです」
「これは超常的な力で日本に出現したとでもいうことか」
「それは分かりかねますが、この基地の直ぐそばにも一つ現れています。今は現実を見るしかないと本官は考えます」
「そう、だな。天海一等陸尉の指揮のもと周辺住民の避難と救助を命じる。避難誘導を担当する班には塔の付近には近づかないよう厳命しなさい」
「了解しました! 早速班を編成して現地へ向かいます!」
天海は受けた命令を遂行するために部屋を退出していく。天海が部屋を出てすぐに陸将補佐である曽根にも指示を出した。
「夕凪三等陸佐に命令を伝達。夕凪三佐は調査チームを編成し現地へ向かうこと。念の為に銃以外にもナイフの扱いのたけた者達中心にすること。編成次第ここを経つように通達しなさい。その後は曽根くんは現状把握に努めてくれ」
曽根は敬礼をして直ぐに行動に移す。
成瀬が窓から外を見ると本来は無かったはずの場所に塔が見えていた。その塔には特別な装飾がされている訳でもないのにひときわ目が引かれてしまう。
今、目の前に見えている光景がこの国に大きな変化が訪れた現実を彼に直視させるのだった。
成瀬は自分の指揮下に入って夕凪から通信を受けていた。
『こちら夕凪三等陸尉。総勢13名の調査チームを率いて現時刻13:00に塔へ主発いたします。本官たちは非常事態を予想し96式多目的誘導弾システム搭載の高機動車2台とパジェロ3両を用いてアルファに向かいます。到着は13:15だと推定します』
「了解した。今回の調査はアサルトライフルの携帯を許可する。移動中は民間人を刺激しないように注意すること。事前に通達された通り中は未知だ。危険性を減らすために何かあれば随時報告するようにしなさい」
『夕凪了解。間違っても民間人が入ってはいけないので避難誘導の際に塔の半径500mの封鎖をお願いします』
「わかった」
こうして成瀬の指揮により夕凪たち調査チームは謎の塔へと向かうことになった。
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