第95話 壁画に隠された咆哮

「うおおおお!! 落ちるーー!」


 落下による浮遊感を味わいながら、与人は絶叫していた。


「喋るな! 舌噛むわよ!」


 だがそんな与人をライアが抱きかかえる。

 よく見ればホセとクラリッサをトロンが、ストラをリルが。

 それぞれ落下の衝撃から守るべく動いていた。

 そして、あっという間に彼らは叩きつけられたのであった。


「さ、三人とも! 無事か!」

「……脚痺れた」

「かー! 流石に響くねぇ!」


 与人の呼びかけに対し、リルとトロンからまだ余裕そうな返事が返ってくる。

 だが、ライアからは何時までも返事か来ない。


「ライア? 怪我でもしたか?」

「……心配しなくても無事よ。アンタは人の心配する前に、自分の状況をよく確認しろ。このドスケベ」

「え? ……あ」


 そこでようやく与人は、自分がライアの胸を鷲掴みしていた事に気づく。

 よくよく見れば、ライアの顔も真っ赤である。


「ご、ごめん!」


 慌てて手を放す与人を、ゆっくりと降ろしながら睨みつけるライア。


「次は無いわよ」

「肝に銘じます」

「いやいや、流石に肝が冷えましたな」


 ホセはそう言いながら、自分たちが落ちて来たであろう天井を見上げる。


「かなりの高さのようですな」

「少なくとも、今の我々では戻るのは無理でしょう」


 ストラがそう結論を出している横で、クラリッサが何かに気づく。


「わー!! 皆! 周り見て周り!!」


 その言葉に反応して、全員が周りを見て見るとそこには一面を覆う壁画が描かれていた。


「おそらく、神代にアーニス神がルーンベルを創生した事を伝える壁画でしょう。アーニス教がよく布教に使っているものと同じものでしょう。ここまで大きいのは初めてみますが」


 ホセがそう言いながら周りを見渡していると、ライアがある疑問を口にする。


「で? 何でそんな壁画があんなトラップの先にあるわけ?」

「その疑問はもっともです。壁画というのは後世に伝えるべく残すもの。これでは意味が……」

「それよりもここから脱出する方法を考えた方がいいんじゃねぇのか? アタイは頭使うのは無理!」


 トロンの言葉に一瞬言葉を詰まらせるストラだったが、首を横に振りながら同意する。


「そうですね。今は他に優先すべき事があります。今後の調査はホセ殿が言われずともやるでしょうし」

「ええもちろん。徹底的に調べるつもりですとも」

「よし。まずは皆で道が無いか探ろうか。みんな下手に触ったり」


 ガコン


「しない……ように……」

「え? お父さんなにか言った?」

「「「「「「……」」」」」」


 全員が何も言わなくなる中で、クラリッサは嬉しそうに先ほど取り外した何かを持ってくる。


「ねぇねぇ! これって杖っていうやつだよね!?」

「いやクラリッサ。その前にストラの顔を見ようか」

「本の人、やばい」


 リルが呟くように、ストラの顔は熟れたトマトの如く真っ赤であった。

 先ほどのライアのように羞恥からではなく、怒りで。


「? お母さんどうしたの?」


 だがクラリッサは自分が原因とも知らず、心底不思議そうに聞くのだった。


「っ~~~~~~!!」


 何かがプツンと切れ、ストラがクラリッサを叱り始める。

 はずであったが、突如部屋全体が揺れ始める。


「うお!」

「旦那! 掴まりな!」


 激しい揺れに思わず与人がふらついている所を、トロンがしっかりと支える。


「皆さん! 壁画が!」


 ホセが指さした先、そこにある壁画が段々と崩れ始めていた。

 そしてその崩れていく壁画の奥、そこには何かの影が見え隠れしていた。


「リル殿!」

「……モンスター、強力」


 ストラの声に、リルは緊張感を纏わせた声で答える。

 やがて揺れが収まると、その影はゆっくりと与人たちに近づいていく。


「ったく。どんだけ運悪いのよ、アンタ」


 ライアが拳を構えながら、与人に呆れたように呟く。

 与人は反論すら出来ずに、そのモンスターを見上げていた。

 リントやサーシャの、元の姿を彷彿させるような巨体を見せるそのモンスターの名は。


「き、キメラ!?」


 グォォォォォ!!


 与人の呼んだ名を肯定するかのように、そのモンスターは咆哮を轟かせるのであった。




 あとがき

 短いですが、今回はここまでとなります。

 果たして与人たちはこの窮地を脱する事が出来るでしょうか?

 次回をご期待ください。

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