第36話 テラス先生の黒歴史 その2

『…で、その子のチャンネルがコレ。

ストーリー書いて読み上げる…、ASMRってよりか、読み上げ動画的なのやってるから、一回聞いてくれよな。

…ま、アタシの何倍も登録者いっから、言わずもがなだけど』

『私たちの悪影響めちゃくちゃ受けまくって性格クソ悪いけど、可愛い子だよ』


コメント:【悲報】先生が女装して面倒見てたの、俺が推してた投稿者だった。

コメント:クソを凝縮してる過程で出てきたゴミみたいな性格なのは知ってるわ。

コメント:↑例え的確で草。

コメント:SNSだけ見てきた。性格はクソやけど、ファザコン発揮した途端めっちゃ可愛い文体になってて腹筋にダメージ喰らったわ。

コメント:先生とギャルゲーヒロインズに育てられたらそらぁ性格歪むわな。

コメント:あのギャルゲーに出てくるキャラ、全員が子育て向いてないのでは…?

コメント:あるわ。


ボロクソ言われてる。

確かに、僕ら全員が子育てに向いてない自覚はあるけどさぁ。

僕がなんとも言えない表情を浮かべていると、嫁が「親の脛齧るような教育せんかっただけマシやろ」と言った。

…確かにあの子、「パパに迷惑かけたくありません」とか言って、自分で学費稼いでるけど、僕らのせいで性格が歪んだのは事実だし。

このまま話題が逸れてくれるといいな、と希望を抱くも、神はよっぽど僕のことが嫌いらしい。

「話逸れたから戻すなー」と死刑宣告を受けた。


『あれ、黒歴史に入るかな?

自転車の乗り方忘れて、深めの川に頭から突っ込んだやつ』

『あー…。確か、み…、MAICン時に悪化した骨折治ってすぐだったよな。

長い間、足を怪我してたせいで自転車の乗り方忘れて、ちょっと漕いだら変な方向に進んで、川にドボン』

『しかも変なとこ引っかかって、ズボンが根本から破けて、片方だけハイレグみたいになってた』

『引き返すのも無理な距離だったから、そのまま学校行こうとして、警察に任意同行を促されて大遅刻。

付き添ってた嫁ちゃんも付き合わされて大遅刻。今でも写真残ってるわー』


コメント:草。

コメント:自転車の乗り方忘れるとかある?

コメント:先生の濡れ鼠片足ハイレグ姿、大喜利サイトにあったわ。どんなコケ方したらこんなんなるん?

コメント:URL貼るわ。http://……

コメント:↑見てきた。ほんま草。

コメント:世の中にこんな情けない姿を晒した男が、嫁さんもらってVtuberやって成功してるの、なんでなん?

コメント:お前が越えられんような地獄を越えてきたからやで。

コメント:↑この一言で全てが納得できるの、テラス先生だけだと思うわ。

コメント:それはそれとしてうらやま。

コメント:コイツの場合、バカにできんレベルで人生が地獄すぎるからな。


こんな地獄、経験しないに越したことはないだろうに。

「羨ましかったらおんなじくらい体張れやボケ」と罵倒する嫁を宥めていると、二人ともギアがかかってきたのか、悩んだそぶりすら見せずに次の話題に移った。


『あ。あいつって、アレ言ったっけ?

ババ抜きで負けた罰ゲームで、オットセイのモノマネしながら体育館這い回ってたら、先生に見つかって微妙な顔されたヤツ』

『こんな感じ?』

『ぐ、ぶはははっ!!似てるわ!!』


コメント:ヒトエちゃん笑い方クッソ汚くてすこ。

コメント:どんな顔してんの?

コメント:くそっ…。ゲストだから、表情のキャプチャが甘いのが仇になってる…!

コメント:罰ゲームエグすぎて草。

コメント:高校生らしいわー。…いや、高校生でもンなことしねぇわ。

コメント:先生。次の配信でなんか罰ゲーム設けるんならやってくれ。

陽ノ矢 テラス:二度とやるか。

コメント:↑敬語じゃないあたり、本気で嫌がってそう。

コメント:多分、喘ぎ声みたいなの聞こえるからって聞いて来たんやろなぁ…。

コメント:答えはオットセイの真似をする生徒だったと。…いやどゆこと?

コメント:↑絶対にそうなるわ。


何がおかしい。コトバさんも同じようなことしてたぞ。

大貧民、もしくは大富豪だったかで負けて、「ダンゴムシのモノマネだ」とか言って体育館を転げ回ってた。

僕としては、わりとオーソドックスな罰ゲームだと思うんだが。

嫁を見ると、保存していたのだろう、音を消して、あの時の動画を再生する。

コイツのことだ。どうせネットに流されるだろうな、と思いつつ、僕は視線を手元の携帯に戻した。


『アレも面白かった。

コンクールに出す作品を作ろうとして、顔の形を取ろうと粘土に顔を突っ込もうとしてミスって、取れなくなったの。

で、剥がそうとしても剥がれなくて、なんでか手の方も封じられちゃって』

『ああ、あれだろ?そのまま徘徊して、警備員さんにビビられて、「粘土男」って七不思議扱いされたヤツ。

お前が面白半分で放逐したのも悪くね?』

『ヒトエちゃんもやるでしょ?』

『やるな』


コメント:先生の扱いクッソ雑で草。

コメント:嫁さんもこんな感じよな。

コメント:先生、窒息とかせんかったん?

陽ノ矢 テラス:↑鼻から上だけの形だけ取ったんで、口呼吸は出来てました。

コメント:目元が粘土で覆われた怪人とか、学校で出会したらそらビビるわ。

コメント:コイツ、職場だけじゃなくて母校でも七不思議生み出してたんか…。

コメント:テラス先生の母校の七不思議、4割くらいテラス先生が原因だと思う。

コメント:ありそう。


4割じゃない。8割だ。

嫁も「8割方コイツが原因やけどなぁ」と呟き、ニマニマと笑みを浮かべる。

当時はめちゃくちゃビビり散らしたくせに。

僕が破けたカーテンにひっ絡まって混乱してたところを遠目で見て、「ぎぇあっ!?」とか変な叫び声あげたくせに。

そんなことを思っているうちに、話題は次へと移る。


『アイツが原因の七不思議っていうと、「放課後のグラウンドの砂場には、人喰いアリジゴクがいる」ってのもあったな』

『走り幅跳びの練習ですっ転んだ上に、誰かがいたずらで掘ってた穴に頭から突き刺さって抜けなくなったヤツね。

遠目で見てた人が、急に彼が砂に刺さって消えたとしか見えなかったから、大騒ぎして。

で、救助される頃にはすっかり広まってて、先生たちが存在しないアリジゴクを探す羽目になったっていう』

『アイツ、「アリジゴクどこだよ!?」、「いるわけねーだろンなもんよォ!!」って荒ぶってた先生たちに平謝りしてたなぁ…』

『結局、あの穴って誰が掘ったの?』

『六限目の体育で暇してた嫁ちゃん』


コメント:何から何までアホやん。

コメント:コイツの青春、基本的に地獄なんだけど、たまにアホっぽくて羨ましく思えるの不思議。

コメント:先生らの荒ぶり方ってマジなん?

陽ノ矢 テラス:マジです。

テラス嫁:マジやで。

コメント:楽しそうでうらやま。

コメント:↑あ待たれい。ただでさえ生徒が自殺しかけたり、大怪我したりしてた学校だぞ?

コメント:過労死案件じゃないですかヤダー!

コメント:俺、教員リスナー。こんなやつの担当しなくてよかったと安堵。


そりゃあなぁ。

僕みたいな青春送ってるようなヤツ、僕でも担当したくないって思うわ。

そんなことを思いつつ、僕は二人のやりとりへと意識を戻した。

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