第23話 光と闇の戦い その1
「世の全てに愛が在らんことを!
獅子ノ座 オウジャと!!」
「獅子ノ座 ヒメです!!」
「どうも、ライブプラスの闇担当を1人で引き受けてる陽ノ矢 テラスです。
こないだ嫁さんと焼肉行きました」
コメント:惚気話対決て。
コメント:こんなリア充してる配信にテラスが参加していいのか?
コメント:↑一応リア充やで、コイツ。
コメント:テラス先生のこれまでの人生が地獄過ぎて、そんくらいは許せる俺がいる。
コメント:↑わかる。あのギャルゲーで地獄見た。
コメント:ヒロイン自殺させた方が攻略楽になるシステムほんと酷い。
コメント:あのギャルゲーに出てた人ら、どんな気持ちで許可出したん?
コメント:↑おい、あのギャルゲーの話はここで出すな。俺たちは山になるほど砂糖を吐きに来たんだ。
オウジャさんのモデルはまんまライオンヘッドの獣人で、ヒメさんのモデルはぴょこんと獣耳が頭頂部にあるだけの美少女だ。
これだけでも夫婦って感じがする。
…にしても、砂糖を吐くってなんだ。
…うん。この2人の甘々な様子を見てれば、嫌でも「砂糖を吐く」と表現するわ。
にしても、2人して音圧がすごいな。
一言一言に力が籠ってる。バトル漫画だったら迫力で吹っ飛ばされてる。
そんなことを思いつつ、僕は今回の企画について説明する。
「今回はタイトルにもある通り、惚気話で対決しようと思います。
この惚気話サイコロを振って出た話題を一つずつ出し合っていって、最終的に照れて話せなくなった時点で負けです。
嫁にも出て欲しいと事務所から要望があったので、今向かってもらってます。
ちょっと仕事があったみたいで、遅れての参加になりますね。
もうちょっとしたら、画面に嫁のモデルが増えると思います」
「む?Vtuberとしてデビューするのか?」
「いえ、たまーに出るくらいでいいと。
コメント欄で僕のアンチを見て『コイツら脳みそにウジ湧いてるん?』と見下すのが好きらしいです」
「…あまりいい趣味とは言えないな。子育てに必要なのは、健全な家庭環境だぞ?」
「あなた。私たちもあんまり人のこと言えないわよ。上の子なんて、5歳の頃に三人目呼んでたの見られたじゃない」
「夜の営みを召喚魔法みたいに言うのやめません?」
コメント:勝負終わらなさそうなの草。
コメント:惚気話耐久配信やんけ。
コメント:ワイ、獅子ノ座夫婦は初見なんやけど、お子さん大丈夫?親のそう言うの見て傷ついてない?
コメント:↑全然気にしてないらしいぞ。毎晩聴こえるって。
コメント:えぇ…?(困惑)
コメント:結婚20年で『毎晩』ってヤバ…。
コメント:この太陽よりも熱そうな夫婦が子供6人で済んでるのが不思議。
コメント:↑いや待て。常識を失うな。6人は多いぞ。
コメント:お金どうしてるん?
コメント:ヒント「印税」。
コメント:オウジャ稼いどるからなぁ…。
「子供は贅沢品だ」という絶望が飛び出すくらいには少子化が極まってる日本で、子供が6人もいるのか。
僕が呆れを向けるも、2人は特に気にした様子もなく、「では早速、我々から行くぞ!」と意気込む。
彼らが振ったサイコロが出した目は、「幸せだと思った瞬間」。
回答が難しい話題だな、と思っていると、2人は吃ることもなく声を張り上げる。
「そんなもの、星の数ほど存在する!
まずは初めてのデートだ!!」
「お互い好きな音楽も教科もスポーツも違ったけど、すっごく楽しかった!
一緒に違う味のクレープを食べあったり!カラオケで全然タイミングの合わないデュエットを歌ったり!
ふとした時に『私、この人が好きなんだな』って思えることが何よりの幸せなの!!」
「棄権していいですか?勝てる気しません」
コメント:秒で負け認めてて草。
コメント:テラス先生が闇をぶっ込む隙のないラブラブ夫婦っぷり、流石は獅子ノ座。
コメント:この音圧の凄まじい惚気からしか摂れない栄養素がある。
コメント:趣味も特技もなにもかも違うのに、ここまでラブラブになれるんだな。
コメント:案外、趣味とかが合わん方が合ったりするらしいぞ。
コメント:ここのコメント欄平和過ぎて泣けてきた。
コメント:↑テラス民が浄化されかけてる…。
コメント:テラス先生のコメント欄、基本的に地獄だもんな。
お前らが勝手に地獄にしてるんだろうが。
火種を放ってる自分のことを棚に上げつつ、僕は記憶から「幸せ」と言えた瞬間を思い出す。
…思い出すだけでも恥ずかしいな、これ。
「初めて弁当を作ってくれた時ですかね。
不格好だったんですけど、どれもこれも手作りで、一生懸命頑張ったんだなと思えるものでした。
……恥ずかしいな、これ」
「何を恥ずかしがる!君もまた、伴侶の愛を感じ、愛を抱いているのだ!!
胸を張れ、テラス先生!あなたの愛もまた、素晴らしいものだ!!」
「恥ずかしがり屋さんなんですね、テラス先生!
でも大丈夫!大好きな人に『大好き』、『ありがとう』って言うのは、いつ、どこにいても大事なことなんだから!!
それを馬鹿にする人たちなんて気にしない!
だって、気にならないほどにとびっきりの愛を抱けばいいんだもの!!」
「余計に恥ずかしいです」
コメント:恥ずかしいって割にはあんま焦ってなくね?
コメント:闇がない…。お前偽物だな!?
コメント:↑そのセリフはもうバトル漫画なんよ。
コメント:テラス先生から闇を取り上げたら何が残るんだ?
言霊 コトバ:普通の惚気話しただけでボロクソ言われる人生って…。(憐憫)
生徒にすら憐れまれた。
お前ら、好き勝手言いやがって。僕だって普通の惚気話くらいする。
その比率が闇9、光1と終わってるだけで。
こんなことを面と向かって言えば、嫁は何を言うだろうか。
変に捻くれてるし、恥ずかしがり屋だから、素直に照れるということは無さそうだが。
そんなことを思っていると、収録部屋の扉が軽くノックされた。
僕はその向こうに嫁がいることに気づくと、モデルを立ち上げられるように準備する。
「あ、来ましたね。入っていいですよ」
「お邪魔しまーす」
入ってきた嫁は、珍しく着飾っていた。
いつも「ザ・キャリアウーマン」みたいなキリッとした格好なのに、今日はデートに行く若者のような出立ちだ。
もう三十路だということを思えばキツい気もするが、見た目だけは10代のままだからな。
どんなアンチエイジングをしているんだか、と思いつつ、簡易なモーションキャプチャー用の機材を渡す。
プログラミングには慣れていても、実際に取り付けたことがないのだろう。
嫁は「どう付けるん?」と手間取りながらも、ヒメさんに教えてもらいながら装備を取り付けた。
「じゃ、嫁のモデル出しますね」
「おぉー…。……衣装以外割とまんまやん」
「そりゃ、顔はギャルゲーのイラスト流用してますからね」
「もっとこう、『ザ・Vtuber』みたん期待したんやけど」
「服はそんな感じだからいいでしょ。
あ、皆さん、紹介します。嫁です」
「どもども、初めてのお弁当にエッチぃお薬仕込んでんのばれへんように下手くそに作った嫁さんやで」
「あの時の感動を十数年越しに台無しにしないでもらえます?」
コメント:もう純粋な気持ちで思い出振り返れないね。
コメント:↑そもそも純粋な気持ちで振り返る思い出がなさそうなんですがそれは。
コメント:このモデルまんまって、嫁さんってもしかして美魔女?
言霊 コトバ:あのギャルゲーに出てる人らは全員が10代でも通用する見た目だよ。
コメント:↑それを差し引いても碌でもない目にしか遭ってない定期。
コメント:↑そんな定期はない定期。
コメント:コイツの場合は羨ましいかって言われるとそんなことないって言える。不思議。
コメント:ほぼ全員が問題児だからな…。
通りでたまに変な味がすると思った。
僕は呆れを浮かべながら、サイコロを獅子ノ座夫婦に手渡した。
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