第9話きゃ~

「きゃ~、部屋が荒らされているわ!?」

メイは、顔を真っ青にして叫びをあげる。


 自室である四畳半が、小物やテッシュペーパーで、辺り一面埋め尽くされていたのだ。


「い、一体……誰なの?」


 恐怖で声がうわずりながらも、何とか絞り出すメイ


 その時、1階へ通じる階段から、何かを引き千切る音が、彼女の耳に届いた。


 恐怖を覚えたが、勇気を振り絞って、その音に耳にを傾ける。


 ぎぃ~ ぎぃ~


「えっ……、何?」


 彼女はそう呟きつつ、音のする方へ足を向け、一歩また一歩と進んでいった。


 その音の発生源に近づいていく度に、メイの心臓は大きく収縮し、胸が何度も締め付けられる。


ぎぃ~、ビリビリビリ

ぎぃ~、ビリビリビリ


 今度は何かが破かれる音まで聞こえてきて、胸の鼓動が止まらなくなった。


 しかし、ここで足が竦めば犯人が分からずじまいだろう。


 それはそれで、悔しい。


 迫り来る見えない恐怖と戦いながら、何とか1階の入口に辿り着いたメイは、震える左手で部屋の電気を探る。


(あった!)


 人差し指でスイッチを確認したことが、彼女に勇気を与えたようで……


「そこにいるのは誰!」


 メイは、もう一度勇気を振り絞って、声を張り上げると同時に、震えが止まらない指でスイッチを入れた。


 パッと灯りが点った刹那、部屋を荒らした犯人と目が合う。


 その拍子に、メイはその場に固まった。


 目の前には、灰色一色のまだ1才になるかならないかの子猫が、箱から口で咥えて引っ張り出したと思われるテッシュペーパーを、器用に両手で押さえている姿があった。


ぎぃ~、ビリビリビリ

ぎぃ~、ビリビリビリ


 子猫は、特に危険ではないことを確認して、再び趣味のテッシュペーパーをバラバラにし始める。


 そう。


 部屋を荒らした犯人は、この子猫だった。


「へっ、部屋を掃除しなきゃ……」


 力が抜け、瞳に悔し涙を浮かべたメイは、深い溜め息を吐きながら、やる気がなさそうに、階段を踏みしめ、部屋へと向かった。


お仕舞い!


令和3(2021)年5月4日作成


Mのお題

令和3(2021)年5月4日

「青の日」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る