第二十五話 ~三人の『妻』を実家に呼んで家族に紹介した~

 第二十五話




 泊まりの準備を終えたミルクがレイドさんとシルフさんに挨拶をしていた。


「お父さんにシルフさん!!これからベルの家に行ってくるわね!!」

『そのまま泊まってくるという話だったね。カトレアさんとミゲルさんに宜しくと伝えておいてくれ』

『ふふふ。今日で決めてきても構いませんからね』


「いや、そういう事は結婚するまでしないと決めていますから……」


 拳を握りながらニヤリと笑うシルフさんに、俺は少しだけ気まずい思いを抱きながら言っておいた。

 リーファやツキも同じ家で寝てるんだから。

 万が一のことがあったら命の危険が……


 そして、レイドさんの家を後にすると、外にはリーファとツキが先に出て待っていた。


「挨拶は終わったかしら、ミルク」

「えぇ、待たせて悪かったわねリーファ」

「ふふふ。それでは全員揃いましたので、ベルフォードの家へと向かいましょうか」


 三人の会話を聞きながら俺は思う。


 こんなに綺麗な女性達が俺の『妻』になるのか……

 なんて言うか人生ってのは何があるかわからないものだよな……


「俺の家はここからすぐだから。着いてきてくれ。案内するよ」


 俺はそう言って三人に先導して歩き始める。


 そして、少しすると懐かしい家が見えて来た。


 俺が十五年育った場所。海産物の加工と販売を行う集落最大の商家だ。


「随分と大きな家ね。正直な話をすればレイドさんの家より大きくて、この家が長だと言われても納得してしまいそうだわ」

「ははは。まあ客人を招くことが多い家だったからね。ただ、親父もお袋も悪い人間じゃないから安心してくれ。あと、家は弟が継いでるけど、弟もとても良く出来た人間だからな」


「なるほど。ベルフォードには弟さんが居たのですね」

「名前はラルフと言うのよ。私の三つ上だから今年で三十になるわね。取引先さんのとても美人な女性と結婚して、もう五年かしら。夫婦仲もとても良くて円満な家庭を築いているわね」


「そうか、アイツも結婚してたのか。知らなかったな」

「だってそのくらいの時期からよ。ベルの手紙が来なくなったのは。教えようが無かったわよ」

「ご、ごめんな……」


 連絡をしなかったことを突かれると本当に申し訳ないと思ってしまう。これからは本気で気をつけよう。


 そう思いながら、俺は家の扉の前に立つ。


 コンコンとノックをするとしばらくしてガチャリと鍵が開く音がした。

 そして、玄関の扉が開くと中から使用人の初老の男性が姿を現した。


『こんばんは。こんな夜分にどうなさいまし……これは、珍しい方がやって来ましたね』

「夜分遅くに申し訳ない。それとお久しぶりですレオンさん」


 使用人のレオンさんは俺が生まれた時からの付き合いの方だ。


 シルフさんと同じく頭が上がらない人の一人だな。


「ベルフォード様が帰って来るのは二十年ぶりですかね。王都でのご活躍は耳にしてましたよ。それと立ち話もなんですから中へお入りください。ミルフィーユ様とお連れの方もどうぞ」


「ありがとう。お言葉に甘えるわ」

「ありがとうございます。お邪魔します」

「レオンさん。今夜は私はここに泊まる予定だからそのつもりでよろしくお願いするわ」


 ミルクがそう言うと、レオンさんは少しだけ目を見開きながら言葉を返す。


「なるほど。そうでしたか。了解いたしました。ではそのように取り計らいますね」


 そして、玄関で靴を脱いでスリッパを履いた俺たちはレオンさんに連れられて居間へと向かう。


「ちょうど先程夕食の準備を始めたところです。皆さんは夕食は取られましたか?」

「いえ、まだです」


 俺がそう答えると、レオンさんはとてもありがたい提案をしてくれた。


「それでしたら皆さんの分もご用意させていただきたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「ありがとうございます。とても助かります」

「ふふふ。本日は海鮮のシチューでございます。ササンドラの名物をふんだんに使った料理ですので、お連れの方にも満足していただけると思いますよ」


「それはとても楽しみね」

「昼は軽めでしたからね。私はお腹がペコペコです」

「レオンさんの作るシチューは絶品よ!!王都の料理人にだって負けないと思うわ!!」

「ははは。ミルフィーユ様にそう言っていただけて光栄です。ですが、それは流石に言い過ぎかと思いますよ」


 そして、レオンさんは居間の扉を開けて俺たちの事を話し始めた。


「旦那様に奥様。そしてラルフ様。ベルフォード様がご帰宅なされました」


 レオンさんのその言葉を受けて、俺は前へと進む。


 視線の先には懐かしい顔がこちらを見て目を見開いていた。


「親父にお袋。それにラルフも久しぶりだな。こんな時間に突然やって来て、しかも連絡もしないですまん」

『お、おかえりベルフォード兄さん!!久しぶりだね!!』


 柔和な顔をした弟のラルフが、笑顔を浮かべながら俺を迎え入れてくれた。


「連絡をしなくて悪かったなラルフ。あと結婚したんだってな。おめでとう」

『ははは。もう五年も前のことだよ。そのくらいの時期からだよね。兄さんからの連絡が途絶えたのは。Sランクになったってのは知ってたからさ、何かあったのかと心配してたんだよ?』

「そ、それはミルクにも怒られた。本当にすまん」


 そして、ラルフは俺の後ろにいるリーファとツキに視線を向ける。


『それで、兄さん。もしかしてとは思うけど、結婚相手を連れて来た。って話じゃないよね?』

「ははは。ご名答だよラルフ。結婚相手を連れて来たんだ」


 俺がそう答えると、ラルフは少しだけ目を細めながら俺に言ってきた。


『ミルフィーユさんのことはどうするんだい?兄さんのことをずっと待ってたんだよ。あんなに一途な良い子を袖にするなんて言うなら、いくら兄さんでも許せないよ』

「まあ……向こうの両親とも話をしたし、俺の『妻達』も認めてくれてることなんだけど、ミルクとも結婚することにしたんだ」


 俺がそう答えると、ラルフは少しだけ苦笑いを浮かべながら言葉を返した。


『ははは。そうか。ガルムでは重婚が認められてたからね。全く。兄さんも幸せものだよね』

「人生何があるかわからないもんだと思ったよ……」


 そして、兄弟の話を終えたラルフは、俺の後ろに居るリーファとツキに向き合う。


『こんばんは。自分はベルフォード・ラドクリフの弟のラルフ・ラドクリフです。兄さんが王都で冒険者になったので、家業は自分が継いでいます。まだまだ至らぬ所があり、勉強の毎日です。どうぞよろしくお願いします』


 そう言って一礼をしたラルフに、リーファから自己紹介をした。


「ご丁寧にありがとう、ラルフさん。私はベルの冒険者時代の最初からのパーティメンバーでリーフレット・アストレアと言うわ。長いから呼ぶ時はリーファで構わないわよ。そして、貴方の言うように私はベルの『本妻』になる女よ。よろしくね」


 妻では無く本妻という辺りに、ツキへの対抗心が見て取れる……


『なるほど。兄さんのパーティメンバーの方でしたか。リーファさん。よろしくお願いします』


「ラルフさん。その女の発言は間違いです。本妻はこの私ですから」


 リーファの言葉にやはりと言うか、当然のようにツキが食い付いた。


『……え?』


 ツキの言葉に振り向くラルフ。

 ツキはツンと上を向きながら言葉を放つ。


「私はベルフォードの愛刀のツキと申します。彼と結婚をするために人の身体を得てここに居ます。そしてこの私こそがベルフォードの『本妻』です。リーファもミルクもベルフォードの『側室』です。お間違いの無いようにお願いします」

『……え、えと。ツキさんは刀だったのかな?に、兄さん……俺にはよくわからないよ……』


 すまんラルフ。俺にもよくわからないんだ……


 戸惑いの表情を浮かべる弟に、俺は申し訳無い心を持ちながらそう心の中で呟いた。

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