第7話 一件落着! ……そしてまたはぐれる
「せ、成功した?」
完全な無機質な存在を人間にするのは初めてであった為に多少不安であった与人であったが成功して安心する。
「だけど」
改めて与人はゴーレムⅠの姿を見る。
最初の姿はスチームパンクに出てくるようなゴツゴツとした無骨なデザインであったが今の彼女の姿は寧ろ近未来的なシャープな姿である。
髪の毛はエメラルドの輝きのような色をしておりそれをいわゆるカントリースタイルのツインテールにしている。
露出の激しい近未来的な戦闘服を着こんでおり見た目の年齢は高校生ほどに見える。
……のは与人もいいのであるが。
「ほ、本当に成功した……よな?」
「肯定。間違いなく『ぎじんか』は成功していますマスター」
与人の疑問をゴーレムⅠは肯定するが、所々に機械のパーツが埋め込まれているため余りしっくりは来ていなかった。
「補足。正確に言い表すのであれば私の装甲などの外部パーツが生体組織に変わっていますが、主要なパーツはそのまま残っています。ですので完全な人間ではなく生体部が主体のサイボーグと表するのが正しいかと」
「そうか。説明ありがとうゴーレムⅠ」
「……」
「ゴーレムⅠ?」
「失礼。問題ありません。まずは目の前の問題を対処するのを優先します」
そう言ったゴーレムⅠが見つめる先にはジャイアントオークがこちら側を睨みつけている。
「調整。これより実戦にて以前の素体との違いのズレを修正します。……戦闘開始」
と言うと同時にゴーレムⅠは一気に飛び出しジャイアントオークの腹部に拳を突き立てる。
ジャイアントオークの悲鳴がラボに響く。
相当の痛みが襲ってきたのであろうがそれでもジャイアントオークは剣をゴーレムⅠに振るう。
だが馬鹿力で振るわれたその剣をゴーレムⅠは軽々とその細腕で受け止める。
そしてそのままジャイアントオークを再び壁に押し付けるとすぐさま与人の近くに戻ってきた。
「結論。全体の出力が下がっているため完全な比較は不可能。ですが全体のウエイトが軽くなったためスピード上昇率はかなり良いと思われます」
「おお!」
先ほどまで苦戦していたジャイアントオークをもはや敵にしていない様子で相手取るゴーレムⅠを見て思わず感嘆の声が漏れる与人。
と同時に四割の力でコレなのだから出会った時に万全だったらと思うと寒気がするのであった。
一方でジャイアントオークを怒り狂い剣を振り回しながらこちらに向かってくる。
それを見つつもゴーレムⅠは冷静にそして淡々と仕留めるために手を高々と上げる。
「迎撃。これより敵モンスターの排除のために兵装を召喚します。兵装名バスターブレード」
上げた手に光が集まって兵装を転送する。
現れたのは今のゴーレムⅠより二、三倍ほどデカく分厚い大剣であった。
それを握ると想定より重く感じたのか少しよろめくがすぐに立て直す。
そして力強く両手で握り直すとそのまま横薙ぎに大剣を薙ぎ払う。
ジャイアントオークは断末魔を上げる間もなく両断され顔と下半身を残し息絶えた。
「達成。目標沈黙により戦闘を終了します。……いかがでしたかマスター」
「す、凄いの一言だな」
「感謝。お褒めの言葉ありがとうございます」
ゴーレムⅠがそう言うとバスターブレードと呼ばれた大剣は光の粒子になり消えていった
「それにしても……随分姿が変わっちゃったな」
「肯定。はい、ですが博士が見たら新たな『スキル』による形態の変化に寧ろ喜びを得るのではないかと思われます」
「そうか……ん? 博士って?」
先ほどまでの呼称とは違う事に引っかかり与人が聞くとゴーレムⅠは頷く。
「区分。はい、私の現在のマスターはあなたですがそうなると私の創造主の呼称と被り意思疎通に齟齬が出ます。ですので創造主を博士と呼称しました。代案を提示するとすればあなたをニューマスターと呼称する事になりますが」
「……マスターでお願いします」
「承認。ではマスター改めてよろしくお願いします」
「その事だけどさ。……いいの? 俺が新しいマスターで」
「適否。問題無いと思われます。博士の声を届けてくれた人ですから」
そう言って無意識だろうが微笑むゴーレムⅠは可愛らしいもので思わず与人はドキッとしてしまう。
「疑問。マスターの体温が僅かですが上昇し心拍も上がっています。何か持病の類はお持ちですか」
「だ、大丈夫大丈夫。一過性のものだから」
与人は深呼吸をして気持ちを落ち着かせると手を差し出す。
その手をゴーレムⅠは握り二人は固く握手する。
「じゃあこれからよろしくゴーレムⅠ」
「了承。末永く私をお使い下さいマスター。……提案。早速で申し訳ありませんが意見具をしたいと思います。よろしいですか?」
「勿論。出来ない事もあるとは思うけどドンドン言って貰っていいから」
「感謝。意見とはマスターの私に対する呼称です」
「ん? つまり?」
「簡潔。平たく言えばゴーレムⅠと呼ぶのを禁止したいと進言します」
「??」
あまりに簡潔に纏められた提案に与人は混乱しながら取り敢えず意図を探る。
「え~と、ごめん。理由を教えてくれる?」
「承諾。人間的に言えば一種の区切りとなります。ゴーレムⅠは博士が付けた名称です。ですが今の私のマスターはあなたです。よってマスターには私に新たな名称で呼ぶ必要があると思われます」
「なるほど」
区切りを付けたいというのは納得できる理由であるため改めてゴーレムⅠに変わる名前を考えるが上手く纏まらない。
百面相しながら考える与人を見かねたのかゴーレムⅠがある案を提示する。
「提案。もしマスターが許可を出して貰えるのであればゼラニウムと名乗っても構いませんか?」
「ゼラニウムって花の名前、だったけ?」
「肯定。博士が好きな花であり……私が守り続けた宝物でもあります」
「ま、守っていた宝物って花だったのか」
与人は恐らくそのゼラニウムが保存または生育されているであろう部屋を見る。
見るからに分厚い扉の部屋には花は似合わないと思った。
「保障。博士が戻らないため保護をするため厳重に警備していました」
「いや、明らかにやり過ぎだよ」
「驚愕。……議論を戻しますが出来ればこの花の名を貰いたいと思いますが、マスター如何でしょうか」
「いいと思うよ。けど俺にも一ひねりさせてほしいから……セラでどう?」
「検証。……セラ……セラ。了解しました。これより私はセラと名乗ります。改めてマスターこれよりセラを末永くお使い下さい」
そう言うとセラはテクテクとどこかへ歩いていく。
「セラ? どうした?」
「失念。申し訳ありません日々のローテーションで一人で行うところでした。マスターよろしければご協力ください」
「何を?」
「応答。当然メンテナンスです」
セラに連れられて与人が着いた先にはまるで巨大な手術室のような空間が広がっていた。
「随分と広いな」
「肯定。最大時は五機のメンテナンスを行えるようメンテナンスルームは広く設計さられています」
「なるほど。まあ元の大きさを考えればこのぐらい必要か。……で、俺は何をすればいいん、だ!?」
「異変。どうなされましたかマスター!」
「あー! 前を向くな前を! 何で服脱いでんだ!」
与人がセラの方を向いて見るとそこには先ほどの戦闘服を脱ぎかけた後ろ姿が丸見えであった。
「困惑。何故と問われましてもメンテナンス時に衣服は邪魔になるため脱ぎました。人間が入浴するのに服を脱ぐのと同じことです」
「だとしても! 異性の前で裸になるのはその……マナー違反になるから!」
「了承。今後はマスター以外の男性の前では衣服を脱がない事をインプットしました」
「何で俺だけ対象外!?」
「無論。マスター以外にメンテナンスを任せられる者がいないからですが。……ダメ、ですか?」
「そ、それは卑怯だろ」
心なしか振り返る瞳をウルウルさせるセラに罪悪感を覚えて承諾する与人。
セラは巨大な椅子に腰かけ与人に背中を見せる。
その肌のあまりの白さに美しさを感じつつ与人はセラに問いかける。
「それで? 俺は一体何をすれば?」
「推論。構造が同じであるならば背中部に大規模メンテナンスを行うためのスイッチがあると思われます」
「それを押せばいいのか?」
「肯定。一度大規模メンテナンスを行えば十年は簡易メンテナンスで過ごせます。そしてメンテナンス自体もこのルームに設定されているためマスターは押せば退室してもらって構いません」
「けど、姿はだいぶ変わってるけど?」
「可否。問題ありません誤差の範囲です」
「ホントに!?」
未だ疑問は残るが本人がそう言うため取り敢えず背中にあるというスイッチを探すが中々見当たらない。
「セラ、全く見当たらないけど」
「熟慮。でしたら背中部にあるのは確かですので触ってみて判断して下さい」
「わ、分かった」
メンテナンスだというのに妙な緊張感に襲われながら与人はまずセラの肩甲骨あたりを触る。
「ひゃあ!?」
「な、何事!?」
背中に触った瞬間にセラが可愛らしく悲鳴を上げ与人も驚いてしまう。
「こ、困惑。すみませんマスター。触られた瞬間に突如に謎の感覚が襲い言語化不可能な声を出してしまいました。考察。……恐らく生体部と機械部が直結しているために人間的に言えばくすぐったい感覚に襲われたのかと。マスターにおかれましては気にせずスイッチを探してもらえれば」
「わ、分かった。……できるだけ声は出さないでね」
「考慮。善処します」
その後はひたすら与人にとっては戦いの時間であった。
背中に触るたびに可愛らしくも艶のあるセラの声が出てくるためメンテナンスだというのに何やら変態行為を行っているような気分になる与人。
それを必死に誤魔化しながらセラの背中を触る事十分以上。
ついにお尻の上の所にスイッチを見つけ押す事に成功する。
その後しばらくメンテナンス状況を観察しながら問題無いのを確認すると与人は寝直すのであった。
「まさか『神獣の森』の森に入り口があったとは」
「肯定。正確に言えば数ある入り口の一つですが、ここならば他の人間に見つかる事が無いと博士がおっしゃっていました」
叶夜が再び起きるとセラはメンテナンスを終えており出発のための準備をしていた。
無理について来る事はないと与人は伝えたが。
「拒否。もう二度とマスターが見知らぬところでいなくなるという事は許容出来ません。置いてかれても付いていきます」
と言われれば与人もセラを連れて行くのに躊躇は無かった。
そうなれば後の問題は一つ。
「三人とどう合流するかだな」
そう未だ別れたままの三人の合流のみである。
連絡手段がない以上この『神獣の森』を地道に探す他無いかと与人が覚悟を決め掛けていた時にセラから意見が出る。
「具申。この広い森を探し回るのは効果的ではありません。幸いにして『神獣の森』は人は寄って来ません。ですのでここは煙を上げ向こうに気付いて貰うのが最上かと思われます」
「流石! それで行こう!」
「感謝。お褒め頂きありがとうございますマスター。では少しお待ちください。ラボに非常用のモンスター除けを張りますので。……忠告。この辺りは見ての通り崩れやすい崖になってますのでお気をつけを」
「了解」
そう言うとセラはラボの入り口で何やら作業をしている。
その間に与人は景色を見ようと見ていた。
「……ん?」
だが遠くの方に何かが動いているのが見え見極める為に徐々に乗り出してしまい。
「!?!?」
声を上げる間もなく与人は崖から落ちるのであった。
「完了。お持たせしましたマスター。……マスター?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます