最終話 決戦・魔獣大氾濫から王都を救え その③
最終話 その③
エリックside 前編
「では、師匠。行ってきます」
「了解だ。まぁお前なら何の心配もしてないから。油断はしないようにだけ言っておくよ」
「はい。それは当然です」
俺はそう言って師匠に頷いたあと、奥様のリーファさんに声を掛ける。
「それではリーファさん。持ち場の東の門へ向かいましょう」
「そうね。時間も限られているし、持ち場で色々と準備をしておきたいからね」
リーファさんの言う色々と準備をしておきたい。
きっと遠見の魔法や結界魔法の仕込みだろう。
「じゃあね、ベル。私が居ないからって戦闘そっちのけでツキとイチャつくんじゃないわよ?」
「あはは……大丈夫だよ、ミソラも居るんだし」
「ほら!!リーファはさっさと持ち場に行きなさい!!」
ベルフォード師匠のもう一人の奥様。ツキさんがリーファさんを追い払うように手を振っていた。
リーベルト王から話を聞いていたが、どうやらあのツキさんは師匠の愛刀の月光が人の姿を得たものらしい。
俺の相剣のクラウ・ソラスと同じく意思のある武器だということは聞いていたが、まさか人の姿になるとは……
そんな彼女と結婚するというのだから、やはり師匠は俺の想像なんか遥かに超えた存在だ。
まぁ正直な話。世の中には不思議なこともあるものだと思ってしまうな。
「スタンピードに対しての配置は、貴方が考えたものなのよね。随分と成長したじゃない」
東の門へと向かう途中。リーファさんからそう言われた俺は、首を横に振ってそれを否定した。
「いえ、まだまだですよ。正直な話をすればトウヨウの豪鬼さんが居なければ、かなり厳しい戦いを強いられていたと思います。イレギュラーに助けられた部分が非常に大きいです」
「それでも、考え方は完璧だってベルも褒めてたわよ。成長を見せられてよかったわね」
「まぁ、師匠の後継者を名乗るのなら及第点かと思ってます」
俺がそう答えると、リーファさんは軽く笑いながら俺に言ってきた。
「自分に対しての評価が厳しすぎるのはベルにそっくりね」
「師匠に比べればまだまだだと痛感する毎日だからですよ」
そうな話をしていると、持ち場の東の門へと到着した。
「遠見の魔法を使うわよ。周りに魔獣の姿は見えないけど、何かあったらフォローをよろしくね」
「了解です」
リーファさんはそう言うと、目を閉じ魔法杖を構えて詠唱に入る。
魔力が練り上げられ、彼女を中心に魔法陣が描き出される。
リーファさんの遠見の魔法は十キロ先まで見渡せる物だ。
通常の魔法使いなら五キロがせいぜいなので、破格の性能だと言える。
だが、今回スタンピードを発見したハーピーの羽根に所属しているルーシーさんの遠見の魔法は二十キロ先まで見えると言う。
師匠に貰ったアドバイスで遠見の魔法と探知の魔法を重点的に鍛え上げたようだ。
そう考えていると、魔獣の気配を感じた。
距離はここから五百メートルと言ったところか。
遠くに意識を向けているので、リーファさんは気が付けない場所と言える。
「確認出来たわ。レイスとゴーストの群れが八キロの所にいるわね」
「リーファさん。ここから五百メートルの所に魔獣の気配を感じました」
俺がそう言うと、リーファさんは軽く笑いながら俺に言う。
「近場の敵を見逃してたわね。助かったわエリック」
「いえ、それが自分の仕事ですから。では殲滅してきます」
「それじゃあその間に私は結界魔法を使ってるわね」
リーファさんが魔法杖を構えたのを見たあと、俺は魔獣の気配のした場所へと駆け出した。
『ご主人様!!ようやく私の出番ですね!!待ちくたびれました!!』
魔獣の気配のした場所へと駆けていると、頭の中に女性の声が響いた。
「そうだな。今回もよろしく頼むぞクラウ・ソラス」
『はい!!ご主人様の期待に応えられるように全力を尽くします!!』
声の主は俺の愛剣のクラウ・ソラス。
ベルフォード師匠の月光と同じように、意思のある剣。
極光のダンジョンで手にした伝説級の武器だ。
そしてしばらくするとポイズンスライムの群れに遭遇した。
敵の数は五体。ポイズンスライム自体の討伐難易度はCランク。普通に戦えば余裕の相手だ。
「行くぞ!!クラウ・ソラス」
俺はそう言うと、鞘から剣を引き抜き天へとむける。
「焔よ堕ちろ!!」
俺がそう詠唱を唱えると、クラウ・ソラスに深紅の焔が灯る。
『ああああああああぁぁぁ!!!!!!』
その瞬間。俺の頭にクラウ・ソラスの『嬌声』が響く。
『気持ちいいぃぃぃ!!!!もっと燃やしてぇぇぇぇぇ!!!!』
「これさえ無ければ最高の剣なんだけどな……」
俺の戦闘方法の『魔法剣』は剣をダメにしてしまうことが非常に多い。
彼女と出会うまでは毎回新しい剣を用意していたものだ。
そして、このクラウ・ソラスにも師匠の月光の固有能力『永遠不滅』と同じように能力が備わっている。
その能力は『
自身に加えられたダメージを受けの分だけ能力値が上がるという能力だ。つまり、俺の魔法剣との相性は抜群なんだが……
『んひぃぃぃぃぃぃい!!!!最高だよぉぉおおお!!!!』
「この声だけはどうにかして欲しいと思うよな」
頭の中に響く愛剣の嬌声に眉をしかめながら、俺はスライムに対して斬り掛かる。
「守護の太刀 月天流 一の型 三日月の舞 ・
師匠から伝授された剣技に俺の魔法剣を組み込んだ技だ。
焔を纏わせたクラウ・ソラスで五体のスライムを一太刀で殲滅した。
「ふぅ……まぁこんなもんだろ」
『あぁ……もぅおしまいですか?』
スライムを殲滅した俺は、クラウ・ソラスから焔を消して鞘にしまう。
『あふぅ……もっともっと虐めてくださいね……ご主人様』
「……はぁ。まぁ君が悦びそうな状況にはすぐになるよ」
俺は愛剣の特殊性癖にため息を一つついて、リーファさんの元へと戻った。
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