第77話 贈り物の確認は大切に

  ――この一連の騒動は、とある薄曇りの朝から始まった。


「イプシロンさんからの送り物?」

「はい。この間の政策立案の礼、と言われまして」


 そう困ったように言うのは『エクセード』のブレインであるストラ。

 以前に試しに立案した政策をイプシロンに渡したところ、エクサ王が気に入りそのまま実行される事になったのである。

 その礼として渡された箱を手にしながら報告するストラにティアが声を掛ける。


「何かもらって不都合でもあるのかい?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……。私としては叩き台のつもりで渡した立案書ですので、その礼と言われても」


 どうしたらいいか分からない様子で手に持っている箱を見つめる。


「素直に受け取ればいいだろ。やましい事をしたので無ければ」

「それは……そうなのですが……」


 通りがかったリントも会話に加わるが、ストラの表情は晴れない。

 その様子を見て与人はある提案をする。


「じゃあさ、皆で分けない?」

「はい?」

「確かにそれはストラの活躍に送られたもの。だけど一人の活躍は皆の、『エクセード』の活躍だから皆で分けるって事でどう?」

「暴論すぎるぞ主」


 言葉はきついが笑いながら言うリントと黙って微笑んでいるティア。

 そんな三人を見てストラはため息を吐く。


「……ストラ、呆れてる?」

「ええ、呆れています。そんな暴論で心が少し軽くなった自分に」

「主くんの言葉だもん。しょうがないよ」

「それって褒めてるの? 貶してるの?」


 与人のジト目で問いかけた言葉をティアは微笑みで返す。

 その様子にストラは笑いながら箱をテーブルに置く。


「分かりました。コレは皆で分けましょう」

「そもそもの疑問だが、何を貰ったのだ戦術本」

「何でも高級菓子だそうですが、何か?」

「いや、何となくだが……。物凄く嫌な予感が」


 珍しく額に汗を掻きながら箱をジッと見つめるリント。

 だがそんなリントを与人は笑う。


「いやいやあり得ないでしょ。エクサ王ならともかくイプシロンさんだよ?」


 さり気なくエクサ王を貶す与人であったが、それを咎める者はここには居なかった。


「それはそうなのだが。何と言うか、命の危険というよりは。そう物凄くめんどくさい事態に巻き込まれそうな気が……」


 いつになく真剣な様子で箱を見つめるリントに次第に与人たちも不安になってくる。

 ドラゴンである彼女をもってそこまで言わせる箱の正体が。


「こうしていても埒が明きません。先ずは中身を確認しましょう」

「そ、そうだね。流石に騙し討ちしてくるとは思わないしね」

「……分かった。主もそれでいいな」

「お、おう」


 全員が承諾し、念のためこの中で一番頑丈なリントが少しずつ開封していく。

 謎の緊張感が辺りを包む中、ゆっくりとその中身が開かれる。


「……小瓶?」


 そこに入っていたのは菓子ではなく小さな小瓶一つと手紙であった。

 リントがその手紙を拾い上げストラに手渡す。


「少なくとも罠では無さそうですが……」


 簡易的な魔法の検査で調べてから、ストラは手紙を読み始める。

 そして全て読み終えるとコメカミを押さえ始めた。


「イプシロン殿……。面倒な品を」

「おい。どうした戦術本」

「まさか毒の類いかい?」


 ストラの反応に不安になる三人。

 手紙を折りたたみながらストラは解説し始める。


「まず誤解を解いておくと、これは私宛の品ではありません」

「と言うと?」

「これは本来、『マキナス』のとある支援者に送られるはずだったもののようです。恐らく何かの間違いで送られて来たのでしょう」

「……それだけじゃないんだよねストラくん」

「肝心のこれの正体も書いてあるのだろ? 勿体ぶらずに話せ」

「そ、それは……その……」


 珍しく歯切れが悪く、しかも顔を赤らめているストラに疑問を抱きつつも追及は止めない二人。

 これがもし毒物の類いであれば取扱いに気を付けなければならないのだから。


「そ、その。毒ではなく、むしろ薬の類いと言いましょうか。げ、元気になるものと言いましょうか」

「あ、何か察した。ふ、二人ともこれ以上は……」

「主は何か分かったのか?」

「教えて貰わらないとコッチも納得できないよ?」

「お、俺が言うのはある意味拷問と言うか……その……」

「いえ与人様。これは私が果たすべき責任です」


 ストラは意を決するとその小瓶の中身を言う。


「こ、この中身は……び、媚薬です」

「「あー」」


 二人して納得の声を上げるリントとティア。

 もはや吹っ切ったのか、顔を赤くしながらもストラは更に説明する。


「それも一滴でドラゴンを発情させるほどのものだそうです。ただの人間がそのまま飲めば出血多量で亡くなりますね」

「いや危なすぎるだろ。そんな物を送るなよイプシロンさん」

「どうやら頼まれて仕方なくのようですが、その意見には賛成です」


 そう言って手紙を箱の中に収めるストラ。

 その彼女にティアは声を掛ける。


「で、どうするの? それ」

「無論送り返します。ただ物が物ですので本人に直接お渡ししましょう。明日私が赴きます」

「今日ではダメなのか?」

「地方に視察に出てるのですよ。明日には戻られるようですが」


 再び箱に封をしてストラはここにいる面子に確認を取る。


「良いですか? これはここにいる者だけの秘とします。イプシロン殿の名誉もありますが、何人か悪用しそうな方もいますので」

「だな。まあその場合、被害に遭うのは主だがな」

「そ、そんな理由で死にたくないな」


 与人のこの言葉に三人とも笑いで返し、温かな雰囲気になる。

 しかし、気を抜いていたこの四人は気づけないでいた。

 偶然とはいえ、その小瓶の中身を知ってしまった者がいる事に。



 ――その日の深夜。


「ふぁ~~あ。そろそろ寝るか」


 ストラに教えてもらったオススメの本に夢中になっていた与人はようやくベットに入る。

 ウトウトとし始める与人であったが、突如部屋の扉が開く音がする。


(ん? 誰だ?)


 確認しようとする与人であったが、その前にその人物に上に乗られる。


「!?」


 飛び上がろとする与人であったが、ガッチリ足で固められているため動けないでいた。


「……主様」

「その声、アイナ!?」


 徐々に目が慣れてきたためその姿をようやく確認出来た。

 確かにその人物はアイナであったが、それより問題は。


「な、何故に裸!?」


 一切の物を纏う事なくその身をさらし出すアイナは与人の問いにも答える事無く、まるで白昼夢を見ているようにどこかボンヤリしている。


「暑い……暑いんです、主様」

「あ、暑いなら離れればいいんじゃないかな~と思うんですが」


 これから起きそうな事態に恐怖しながらも、何とかしようとする与人。

 しかし、世の中無情というもの。

 アイナは段々とその唇を与人に近づけていく。


「……主様」

「あ、アイナ! ストップ! タイム! ハウス!」


 もはや支離滅裂になりつつ説得しようとする与人にアイナはただ一言、こう言った。


「いただきます」

(く、喰われる!?)


 哀れ与人の貞操はアイナに食べられた、という展開になるはずもなく。

 与人の部屋の扉が破壊されバラバラになる。

 ゆったりとした動きでアイナがその残骸を見つめている。

 その先には二刀を構えた仲間が立っていた。


「助けに来たよ、主くん」



 あとがき

 皆さま今回のお話は如何でしたか?

 今回よりあとがきを書かせてもらう運びとなりました。

 この物語では珍しい描写があるエピソードでした。

 もうしばらく一連の騒動は続きます。

 感想等もらえると嬉しいです!

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