第78話 ティアVSアイナ~勝負の決め手はP~

「ティア!」


 扉を切り裂いて入って来たティアを見て喜びの声が出る与人に近づくティアを見つめながら、アイナは幽鬼の如く与人の上から退く。


「それともお邪魔だったかな?」

「冗談言ってないでアイナを! 流石に何か変だ!」


 そう叫ぶ与人からアイナはシーツを巻き上げると自分の身に巻き付けていく。

 いで立ちだけで言えば、神話に出てくる神のようでもあった。


「だろうね。取り敢えず今はアイナくんを大人しくさせないと」

「……邪魔しないで」


 そうアイナが言った瞬間、少なくとも与人にはアイナが消えたように見えた。

 アイナがティアを切りつけた。

 それが分かったのは金属がぶつかり合う音が部屋に響いてからの事であった。


「ください」

「っ!」


 凄まじく速い斬撃の嵐。

 与人にはまるでその空間だけ切り取られるようにも見えていた。

 防ぐ事は難しいと判断したティアは、ごくわずかな隙を見つけて離脱する。


「……そんな状態でも剣に一切の衰えがないのは反則じゃないかい?」

「……」


 ティアの軽口に答える事なく、アイナは追撃に掛かる。

 床が抉れるほどの脚力で一気に距離を詰めながら突きを放つ。

 その突きをヒラリと右に躱すティアであったが、アイナはその勢いのまま回転切りを繰り出す。


「!?」


 流石に予想外な攻撃に避ける事ができないティアは二刀で防ぐ事を選択する。

 結果として切断こそ免れたものの、衝撃を吸収できずに大きく吹き飛ばされる事になった。


「凄い」


 場違いとは分かっていたが、与人は思わずそう口にした。

 考えてみればあの遺跡での一戦以来、アイナが戦うのをまともに見ていなかったと与人は思った。

 普段からリントやリルを始めとした面々に揶揄われているアイナ。

 だがその実力は間違いなく、聖剣を扱う者として相応しいのだと与人は感じていた。


「痛っ」

「はっ! ティア! 大丈夫か!?」

「だ、大丈夫だよ。受け身を取り損ねただけだから」


 明らかにそれ以上の痛みを耐えてるような顔で、ティアは起き上がる。

 ユラリと自分に敵意を見せるアイナにティアは声を掛ける。


「剣が速くて、重い。まさに聖剣の一撃と言ったところだね」

「……」


 アイナは相変わらず黙っていたが、構わずティアは話かける。


「理性が残ってるなら一つ聞くよ。私を排除したら主くんをどうするつもりなのかな?」

「……それは」


 ティアの言葉にようやく反応したアイナはゆっくりとその口を開く。


(ゴクリ)


 与人も固唾を飲んで見守る中、アイナは語り始める。


「もちろん主様の(ピー)を(ピー)して。私の(ピー)な(ピー)に(ピー)して(ピーーーーーーーーーー!)」

「ああ、もういいよ? 聞いたこっちが悪かった」


 アイナから次々に出る卑猥な言葉に思わずティアは顔を赤らめながら止める。

 与人に至っては口をポカンと開けて呆然としている。


(さて、予定は少し狂ったけど痛みは和らいだ。あとはこの場をどうするか)


 ティアは口を未だに動かしつつ、頭の中では冷静に次の手を考えていた。


(武器の扱いでは間違いなくアイナくんの方が上、おまけに自制心が緩んでいるのか遠慮も無い。この後の事もあるし、できればこれ以上の怪我は負いたくないけど……)


 そう考えながらティアは部屋中を見渡し、ある決心をする。


(仕方ない、か。あとで主くんに怒られそうだけど、今はこの場を何とかしないとね)


 ティアは考えをまとめると再び武器を構える。

 それに反応してか、アイナも聖剣を向ける。


「はっ!」


 今回先に動いたのティアであった。

 二刀を使った連撃でアイナに武器を振るう隙を与えなかった。


(やっぱり)


 その中でティアはアイナの動きにある確信をもつ。


(無意識かどうかは知らないけれど。主くんが巻き込まれないような位置取りをしてる。だてに忠臣は名乗ってないね)


 そう決定づけるとティアは与人を盾にするように動く。

 できればティアとしてもこんな事はしたくないが、現状を打破するには仕方がなかった。

 少しづつ互いが動きながら続く攻防。

 それはティアが作戦予定地に着いた事で終わりを迎える。


(今!)


 ティアは急にしゃがみ込むと、床から何かをつかみ取りアイナに投げつける。


「……」


 当然アイナはその何かごとティアに切りかかるが。


「いいのかい? それ、主くんが脱ぎっぱなしにしてたパンツだよ?」

「!?!?!?」

「オイィィィィィィィ!?」


 明らかに剣が鈍るアイナとようやく復活したら衝撃場面を見せられて叫ぶ与人。


「隙あり!」


 もはや自分より与人のパンツに注目してるアイナの首に手刀を食らわせるティア。

 アイナは力を無くしたように床に倒れるのであった。

 ……与人のパンツを握りしめながら。


「ふぅ。主くんが脱ぎっぱなしにしてくれて助かったよ」

「……助けてくれた事は本当に、本当に感謝してるが。もっと他に方法無かったのか?」


 与人は何とかアイナからパンツを回収しようとするが、万力のような力で握っているため断念した。


「出来ない事も無かったかも知れないけど、その場合は悲惨な結果になってたかもね。まあ下着一枚で済んで良かったって事で勘弁してくれないかい?」

「……あとで話し合うからな」


 与人はそう言うと部屋全体を見渡す。

 あちこちに斬撃の跡が残っており、修復には時間がかかりそうだ。


「はぁ。とりあえず皆に状況を説明して、部屋の片づけを」

「いや、その前に逃げるよ主くん」


 与人の答えを聞く前に、ティアは与人の腕を掴んで走り出す。


「ティア!? 一体どうしたんだ!?」

「詳細は私にも分からないけど。とにかく今は逃げないと。さもないと」


 その瞬間、屋敷全体が振るえるような振動が二人に伝わる。


「うわっ!」

「っ! 主くん、大丈夫かい!?」

「つ、躓いただけだ。まだ走れる」

「良かった。向こうの目的は主くんだからね」

「向こう?」


 与人がそう聞くと、ティアは言いにくそうに口を開く。


「信じたくない事実だろうけど、心を強くもって聞いてくれ」

「な、何が起きてるんだ?」


 若干の間をおいて、ティアはその問いに答える。


「簡単に言うと、今この屋敷にいるほとんどがアイナくんと同じような状況だ」

「……はい?」

「つまり、主くんの貞操が狙われているんだ」

「えっぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 そう会話している二人の後ろから、凄まじい勢いで近づいて来る一つの影があった。




 あとがき

 さて如何でしたでしょうか、今回のお話は。

 クリスマスも近いのに何書いてんだ? と自分で問いかけたくなりました(笑)

 果たしてどうしてこんなことになったのか?

 影の正体とは?

 それらの謎は次回の更新にて。

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