凱旋。そして不安
俺はマリクリを引きずりながら門を通って里に帰還した。目を瞑ると幾千人の民衆たちが歓声を上げ、手を叩き、花びらを撒いて俺の凱旋を祝福しているのが見える。
俺は里の中心にある焚火場を囲む岩に腰を掛けた。集落のみんなも俺の後をついて来たのか、俺が岩に座るとみんな俺の前に立ち並んだ。
「お前たちを苦しめる悪逆非道なマリクリは俺の手に下った。今日から俺がこの里のボス…いや、この国の王だ。服従する者はこうべを垂れろ」
俺が偉そうに言うと、みんな一斉に地面に膝を突き、頭を深々く下げた。
「コイツと違って、俺はお前たちの忠義に報いる。これから北の村にある女たちは全てお前たちが自由に使え」
俺がそう言うとみんな一斉に頭を上げた。みんな驚いたような、困惑したような表情を俺の方に向ける。
「これからって…」
ボムが小さく呟いた。俺はボムの方を見つめゆっくり頷く。もう王としての威厳が身について来たぜ。
「宴の後も、ずっとだ。これからずっとお前たちが好きに抱いていいぞ」
「うそ…だろ」
「夢か?」
「いや、神だ」
「ありゃカリスマか?」
俺の言葉にみんな少しずつ声が大きくなっていく。60人となればかなりうるさい。
「…うるせえなぁ」
俺がそう言うとみんな一斉に黙った。マリクリの調教がよっぽど聞いてるな。口元が緩みそうになったが、なんとか耐えることができた。
「だがこの里に居た女たちはこれからは全て俺のもんだ。リーダー格の奴らも使うことは許さん。この里に居るのは俺か、俺以外か、だ。分かったな?」
「「「はっ!!我が王よ!!」」」
またみんな一斉に俺の前でこうべを垂れた。
うんうん、いいね。それ正解。
さっそくみんなも王の配下としての自負が芽生えて来たんじゃないか。ゴブリンの汚い禿げ頭が太陽の光を反射する。今ぐらいはニヤケてもいいだろ。
「さて、お前たちに最初の命令を下すぞ。全軍をもって北にある女、食糧、武器、資材をかっぱらって里に持ち帰る。北の里は更地にしろ。宴はその後だ」
「「「「はっ!!」」」
みんな元気よく返事をしてくれた。そして俺を先頭に里のみんなを率いて俺は北の里へと向かって行く。
「あれが北の里ですか」
北の里の門が見えてきたところで、すぐ後ろを進んでいたボムが俺に話しかけて来た。
「ボムは初めてか」
「はい、というか殆どの者はそうだと思います」
「そうか、よしお前ら!!あそこが北の里だ!!中に入って中央に焚火場がある!!そこから東にボスの館と食糧庫に武器庫!そして女のいる収容所がある!ボスの館にも女が二人いるからな!お前たちで全部奪ってこい!!行けっ!!」
俺の説明と命令を聞き終えたゴブリンたちは叫び声を上げながら一斉に里の中へと走っていった。俺と俺の側近たちはその光景を満足そうに見つめながらゆっくりと門の中を入っていく。
「ふははははは!!よ、良いぞ!良い光景だな?お前たち」
俺がリーダー格の連中に話しかけるとみんな嬉しそうに笑い声を上げた。
「略奪こそ人生の最高の楽しみです」
ボムがそう答えた。
「やるのもいいが、見るのもまた趣がありますな」
ダリアも年長者らしい受け答えをする。確かに、見るのもそれはそれで別の楽しみがあるものだ。
俺たちは笑いながら談笑し、北の里の門を潜り抜けた。
「奪え奪え!!」
「見ろよ!干し肉と酒がこんなに!」
「シャブの原液が十壺もある!!」
「乳のでけえ女だ!!」
「おい!こっちの女もう使われてるぞ!」
「誰だ!抜け駆けした奴!!」
ゴブリンたちは里の中を四方八方走り回りながら、小屋を破壊し、中にある食糧や武器、酒を奪い合っていく。
「お前たち喧嘩すんな!!戦利品は里に帰った後に平等に分ける!!壊した小屋も分解して持ち運べ!!食糧や酒は今食うなよ!女もまだ犯すな!命令に背いた奴は俺の手で殺す!」
俺が命令を飛ばすと、ゴブリンたちはまたすぐに秩序だって行動を開始していく。こいつら俺が命令した時だけはちゃんとするけど…すぐ忘れて暴れるやつだろ。
まぁいいさ。
こんなバカたちだからこそ愛着も湧くってもんだ。
そうか、これが…愛か。
…いや、違うか。
ごめん、やっぱ違った。
一瞬そうかな?って思ったけど、人間の頃の家族とか彼女の方が大切だったわ。こんな数しか取り柄がないゴミ虫に愛着とか湧かねぇわ。
どうせ死んでもすぐ新しい個体が生まれてくるし。ゴブリンってのは妊娠してから一週間で産まれてくる。それも生まれてすぐに立ち上がって自力で飯も食えるし、三日で言葉も覚える。それで一か月後にはもう成人だ。自由に動き回って狩りにも参加できるんだぜ?
こんな奴らがオスしかいなくて、人間のメスとの間しか子供が生まれないんだ。それで人間を襲って爆発的に繁殖していく。
どうだ、キモイだろ?。
コイツ等は二足歩行をして、人間を襲う巨大なゴキブリだよ。
こいつらっていうか、俺もだけど。
さてと、略奪もあらかた終わったか。
もう里には焚火場の巨大な石を除いてなにもない。本当に俺が言った通り、更地にしちまった。
みんな食糧や酒、麻薬の原液が入った壺や、武器、木材などの資材に、女を担いで俺の命令を待っている。
「よーし!お前らよくやった!!いざ国へ帰還する!!」
「「「おおおぉぉぉおおおおおお!!!」」」
俺が門の方へ向かい、みんなの方に向かって叫ぶと、俺の声に呼応してみんな雄たけびを上げながら歩き始めた。
「略奪は、しっかりに国に持って帰ってまでが略奪だ!!モンスターの襲来に注意して、警戒して進め!!」
こういう上手く行っている時に限っていつも、ハプニングが起きて全部ひっくり返るのが俺の人生だった。この世界への転生も含めてな。もしかしたら今、恐ろしいモンスターに襲われて仲間が全滅し、俺だけで一人になるかもしれない。
俺はあらゆる敵からの攻撃を頭でシュミレーションしていく。敵を倒すのではなく、どうやって味方を盾にして俺が生き残るかをだ。
うん、シュミレーションの結果、100%俺は生き残れるのが分かった。俺が安心して小さく息を吐くと、気づけばもう俺たちの里というか国にたどり着いた。
俺たちは門をくぐって焚火場の所まで向かうと、そこで略奪品を置いて一斉に両手を上げた。
「バンザーイ!!俺たちの勝利だあああ!!」
俺の声に合わせてみんな一斉に歓声を上ていく。そして俺は手前に居るダリアに目配せをした。するとダリアは俺に小さく頭を下げると、後ろの仲間の方を振り向いて両手を広げた。
「国王陛下ぁあ!!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」
里に戻る前に俺が言った通り、ダリアは声高く万歳三唱をしていく。するとゴブリンたりもダリアに合わせて万歳をしはじめた。
「「「バンザーイ!!バンザーイ!!バンザーイ!!」」」
「うむうむ、良いぞみんな。それじゃあ褒美の時間だ」
万歳三唱が終わっていったん場の空気が落ち着くと、今度は俺の手配に従って略奪品の分配を行っていく。
食糧や酒、資材、女は配給制なので一旦はぜんぶ俺の物になる。だから配るのは主に武器や防具、アクセサリーなどだ。
それでもゴブリンたちはこれが良いだの、なんだの言いながら略奪品を物色し、俺の元に持ってくる。
欲しい者が被った場合は、俺の独断と選考でバシバシ決めていく。不満は許さん。そんな奴はぶっ殺すまでだ。
「よし、あとは居残り組が残った物を各庫にしまっておけ。女に関しては焚火場の近くに杭を立てて、そこに縛っておくように。狩り組は宴の準備だ。それじゃあみんな一旦解散!!」
俺の命令にみんな慌てたように一斉に四方に散っていく。また俺はその光景を見ながら満足様にうなずいた。
「ふふふ、良いぞぉお前たち。ふふふっ」
まさかこんな早く里のボスになれるとはな。なれるか分からなかったが、この融合スキルで全てが上手くいった。この世界に飛ばされたときは神の存在を初めて呪ったが、いま神がいるならやっと感謝できそうだ。
だが俺はこんなところで止まらねぇ。こんな寂れた森の中で終わってたまるかよ。ゴブリン族がいる地域の外は凶暴なモンスターがうじゃうじゃ居やがる。
そしてさらにその外には人間たちが住んでいるとダリアから聞いた。ゴブリンも元々は人間の住んでいるところから割と近い、森の浅い地域に住んでいたようだが、人間に森を伐採され、住処を奪われたと言っていた。
その話はダリアが生まれてくる前のかなり昔の話しとのことだ。だとしたら人間の支配領域と、この里は俺が想定するよりも近いかもしれない。
ダリア曰く、ゴブリンが住む地域の外には凶暴なモンスターが多数いるので、それが人間の進行を防いでくれていると言っていたが、そもそもこの里が捕まえた女たちはいわゆる冒険者と言われているやつらだ。
人間もかなりの数がすでにこの付近まで活動を広げていることになる。
そして、こんなゴブリン族がこんな凶暴なモンスターに囲まれながら生存できている理由が――この森の支配者たるドラゴンの存在だ。
やつの縄張りはこの里にそびえる台地一帯だ。だから他のモンスターたちは本能でこの台地付近には近づかない。それを利用してなんとか生きているってわけだ。
こういったところは意外と頭いいんだよねゴブリン。ただ一つだけ懸念がある。それはやはり人間だ。
人間の行方を阻むような凶暴なモンスターたちが、軒並みびびって近づかない恐ろしいドラゴンが住んでいるこの森に、どうしてここまで近づいて来るんだ。
人間だってバカじゃない。少なくともゴブリンよりはな。もしかしたらドラゴンをも殺せるなにかを持っているのかもしれない。
実際に殺せなくても、殺せるだろうと思えるような何かを持っている可能性はある。そして人間側にそんな自信を与えられる何かがあるなら、ドラゴンを殺せなくても十分ゴブリンの脅威にはなる。
しかも人間はゴブリン以上に数も力も持っている。だからアイツらに勝つためには最低でもドラゴンを倒す力を手に入れないといけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます