第123話『接敵』
正面にエルフがいないことを確認し、更なる業火を噴射した。まず足元の魔物を焼き、手前にいたキメラを炙り焦がし、奥にいた集団を灰塵に帰した。
地面は放射の軌跡をなぞって三列に赤熱し、木々が焼けて倒れる。故郷の森を焼かれたエルフたちは複雑な顔をするが、誰一人として俺を咎めなかった。憎むべきは目の前の魔物たちだと闘志を燃やし、開けた森を駆けていった。
「――救世のキメラが敵の陣形を割ったぞ!! 続けっ!!」
「――ここが正念場だ!! 一気に攻め込め!!」
「――エルフと世界の未来のため!! 敵を掃討する!!」
いつから救世のキメラなどという名になったのか。困惑していると一人のエルフが横に立ち、「協力感謝する!」と礼を告げて突撃していった。
俺は魔力を最大に高め、三射目の業火を撃った。自陣の遮蔽物となる木々は選んで残し、敵陣の木々は結界の維持に必要な箇所を残して消し炭にした。炎耐性を持った魔物は耐えるが、反撃を許さず暴風で削り飛ばした。
『さぁ、死にたくねぇ奴は下がれ!!』
大暴れを続けていると二体のキメラが飛び掛かってきた。翼を広げて空へと移動するが、キメラ側もコウモリと虫の羽を生やして追ってきた。
「ギウガッ! ガウラァ!!!」
「ギガウラッ!! ギィウ!!」
複数の魔法が放たれ、キメラギドラの肉体に直撃する。だが宝石巨人が持つ魔法に対する防御は強固だ。わずかにも傷を負わなかった。
俺は迫ってきたキメラを爪で弾き、肩から雷鳴鰻を生やした。狙いを定めて電撃を発射し、動きが止まった一体に噛みついた。敵のキメラは本体の球体になって逃れようとするが、残りの二つ首で捕まえてその身を捕食した。
(くそっ、一体は逃したか)
逃げたキメラは地表に落下し、エルフの兵の攻撃で絶命した。追加のキメラが突っ込んでくるが、危なげなく対処していた。さすがはエルフだ。
一度戦場から目を離し、自分のステータスを確認してみた。向上したのは眷属召喚のレベルであり、早速手にした力を使ってみた。魔力の消費が少ない刃兜虫を十数匹出現させ、地上の魔物を引き裂いていった。
『――――今から派手に暴れる! 早く負傷した仲間を下げ、一度陣形を整えてくれ! 人型キメラの参戦に備えるんだ!!』
宝石の棘を撒き、防衛線を越えようとした魔物を串刺しにした。進軍が止まったところを狙い、暴風と業火を合わせた火炎竜巻をお見舞いした。
「――ぬぅ、救世のキメラに従え!! 体勢を立て直すぞ!!」
「――助かった。あと少しで間に合わないところだった」
「――戦える者は継続して攻撃を! エルフの意地を見せるぞ!!」
南の戦況は優勢へと傾き出した。第一次防衛線は維持され、押し返す余裕まで生まれ始めた。俺は丘の上に移動し、戦場を俯瞰して眺めた。
(このままなら耐えきれるか。他の方角が劣勢だっていう報告は無いが、優勢だという声もない。全員無事だと信じるしかないな)
丘から飛び立ち、魔物の群れに向かっていった。両足の先に宝石の棘を生やし、落下の勢いを利用して強そうな大亀の魔物を貫き潰した。
突出したために囲まれるが、取りつかれた上で焼き払った。大量の黒煙が立ち込めて風が吹き荒れる中、一体の魔物が急接近してきた。
『――――こいつは』
邂逅したのは成体の武人カマキリだ。大鎌を振るって俺の首を切断しようとするが、宝石の鎧で防御した。反撃として電撃を浴びせてやった。
一帯に響くのはギチギチとした奇怪な叫びで、今度は顔面目掛けて鎌が突き出された。俺は黒鱗のワイバーンの牙を宝石でコーティングし、真正面から鎌を噛み砕いた。そして片腕を岩石巨人に変え、肘を思いっきり引いた。
『……三百年越しの決着だ。受け取れ!』
ボンと空気を突き破って拳を打ち込む。武人カマキリは回避しようとするが、電撃の痺れせいで一瞬動きが鈍った。岩の拳は胴体の中心部に直撃し、緑色の甲殻が割れて体液が噴き出した。予想よりあっけない終わりだった。
使い道が多そうなので残骸を喰らっていると、目の前の木の枝が揺れた。現れたのは身体の三分の二を獣化させたカイメラで、俺に手を振った。
「クーくん、元気にしていたかしら」
『カイメラか』
食事を中断すると、「それは食べていいわよ」と言われた。本気の殺し合いをするなら手数は必要だと、自信が感じられる口ぶりだった。俺は武人カマキリの頭部を喰いちぎり、キメラギドラの三つ首に火を溜めた。
『カイメラ、今更退けなんて言わない。でも何のために戦っているのか、命を賭けるに値する目標が何か、それだけは教えてくれないか』
今生の別れとなるなら、せめて理由を知りたかった。
『キメラの組織に無心で命を捧げる。そこまでの忠誠心は無いだろ。人を襲うのを我慢できて、他者を思いやれるカイメラが言いなりになる理由は何だ』
「…………理由、理由ね」
『もちろん聞いたからといってここは通せない。それは別の話だからな。でも知れることなら知りたいんだ。これは無理なお願いか?』
カイメラはバツの悪い顔をし、儚く笑った。口をついて出たのは「勝ったら教えてあげてもいいわよ」という拒絶だった。もうこれ以上話し合いを続ける意味は無く、俺は戦闘体勢に入った。カイメラも枝の上で構えを取った。
『合図は必要かしら』
「いいや、不要だ」
『殺されても恨みっこなしね』
「あぁ、分かっている」
『クーくんのこと、そこそこ好きだったわよ』
「俺もカイメラのことは人として好きだった」
出会えて良かったと、これから命を奪う相手に告げた。
俺は全力の業火を噴射し、カイメラは高く跳躍した。月の光の中に人と獣が混ざったシルエットが浮かび、瞬きの間に巨大な獣へと変貌する。大地に君臨したのは白虎を主体とした魔獣のキメラだ。今ここで竜虎が相うった。
「――――さぁ!!」
『――――行くぞ!!』
譲れぬもののため、勝ち取る未来のため、俺たちはぶつかり合った。
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