第3話 特別製

「一度に付与しているステータスポイントが非常に多いため、まあ有体に言えば表示可能な桁数が多くなっています」


どうやらステータスボード自体に特別な機能がある訳ではなく、割とシステマチックな違いだった。

謎の人物、改め女神サマ?は続ける。


「実際のところ、すべてのステータスポイントを割り振ることであちらの世界の存在であなたに敵う者はいなくなるでしょう――やりすぎと思うかもしれませんが、『多勢に無勢』という言葉もあることですし、集団をものともしない卓越した個体となるには、まあ十分バランスの取れたところだと考えています」


「そうなのか」


まあ俺にはそのゲームバランスはよく分からんところだが。


「また、あなたには、初期時点で付与されているステータスポイントの他に2つの権能があります。それが、『成長ボーナス』と『一つの願望を叶える』です」


「ほう」


「どちらも言葉通りですが――あなたが魔族を倒したとき、経験値が手に入り、ステータスが上昇し、レベルが上がることでステータスポイントを得ることになりますが、その取得できる経験値の量が増加します」


「具体的にどのくらいなんだ?」


「大体、あちらの『天才』基準で2倍になります」


天才基準ということはつまり、『あちらの世界』とやらでは人それぞれ得られる経験値倍率が異なっているのか?

なんにせよ、なかなかのチートだ。


「そして、これらのステータス的な恩恵を一方的に与えてさあ転移というのもあまり良くないということで、お好きな『願い』をおひとつ叶えます」


「それは、大体なんでも?」


「ええ、なんでもです。ただし、あちらの世界に影響を与えない、つまり私の権能で実現可能な範囲にはなりますが――例えば、残された家族を大金持ちにする、などでも可能です」


そこで、俺は重要なことを思い出す。


「あ、そういえば俺、車の運転中にここに連れてこられたっぽいんですけど…その辺り、大丈夫なんでしょうか?」


俺が急にいなくなって車だけが残り暴走して事故を起こす――などだったらとんでもないところなのだが。


「大丈夫です。あなたがいなくなる影響はこちらで最小限に抑えます」

「具体的にはそうですね――その日あなたは『なぜか徒歩で通学し、帰路で謎の失踪を遂げる』というような形になるでしょうか」


なるほど、最低限のアフターフォローはしてくれるのか。


「というか、さらっと現実改変みたいなことするのな…」


そう俺が言うと、女神サマは答える。


「いえ、監視カメラや駐車場の入退場ゲートの記録を書き換えるだけですよ――人の記憶を消すまでもありません。例えあなたが車で移動しているところを誰かが見ていたとしても、何も証拠が出てこないならそれは――その人の違和感だけで終わりますから」


と、割と合理的なことを言う。


「なるほど、理にかなっていて省エネだな」


「ふふ、そうでしょう?――そうですね、他に質問が無ければ、こちらへどうぞ」


そう言うと、真っ暗な中で白く光る――魔法陣のようなものが現れる。


「『願い』を聞くと同時に転移を行う――という内容の儀式を行います」


「ステータスの割り振りは転移後ってことか?」


「そういう事になります――というか、転移中の次元の狭間で行っていただくことになります。いかに近いとはいえ、世界間の移動ですから。数秒ですぐ、とは流石に」


「なるほどな」


「ステータスボードや割り振りについては、正直私の方では分からないので質問されても答えられません。そっくりそのまま向こうのものをコピーしてきて多少手直ししただけですので、殆ど内部構造は把握していないんです」


「ええ…」


じゃあ、ステータスの割り振りについては完全手探りか。


「もうよろしければ、叶えたい願いを心の中で唱えながら、法陣にお乗りください」


「分かった――本当に、願いはなんでも良いんだな?」


「ええ、まあ世界の崩壊などを望まれると流石に叶えらませんが――私がこの法陣に与えた権能の範囲で、あなたの望みが自動的に叶えられる、というような形になりますので」

「つまり、あなたの願いがどのようなものであれ私がそれを認識することはありません――プライバシーに配慮したイマドキ仕様です」


「おお、それは素晴らしいことで」


神様の口からイマドキなんて言葉を聞くとは思わなかったが、まあこの世界のすべてを知ってそうな感じなのでおかしくは無いのだろう。


「じゃ、『願い』も決まったので行ってきます」


「はい――それでは、いってらっしゃいませ。世界間の交信はそう出来ることでは無いので、私が向こうでのあなたを見守ることはできませんが、活躍をお祈りしています」


俺は、法陣に乗る。


その瞬間、法陣が眩く光る。頭の中をまさぐられている感覚は一切無いが、おそらく俺の願いをこの法陣は上手く認識しているはずだ。


俺がこの異世界転移で願うこと、それは――

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