第79話 迫る影

「! 主くん!」

「うわっ!?」


 ティアは近づいて来る影に気づくと、与人を自分の方に引き寄せる。

 必然的に与人を抱きしめる形となったが、ティアにその事を気にする余裕もない。

 影は二人のすぐ隣を通り過ぎると、少し離れたところで停止する。


「……もう少しだった」

「リル!?」


 影の正体であったリルに思わず与人は叫ぶが、彼女は頬を赤らめるのみで何も話そうとはしない。

 その様子に警戒を高めたティアは与人を守れるように位置取りをする。


「リルくん。一つ確認するけど、主くんをどうする気なんだい?」


 一切の気を抜かずに武器を構えて警戒するティア、それに対しリルはいつもと変わらないように話す。


「……分からない。けどご主人と二人きりになりたい」

「ど、どういう意味だと思うティア」

「普段とあまり変わらないから、よく分からないね」


 もう少し話をして確かめようとするティアであったが、その前にリルが勝手に語り始める。


「それにご主人、今とってもいい匂いがする。その匂い嗅いでいると何だか興奮してくる」

「あ、これはアウトだ」


 与人がそう呟く前に、ティアは警戒を最大にする。


(とは言え、ここでリルくんと出会ったのはタイミング的には最悪だね)


 他のメンバーなら隙を見て逃げる事も可能であろうが、スピードと嗅覚に優れたリル相手では難しい事はティアは理解していた。

 その上、与人を連れてとなるとほとんど不可能である。


(できれば此処で無力化したいけど。……どうなるかな)


 少しずつ距離を取ろうとするティアと与人であったが、次の瞬間にはリルは一気に距離を詰めてきた。


「!!」

「邪魔しないで」


 間一髪のところでリルの爪を防ぐティア。

 だが攻撃を防がれたのを確認すると、リルはアクロバティックな動きをしながらティアに強烈な蹴りを繰り出す。


「っ!!」


 防ぐ事が出来ず、直撃を喰らったティアであったが反撃をしようとその手に力を込める。


「遅い」


 だがリルは攻撃の手を休める事はなく、爪や脚技を駆使して追い詰める。

 一撃はアイナに比べれば劣るが、さながら嵐のような攻撃はまさに獣を想像させた。

 ティアは何とかその攻撃を防いでいるが、反撃のチャンスが掴めないでいた。


「ティア!」


 与人も何とかしようと考えるが、下手に手を出せば状況が悪化するのは理解できていた。

 なので必死にティアを応援するしかない現状に歯噛みする与人。

 そんな彼をよそに、リルはさらに攻撃のスピードを上げていく。


「っ! これ以上は……流石に、キツイかな」

「終わり」


 そう言って連撃を続けていくリル。

 頭の中では与人との二人きりでの過ごし方を考えていた。

 その為であろうか?

 リルの後方の壁が壊れ、何かが向かってくるのに気づくのが遅れてしまった。


「えっ?」


 そのまま突撃してきた何かに弾き飛ばされたリルはそのまま気絶し床に倒れる。


「主! 無事か!」

「り、リント!!」


 何かの正体であるリントはいつもと変わらない様子で、与人を心配するのであった。




 あとがき

 皆さま、この作品ではお久しぶりです。

 取り敢えず別作品が落ち着いたので、こちらを短いですが書かせてもらいました。

 今後もリハビリしながら書かせてもらうので、よろしくお願いします!

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