第24話 光と闇の戦い その2

「えー、続いてのお題は『ドキッとした瞬間』ですか。

先攻譲りますんで、どうぞ」

「瞬間など生ぬるい!毎日毎日妻の愛らしさにドキドキしておるわ!!」

「毎日毎日夫の逞しさにドキドキしているわ!!」

「ブラックコーヒー何リッターいる?」

「取り敢えず一人当たり24本箱入りを買いましょう。600ミリのヤツ」

「今なら飲み干せるなぁ」


コメント:死ぬぞ。

コメント:死ぬぞ(迫真)。

コメント:カフェインの大量摂取はガチ目にヤバいからやめとけ。

コメント:↑惚気に対する遠回りなツッコミへのマジレス、テラス民臭あるな。

コメント:テラス民臭とは。

コメント:ア…ア…。

コメント:ウワァ…、アァ…。

コメント:↑獅子ノ座ラブラブパワーに溶かされて消えてしまいそうなテラス民の図。

コメント:テラス!早く闇を!闇を展開するんだ!!手遅れになる前に!!

コメント:もうバトル漫画なんよ。


内臓まで甘い気がする。

僕の体って砂糖菓子だったっけか。

ガムシロップをがぶ飲みしてもこうまではならないぞ、と思いつつ、闇の深そうな話を求める視聴者たちの要望に眉を顰める。

正直、あり過ぎて困る。

どれを話そうか。刺激が少ないものがいいな、と思っていると、嫁が口を開いた。


「ドキッとした瞬間って言ったら、アレやな。卒業旅行で白骨死体見つけたヤツ。

アレの犯人、旅館の女将さんやったんやけどさぁ」

「この『ドキッ』はそういう意味じゃないです。分かってやってますよね?」

「『バレちゃあしょうがないね!

恨みはないけど死んでもらうよ!』」

「真似しないでください。あの時の怪我、痕残ってんですからね?」

「知っとるよー。嫁を守った勲章として誇ってくれたまえー」

「じゃ、勲章だらけじゃないですか、僕の体。温泉行ったら絶対に二度見されるような体なんですし。ほら」

「……よく生きているな、テラス先生」

「傷の量で言うと、余裕で死んでると思うよ」


コメント:宿泊先の女将に殺されかける卒業旅行イズ何?

コメント:↑テラス先生の青春。

コメント:スーパーマタギ人のヒメさんをもってしても「余裕で死んでる」と言わせる傷とは…?

コメント:コイツ顔とか露出する箇所に目立った怪我がないだけで、服脱いだら黒男とか無いよな?

言霊 コトバ:↑正解。

コメント:ああ〜。闇が効くんじゃ〜。

コメント:テラスはこの闇があってこそ。

コメント:↑狂ってるよお前ら…。


僕、皮膚は移植してないぞ。

内臓はいくつか脳死後のドナーから移植されたけど。

執刀する先生がいつも一緒だから、手術のたびに「二度と患者として来んなって毎回言ってるよなテメェ」って叱られたっけ。

最近は患者として会ってないけど。

僕はそんなことを思いつつ、サイコロを振った。


「えーっと…、『ときめいた瞬間』…、あ、これこの人たち毎秒って答えるヤツですね」

「なぜ分かった!?」

「なんでわかったの!?」

「いや、さっきのもですけど、瞬間系の話題は絶対に毎分毎秒感じてそうな夫婦だなと思ったので」

「学生の中にも、我々と似たような夫婦、もしくは恋仲の男女がいたのか?」

「僕の妹がそんな感じです。

来月、結婚式に呼ばれてますね。しこたま砂糖吐いてきます」


コメント:妹おったんや。

コメント:兄のとばっちりで要らん苦労してそう。

コメント:むしろかけてる側では?

コメント:妹が普通にイチャラブしてんのにコイツと来たら…。

コメント:↑獅子ノ座とタメ張れるイチャラブっぷりってそうそう無いぞ。

コメント:結婚式は俺も呼べ。

コメント:俺も。

コメント:ワイも。

コメント:↑なんで勘違いしちまったんだ…?お前らが呼ばれるって…。


誰が呼ぶか。身内だけの式じゃボケ。

そんなことを思いつつ、僕は「ときめいた瞬間」に該当する思い出を探す。

…あんまり言いたくないものばかりな気がする。

でも、仕事なのだから言うべきか。

期待したような瞳を向ける嫁を横に、僕は覚悟を決め、口を開いた。


「……僕が入院するたびに浮かべる泣き顔」

「ちったぁ反省せぇやテメェ毎秒大怪我しやがっておおん?後遺症の数言ってみろ」

「この枠埋まりますって」

「枠が埋まるほどの後遺症ってなんなのかしら…?」

「少なくとも右手左手震えているし、そのうえ歩き方も少しぎこちなさがあるな」

「細かく言いましょうか?」

「「いやいい」」


コメント:この先生体張り過ぎやって…。

コメント:コトバ様、先生って普通の生活送って大丈夫なの?

言霊 コトバ:日常生活とか食生活とかに大きい影響が出る後遺症はないって言ってた。実際、よくよく見ないとあんまり気づかない。

コメント:普通、生徒にンなこと話す?

コメント:コトバ様はグイグイ行くタイプで、先生は割と面倒くさがりなタイプやから、それで情報引き出されたんちゃう?

コメント:わかりみ。

コメント:案外、奥さんから経由で得た情報とかも結構多そう。


ケツにホクロがあることまで知られてた時は流石にびっくりした。

こんな歩くスピーカーみたいな子に情報なんて握らせちゃダメだと思う。

獅子ノ座夫婦は悲しげな表情を浮かべつつ、サイコロを振った。


「『結婚式の様子』か!俺たちの式は、1番上の子が生まれてからだったな!」

「2番目の子がお腹にいる時にやったんだけど、妊婦でも着れるウェディングドレスを夫が仕立ててくれたんだよー」

「そのドレスは今も保管している!娘が結婚式で着たいと言うからな!

サイズを調整する日を今か今かと楽しみにしているのだ!」

「なーあ。ウチもそろそろ悪阻のキツさ知りたい」

「配信でねだらないでください。

あとなんですか?その誘い文句」


コメント:ワードセンスからして、テラスの嫁なんやなって思うなぁ。

コメント:別居してた分、甘えてんの丸わかりやな。

コメント:嫁さん、実はめちゃくちゃ旦那大好き?

コメント:そりゃあのギャルゲー、先生のかっこいいとこばっか切り抜いたみたいなシーン多いもんな。

コメント:↑あ待てい。その分、先生のクソみたいな失敗談とかきちんと補完されてるぞ。尚、それを差し引いても嫁さんのしゅきしゅき旦那ニウムが多量に含まれてる模様。

コメント:やり込み勢草。

コメント:あんな地獄のごった煮をやり込んだ鬼畜いるのか…。


クソみてぇな物質が爆誕してる。

なんだ「しゅきしゅき旦那ニウム」って。

呆れを抱きながらも、僕は結婚式のことを思い返した。


「身内だけの式だったのに、タキシード着た上に包丁持って乱入してきたストーカーに、嫁の妹がドロップキックかましたことですかね」

「あー。アレすごかったなぁ。演出やと思ってたらガチのストーカーやったこと含め」

「おかげで珍しく怪我しなくて済みましたもんね」

「もう少し平和な話題はないのか?」

「結婚式の思い出よ?もっとこう、甘い感じの思い出ない?」

「んー…。ストーカーとの乱闘騒ぎでワイン頭から被ったことやな。

その後の記憶あらへんけど」

「死ぬかと思いました」

「ほんまに何したんウチ?」

「甘いってそう言う意味じゃ…」

「結局、後日やり直したなぁ。そっちは上手くいったからええけど」


コメント:地獄の大渋滞で草。

コメント:クソレズシスコンって知ってんのに、姉の結婚式に呼ぶなんて鬼畜やなぁ…。

コメント:呼ばん方が鬼畜やから…。

コメント:真っ先にドロップキックしに行くの、ヒロイン譲ったライバル枠みたいな雰囲気あってしゅき。

コメント:妹ちゃん、決める時は決めるイケメン枠臭ある。

コメント:嫁さんお酒弱い方?

言霊 コトバ:↑ビール1杯が限界。

コメント:やり直した方の思い出語れや…。


その通りであるが、語ったところで「普通」って言われるのは目に見えてる。

僕は新たなサイコロを手に取り、テーブルに放った。

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