幕間 ~魔界side~
幕間 ~魔界side~
サリン視点
人間界での一件を終え、私は自宅で湯浴みをしてから王城へと戻ってきた。
素体を遠隔で操るのには集中力がいる。
誰にも邪魔されない場所でする必要があるからだ。
そして『あの方』と謁見するのに汗にまみれた身体では失礼にあたるからだ。
「お帰りサリンお姉ちゃん!!」
王城の中へと足を踏み入れると、先に戻ってきていた妹のルシアが私の元に駆けてきた。
「ただいまルシア。どうやらお前も負けて帰ってきたみたいだな」
「むーーー!!!!あんな素体じゃ無ければ勝ってたよ!!それはお姉ちゃんも同じでしょ!!」
「いや、どうだろうな。剣聖ラドクリフはやはりかなりの手練だったな」
彼との一戦を思い出し、私は小さく笑みが浮かんだ。
『まぁでもそうだな……歳をとったからこそって部分を見せてあげようかな』
『ふふふ。なるほどそれは興味深いな』
『滅殺の太刀 奈落流
『守護の太刀 月天流 八の型
『……な、何が起きた』
『それは君が見た『幻』だよ』
『ば、バカな……確かに貴様を斬り裂いた手応えがあったぞ』
『それは君が『優れた剣士である』という証明だな。実力が高い剣士ほどこの技にハマる』
『さて、これは俺が二年ほど前に生み出した技だ。十年前では使えなかったかな?』
「くくく……本当にラドクリフとの手合わせは心踊った」
「お姉ちゃんがそこまで言うのは珍しいよねぇ」
「我も豪鬼との一線は血湧き肉躍るものだったな」
そう言ってやって来たのは、鬼神だった。
「ごめんねぇ……鬼神おじさんも負けちゃったんだよねぇ」
「まぁ仕方あるまい。素体で相手出来るようなレベルでは無かったからな」
申し訳なさそうな表情をするルシアの頭を、鬼神は優しく撫でていた。
こうしてみていると、父親と娘に見えてくる。
「では、
私はルシアと鬼神にそう声を掛ける。
「むー……怒られちゃうかなぁ……」
「こればかりは致し方あるまい。如何なる処罰も受け入れよう」
「盟主は寛大な御方だが、何の成果も得られなかったのは痛いな……」
そして私たちは重い足取りで謁見の間へと向かった。
『謁見の間』
豪華な扉が私たち三人の前に現れる。
この扉を開けた先に盟主がいらっしゃる。
「では、私が扉を開けて説明をする」
「ごめんねぇお姉ちゃん……」
「辛い役目を押し付けてしまったな」
「気にするな。こういうのは私の役目だからな」
私は二人にそう言ったあと、両手で扉を開ける。
『ふふふ……お待ちしていましたよ。サリン、ルシア、鬼神』
鈴のような声が謁見の間に木霊する。
盟主のその声に、私たち三人は膝を着く。
「盟主。本日は我々の失態の報告を行いに参りました」
『なるほど。失態の報告ですか』
盟主はそう言ったあと、私に言葉を続けました。
『サリン、ルシア、鬼神。私の大切な家族が一名も欠けることなくこの場に姿を現しました。一体何を持って失態と言うつもりでしょうか?』
「……え?」
盟主の言葉に私は顔を上げました。
そこにはいつもと変わらない、慈しみに溢れた盟主の姿がありました。
『四つのダンジョンで同時にスタンピードを引き起こし、人間界の戦力がどの程度の物なのか?それを知るのが今回の作戦内容です』
「はい。そして王国に対して優位に交渉を進めるための下準備を……」
『ふふふ、サリン。それは欲張り過ぎですよ?』
盟主はそう言うと、玉座から降りて私たちの元まで歩いて来られました。
『
「そ、それは……」
『ふふふ。それでも真面目なサリンは納得しないのでしょうね』
思考を盟主に読まれて、私は少しだけ言葉に詰まる。
『サリン、ルシア、鬼神。三人に言い渡します。これから言うことを遵守しなさい』
「はい」
「はーい」
「承知」
真剣な表情で言葉を返した私たち三人に、盟主は言いました。
『人間界へと赴き、肌で空気を感じて来なさい』
「それは……素体で……ですか?」
『違います。生身でですよ』
「そ、それでは戦闘能力が今の十分の一以下になってしまいます!!」
『戦うために行くのではありませんよ。人間界のことを知るために行くのです』
盟主はそう言うと、私たちにある魔道具を授けてくれました。
『これは魔族を人間族の見た目に変化させる魔道具です。これを使って潜入調査をしてきてください』
「わかりました」
私は盟主から授かった魔道具を胸に、礼をしました。
『良いですか。サリン、ルシア、鬼神。この三人が欠けることなく私の前に再び現れること。これが『成功』です。これ以外は全て『失態』と心得なさい』
「はい!!」
「はーい!!」
「承知した!!」
私たちの返事を聞いた盟主は微笑みながら私たちに言いました。
『それでは行きなさい、私の大切な子供たち。再びこの間に現れることを心待ちにしてますよ』
こうして、私たちは盟主から授かった魔道具を使い、人間界ヘと向かうことになった。
…………。
ふふふ。予定とは違うが生身でラドクリフに会うのは楽しみだな。
私はそう思いながら、謁見の間を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます