第二話 ~朝のトレーニングをしていると、妹のように可愛がっていた女の子から手紙が届いた~

 第二話





 早朝。三人の妻を寝室に残して俺は家の外に出ていた。

 かなり重めに重めに仕立ててある木刀を手にして、型の確認をしながら日課の素振りをしようと思っていた。


 重い刀をゆっくりを振ることによって、型と身体の動きを確認出来る。


「……一の型 三日月の舞」


 呼吸を意識して、集中力を高めていく。

 雑念を排していく内に刀と自分だけの世界に包まれていくのを感じた。


 そして、全ての型と身体の動きを確認し終えた時には、滝のように汗を流していた。


「ふぅ……『外の世界』の力を使った反動はそこまで無かったみたいだな」


 サリンとの戦いで使った『外の世界』の力。


 剣の理の先にある『禁断の力』だ。


 こればかりはエリックにも話はしていない。

 終の型を修めて、理の入り口には立っているようだが、彼がこの場所に至るのはあと十年はかかるだろうな。


 まぁ時期が来たら話すことにしよう。


 そんなことを考えながら、手にしたタオルで汗を拭っていると、空から伝書バードがやって来た。


「手紙か……ミルクでは無さそうだな。となると誰だろうか?」


 伝書バードがやって来た方角は俺の故郷とは反対側。

 龍の住処の方角だが……


 伝書バードが運んできた手紙を俺は受け取ったあと、懐にしまっていたクッキーを伝書バードに食べさせてあげてから空に離した。


「さて……一体誰からかな?」


 そう呟きながら送り主を確認する。

 そこには


『親愛なるベル兄様へ カレンより愛を込めて』


 と書かれていた。


「ははは……噂をすればって奴だな」


 カレンは龍王リュークの一人娘だ。

 若い頃。龍の住処で修行としてリュークの元にいた時に懐かれた女の子だ。


『こんにちは。ベル兄様に会えない日々が続く中、私は寂しい思いをしています。

 風の噂でベル兄様が『婚活』をしている。と聞きました。

 本当でしょうか?私と結婚すると約束していただいたと思いますが嘘でしょうか?

 違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?違いますよね?

 ……失礼しました。少し取り乱してしまいました。

 これも風の噂ですが、近いうちにベル兄様が私の居る場所を訪れると伺いました。

 親愛なるベル兄様に逢えるのを楽しみに待っております。


 それではここで失礼します。


 ベル兄様の伴侶 カレンより』


「……やばいことになってるな」


 手紙の内容を読んだ俺は、稽古とは別の意味での汗が流れるのを感じていた。


 とりあえず、俺が『子供との口約束』と思っていたものは、カレンにとっては『人生を賭けるに値する約束』だったようだ。

 彼女に対して『ごめん。軽い冗談だったんだよ』なんて言葉が言えるはずがない。

 まぁ、結婚するしないは別として、しっかりと話をする必要はあるよな。



「おはよう、ベル。やっぱりもう起きてたのね?」

「おはようミソラ。珍しいなお前がこんな時間にここに来るなんて」


 手紙を片手に少したけ思案をしていると、前からミソラがやって来て俺に朝の挨拶をしてきた。


「貴方が龍の住処に行く。という話を聞いたのよ。それで私も着いていこうと思ったわけよ」

「……俺としては構わないけど、ギルドとしては平気なのか?リーファだけじゃなくてギルドマスターのお前まで抜けるのは痛手じゃないのか?」

「通常の業務はリムルちゃんに振ってきたわ。あとはシルビアとエリックが王都に居るから問題は無いわね。それと、豪鬼さんも残ってくれるみたいなのよ」

「豪鬼さんが!!??」


 トウヨウの最優冒険者が何故??


「愛刀の手入れを含めて、王都を気に入って貰えたみたいでね。ひと月ほどは観光を含めて滞在して貰えることになったのよ」

「そうなんだ。……と言うか、観光をしている人を『戦力』として数えるのはどうかと思うけどな」

「良いのよ。何かあったら頼らせてもらいますって話はしてあるし、彼からも了承は貰ってるわよ」



 そりゃあ豪鬼さんの性格なら断ることはしないだろうに……


 はぁ、後で伺わせてもらってお礼を言わないとな。


 俺はそう心に決めると、家に戻るように歩みを進めた。


「これから家で朝ごはんになるんだ。ミソラも来るだろ?」

「もちろんよ。そのつもりで来たからね」

「ははは。とりあえずツキの手料理には期待していいぞ。あれはとても美味しいから」


 そんな会話をしながら、俺とミソラは家の中へと戻った。

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Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~ 味のないお茶 @ajinonaiotya

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