第三十三話 語られた真実 そして……

 かの矢凪龍兵との遭遇した日の翌日、俺たちはいつものごとく暗転空間にいた――。


「なるほど……、ハーレムマスター契約とやらの詳細は理解したぞ」


 そう言って頷くのは蘆屋涼音ちゃんと土御門美夜ちゃんである。


「そして……、そのハーレムマスター契約というモノの、本来の目的も理解できたっす」

「本来の目的?」

「そうっすよ。かの男……矢凪龍兵の言っていた……、それこそがこのハーレムマスター契約の本来の儀式名であり……」


 美夜ちゃんは心底楽しそうに話を続ける。


「……その目的は一人の人間の霊格を引き上げて、神格へと変化させることっす」

「そんな事……出来るの?」


 かなめが困惑した顔で美夜ちゃんに聞く。美夜ちゃんは不敵に笑いながら答える。


「うむ……、この儀式のかなめっす」

「極星?」

「そう……、特定の条件を持った、昇神対象と異なる性の人間の持つ魂の中核構造体の事っす。それを儀式でもって昇神対象の魂に刻印していく……」

「そうすると……」

「その魂の持つ特性を昇神対象者が扱うことが可能になる。……すなわち特技スキルの使用が可能になる」

 

 ――そして、そう美夜ちゃんは呟き話を続ける。


「……その刻印自体は、司郎の相方としてのかなめを中継点として行われる……。それゆえに各特技スキルはかなめのモノの影響を強く受けることになるっす」

「なんで? 私を中継するの?」


 かなめの質問に美夜ちゃんはさらに言葉を続ける。


「本来別人のものである複数の極星を、かなめを通すことで最適化して一人の人間に刻印しやすくするためっす。そうしないと、極星同士の衝突が起こって術式が崩壊しかねないからっすね」

「うん……? もっと簡単に説明してくれ」


 俺の言葉に苦笑いしつつ美夜ちゃんは言う。


「昇神対象である司郎にとって、かなめは神格へと変じた際の神としての基本属性を決める娘っすよ。そして、他の十人の娘はその基本属性に追加能力を付与する役割を持つっす」

「ふむ……なんとなくわかったぜ。要は俺の神としての基本属性は【格闘家】ってことだろ?」

「そうっす。今までの十の試練は、いわば司郎の魂に、神としての構造を刻印するための儀式なんっすよ。だとすると……最後の試練対象が誰かすぐわかるっす」

「え?!」


 俺が驚いた顔で美夜ちゃんを見ると、彼女はそれまで黙って俺たちの話を聞いていたの方を見て言った。


「……その対象は、ヒメ……、アンタの先代であり、この儀式を始めるきっかけである天城比咩神アマギヒメノカミっすよね?」

『……はい、その通りです』


 ヒメはあっさりと驚愕の事実を肯定した。


「え?! マジかよ!!」


 俺の驚く顔を少し苦しそうな目で見つめながらヒメは言う。


『……最後の儀式は天城比咩神本人を対象に行われます。……と言っても、十の試練を乗り越えた時点で、ほぼ試練は完了しており、ほぼ形式的な試練が行われる……ハズでした』

「はず……でした?」

『はい……、かの神格である矢凪龍兵が、こともあろうに儀式に干渉し、最後の試練を歪めてしまったようなんです』

「ソレってまずい話なのか?」

『無論です……。この最後の試練は……、司郎君の神としての構造にエネルギーを供給する供給システムを与えるのが目的なんです。それによってはじめて神格となるわけですが……』


 そのヒメの言葉の続きを涼音が語る。


「……正式な神格である矢凪龍兵が、最後の試練における障害として設定されているために、神格でない司郎が神格である矢凪龍兵を倒さねばならない、という状況になっておるという事だな?」

『そうです……。それははっきり言って……、攻略不可能な試練という事になります』


 俺はその二人の言葉を聞いて笑いながら言う。

  

「……でも、最後の試練を乗り越えなきゃ死ぬんなら……、やるしかないじゃん?」

『それは……そうですが』

「まあ……それはとりあえず置いておいて……。結局奴の目的は俺からハーレムを奪う事って話でいいのか?」

『いいえ……、どちらかというと……。狙っているのは司郎君自身です』

「うえ?! マジ?」

『はい……、かなめさんや試練の少女たちは、儀式が完全に完了する前に下手に手出しすると、司郎君内の刻印にも悪影響を与える可能性があります。彼の目的は司郎君の魂に刻まれている極星を自身に移植してしまう事でしょうから……、狙ってくるのは司郎君自身の無力化だと思われます』

「むう……だから奴は俺一人で来いと?」

『そうですね……』

「つうか……なんでそうまでして俺の極星を欲しがるんだ?」

『それはおそらく……他の神格への対抗の為でしょうね』

「他の神格?」

『そうです……、あの人がやっている様々な行為は、神格としての約束事から逸脱しています。当然、イレギュラーとして他の神格から狙われる存在となっているはずです』

「なるほど……もっと力を得て、そいつらに対抗したいと?」

『おそらくは……そういうコトでしょうね』


 俺はヒメの言葉を聞いて顎に手を当てて考える。

 

「大体の事は理解できた……。で、ほおっておくと俺は死ぬ……、立ち向かっても勝つ可能性は低い……か」


 俺は少しだけ考えてから皆を見回して言った。


「まあ……、どっちにしろ奴に立ち向かうしかないよな。姫ちゃんが捕まってるわけだし」

「だね……、ほんのわずかでも勝つ可能性があるなら、立ち向かうしかいないよ……」


 俺とかなめはそう言って笑いあう。


「それじゃあ……私らも戦いの準備をしなきゃね」

「え? ついてくるつもりか?」

「当然よ……、皆も同じ気持ちでしょ?」


 その場の女の子たち全員が頷く。


「でも……戦えない娘もいるし……」

『彼女らが司郎君の近くにいれば、扱う能力は飛躍的に上昇するはずですから、非戦闘員でも連れていく意味はありますよ。……どちらにしろ、奴の目的達成のためには彼女らに手出しするわけにはいかないでしょうから……』

「そうか……奴は手出しできないから……。俺自身よりか安全なんだな……」


 とりあえず納得した俺はヒメの方を向いて言った。


「じゃあ……ヒメ、君の知っている限りの情報を俺に話してくれ。奴の詳しい素性を知りたい」

『わかりました……。先代からの記憶は不完全にしか継承していないので断片的なものになりますが……』


 そう言ってヒメはかの、矢凪龍兵の過去について語り始める。

 ――それは、ある意味興味深い、そして俺に似た少年の物語だった。



 ◆◇◆◇◆



「……」


 今、俺の目の前には天城ビルが大きく聳え立っている。この街でおそらく最大のビルが奴の城だ――。

 正直なんで俺がこんな所にいるのか、場違いもはなはだしく思える。

 でも、俺は進まなければならない。それが俺の決めたことだ――。


「司郎……」


 俺の背後に立っている少女達が、暗い表情で俺に声をかける。

 大丈夫、俺は負けはしない、今まで出会った少女達の想いと力が俺の中に宿っている。


「よし!」


 俺は覚悟を決めてビルへと足を進める。

 奴の力には未知の部分がある、どんな世界が待ってるのかも俺にはわからない。でも、進む、そうしなければならない理由が俺にはあるのだ。

 おれ自身の死が迫ってるから? ――いや、今の俺を動かしているのはそれだけじゃないとはっきり言いえる。

 後ろから少女達の声が聞こえてくる。

 その一つ一つが俺に熱いものをくれる。


「さあ! いってくるぜ! 最後の試練!!!!!!!!!」


 そう言って俺は右手の【星】を天にかざした。

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