依依恋恋、合縁機縁

@bear-glasses

優越と■■

突然だが、私はとある男に恋をしている。


「おはよう」

「おー、おはよー」


そう、目の前にいるコイツ。ふにゃふにゃとしていて、掴み所がなくて。

敵を作らないけど特別仲がいいやつもいない。

所謂『要領のいいやつ』だ。


なんでそんなやつを好きになったか。と言われると難しいのだが、なんてことは無い。


見たのだ。

見てしまったのだ。


この男のを。


それは今から2ヶ月は前、夜の街に、コイツはいた。

ワックスで髪型を変えて、恐らくノンホールであろうピアスをつけ、さも大学生ですよ。と言わんばかりの服で。


年上の、それはもうお金を稼いでそうなお姉様と逢い引きをしていた。


そう、と言うやつである。


とても意外だったので、少しからかってやろうと写真を撮って。

後日、呼び出した。


「なあ、これ、君だろ?」


そう私が話すと、彼の雰囲気は一変した。


「…お前、何時撮った?」


声色は冷たくなり、何時もよりも余程鋭い語調だった。

柔らかい目元も鋭くなり、そう、それはもう。


心底、興奮した。


だって、そうだろう?

何時もなら


「おー、サンキュー!」

とか

「そんなんじゃないって!もー、酷いぜ全く」

とかさ。


どれだけライン越え発言してもおちゃらけて流してたんだぞ?


それがこれだ。


もう興奮した。私しか見てないコイツの貌に、心底優越感を覚えた。


「よく撮れてるだろ?夜の街で見かけてな。お前しかいないと思ったよ」

「…何が目的だよ。金か?」

「そんなんじゃないさ」


君だよ。


と、ハートマークすら付きそうな声音で言うと、彼はそれはもう面白い顔をした。


「何言ってんだおまえ」

「だから、私の目的は、君なの。君のことが知りたいな」


教えてくれよ。って、そう可愛く言うと。

彼は顔を歪めた。



話を聞くと、彼は典型的な母子家庭の出身らしく、親に楽をさせたくて秘密でママ活をしているそうだ。

服だって最初はなくて、ママ活の時の服は歴代のママからの貢物らしい。


「なるほど。君はお母さん思いなんだね」

「うるせえ。教師に言うなら言うでパッパとしろよ。学校でも何でもやめて」

「そんな事しないよ。もったいない」

「何?」

「だって、そんな君は私しか知らないんだ」

「私を睨めつける鋭い視線も、いつもならおよそ出ないような荒い言葉も。卑屈な雰囲気も全部全部」


わたしだけの、もの。


「最高だろう?だってここで君のそれを知ってるのは私だけ。君のことが好きな木野とか、悠里だって知らない」

「は?おい、ちょっと待て」

「何時も何時もヘラヘラ笑って煙に巻く君の狼狽えた顔もわたしだけが知ってる」

「何さらっと俺のこと好きな女の子の名前バラしてんの?馬鹿なの?つうか話を聞けよおい」

「だからね」

「おい」

「君のそれを知ってるのは私だけなら、私は君の全てを黙っててあげる。ママ活だって続けてていい」


だから


「私のものになってくれよ」


私は君が大好きになった。


「…イカれてるよ。拒否権なんてないだろ?」

「あるよ?そうなったらバラすけど」

「無いんだよそれは。ああ分かった。わかったよ!」


と、吐き捨てる彼も、私しか知らない。


「付き合ってやるよ!」

「付き合ってやる?」

「付き合って下さい!!」

「いいよ♡」


ああ。一生離さないからね。

こんな私に目をつけられて、本当にご愁傷様。

でも安心して?絶対私に執着させるから。

幸せになろうね。


愛してるよ。


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