第12話その日1日だけ、猫が喋ったら

「ちょっと……あんた、まだ寝てないの?

毎夜、毎夜、だらだらだらだらわけの分からない文字を書いてて。

待たされるこっちの身にもなってくれない?」


 突如、文句を言い始めた飼い猫に、飼い主は唖然とした。


“お前、飼い主に向かってそんなこと言うのか?”と、反論したかったが、彼女が言っている事が真実だった為、手も足も出ない。


 いや、下手に手を出したら確実にやられることは、想像出来たからこそ、ここは黙って聞くと決めた。


「ねぇ、聞いてる?」

「は、はい、聞いてます」

「聞いてますじゃないわよ。

それなら、書くのをやめて布団を温めなさいよ!」

「で、でも、

部屋の温度は22度あって」

「猫にとっちゃあ寒いのよ!

飼い主なら、そのくらい把握しておいてもらわないと困るわ」

「わ、分かりました、あと少ししたら」

「今すぐ、布団に入って!!」

「は、はい~!」


 飼い主は、仕方なく渋々布団の中へ潜り込む。


 部屋がまだ暖かいせいか、布団の中はそれ程冷たくなっておらず、人間サイドから見れば、ぐっすりと眠れる温度であった。


 やがて、深い溜め息を吐いたと同時に、荒い鼻息が彼の耳に届く。


 これが“今から潜るわよ!!”という、飼い猫の心配りであった。


 そんな優しい?ご挨拶をする飼い猫に向けて“はよ、入れ!”と飼い主が心の中でどついた瞬間。


 ぐさっ!


 飼い猫の見事に伸びた立派な爪が、飼い主の頭皮に突き刺さる。


 声なき声で叫ぶも、飼い猫の乱れぬ攻撃は、一向に止む気配を見せなかった。


 彼女は痛さでもだえる飼い主を無視し、ひたすら毛布と毛布の間のトンネル掘りを続ける。


 そして、所定の位置である背中の真ん中辺りに体をウズクマ

「はぁ……今日もよく寝られるわ」

と、静かに息を吐くように呟いて眠りに就いた。


「こんなことが、1カ月毎に続くのかよ~」


 飼い主は、先程よりももっと深い溜め息を吐き、剥がされた毛布を整えて、浅い眠りに就く。


 朝起きると、飼い猫は言葉を交わす代わりに、可愛い瞳で“有難う”と訴えた。


お仕舞い😁


令和3(2021)年12月1日作成


Mのお題

平成29(2017)年12月1日②

「ある日突然、世界中の猫が話せるようになった」

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