第十四話 新たなる美少女!

「―――そう言う事でしたか」


そう言って”刈谷 多津美”は小さく笑った。

あの事件から一週間たった現在、俺たちはいつもの暗転世界で”姫ちゃん”と邂逅している。

”姫ちゃん”からハーレムマスター契約に関する様々な内容を聞いた多津美ちゃんは、それをなぜかあっさりと受け入れ俺のハーレムに入ることになった。


『貴方はあっさり受け入れましたね? 多津美さん?』

「ハーレムマスター契約とか―――、特技スキルだとか―――、

 正直、信じられない内容である事は事実なんですが―――、あの時の司郎先輩の動きを見た時に違和感を感じていたんで、―――そうなのか、って感じですね」

『違和感?』


”姫ちゃん”がそう聞くと多津美ちゃんが答える。


「司郎先輩の普段の動きは明らかに一般人です。

 ―――まあ、かなめさんのツッコミを受けるときは、異常な体捌きをしているのは事実ですが…

 一般人であることには変わりありません。

 ―――でも、あの総馬を倒した司郎先輩の動きは、もはや別人レベルで違いました」

『まあ―――、確かに”別人の特技”を扱ってるわけですしね』

「―――そう、他者の”特技”を扱う能力―――、それがあればあの動きは可能だろうと―――、

 だから―――信じてみる気になりました―――、

 それに―――」


不意に多津美ちゃんが笑う。


「それが真実であるなら―――、司郎先輩とかなめさんは完全な恋人同士というわけではないと言えますしね―――」

「む?」


その多津美ちゃんの言葉にかなめが反応する。

―――俺は言う。


「いや、一応かなめも俺のハーレムの一員で―――」

「それはわかっています―――、しかし、ハーレムマスター契約の内容を見れば―――」


―――と、その時、周囲の女の子たち(日陰ちゃんを除く)がピクリと反応する。

なに? どういうコト?


「―――どうやら先輩方も気づいてらっしゃるみたいですね?」

「―――」


日陰ちゃんを除く全員が、何やら怖い顔で多津美ちゃんを見ている。


「そうですか―――。

 これは、来るべき最終戦争の前段階だったのですね」


そう言って多津美ちゃんがにやりと不敵に笑った。

いや君、何言ってんの?!! どこの異世界の話っすかそれ?!!!

―――俺は心の中でそう突っ込んだ。

少し頬を引きつらせながらかなめが言う。


「多津美ちゃん?

 何を訳の分からないことを―――」

「本当にわかってませんか?

 かなめさん―――、いや、かなめ先輩」

「―――」


その多津美ちゃんの言葉にかなめが黙り込む。

わざとらしく”先輩”呼びに切り替えたのは、ハーレムマスター契約の話を聞いたからかな?


「―――司郎先輩のハーレムが12人になりすべての試練を終えて一年が経過すれば―――、

 当然、それ以降は司郎先輩は試練による死亡はなくなる―――

 そうですよね? 女神様?」

『まあ―――そうですね』

「ならば―――それからなら”抜け駆け”OKと―――」


なるほど―――、それは盲点だったぜ!!!

―――って、それは俺にとってかなりマズいんでは?!


「”姫ちゃん”? ―――ソレマジ?!」

『まあ―――間違いじゃありません』

「―――そうか、よく漫画とかで、主人公の男を取り合ってトラブル起きるとかそう言うヤツも”ハーレムモノ”って言うもんな―――、

 って!!! そっちのハーレム?!!!」

『あはははは!!!』

「”姫ちゃん”!! 笑い事じゃない!!!!

 これって一年後に”修羅場”確定じゃん!!!!!」

『その間にハーレムを維持するための、なんかの対策をするしかないんじゃないです?』

「あっ、そうか―――って?! そんなん基本馬鹿の俺には思いつかないって!!!」


その時、多津美ちゃんがなんか怖い微笑みを浮かべて俺に言う。


「司郎先輩―――、一緒に刈谷道場を復興しましょうね?」

「え?!!!!」


その言葉にかなめが怒る。


「こら!! 今から”抜け駆け”するな!!!」

「―――抜け駆けではありません―――。

 先輩方への一種の宣戦布告です―――」


その多津美ちゃんの言葉に、女の子が一斉に彼女を睨み―――、俺は頭を抱えた。


「多津美ちゃん―――、君って結構好戦的?!」

『彼女は元々そうですよ? だって”強くなるために辻斬り行為に勤しむ娘”ですし―――』

「そうだったね―――そう言えば」


多津美ちゃんから暗い影が消えたのを喜ぶべきか?

―――その時の俺は苦笑いするしかなかった。




-----




「なあゴリっち?」

「なんだ?」


ある日の昼食時、いつものごとく女の子達と弁当を広げていた俺は、近くで総菜パンをパクつくゴリっちに話しかける。


「ゴリっちって多津美ちゃんにボロ負けしたそうだね」

「―――む、妹に聞いたのか?」

「うん」


ゴリっちは側にいる多津美ちゃんを一瞬睨むと言った。


「―――まあ、本当だ。嘘を言っても仕方がない」

「へ~~~~。ゴリっちって結構弱い?」

「お前な―――」


さすがのゴリっちも少し怒った顔をする。

しかし、すぐにため息をついて言った。


「多津美は―――元々格闘の天才だ―――。

 そして、俺との格闘に関する相性は最悪だと言える―――。

 俺は負けるべくして負けたんだ―――」

「どういうコト?」


俺の疑問にゴリっちは真面目な顔で答える。


「そもそも俺は―――、

 体が大きく、動きが遅い―――、

 手さばきで防御しようにもスピードで来られると対応しきれない弱点がある。

 だから俺は筋肉を鍛えてそれを鎧にして身を守っている―――」

「ゴリっちはいわば重戦車タイプか?」

「そうだな―――、

 しかし、多津美は動きが速いうえに―――、俺の攻撃を捌ける手わざを持ち―――、

 さらに”筋肉の鎧”を無効にできる”破皇掌”を持つ―――。

 スピードで上をいかれ、攻撃を手で捌かれ、さらには筋肉鎧すら無効にされれば―――、

 おれには何もできん―――」

「なるほど―――、じゃあかなめは?」

「かなめ君は―――、

 攻撃が基本”通常の打撃”のみだ―――、

 それに対しては”筋肉の鎧”が普通に機能する。

 そして、彼女の手わざは基本牽制攻撃に使うのみで、防御は体捌きによる打撃軽減―――。

 この場合、当然俺の攻撃が当たれば、体捌きだけでは打撃を吸収しきれず―――、そのまま終わる。

 ―――ただ、彼女の場合、多津美以上のスピードで攻めることが可能だ。

 そして、そのスピードにさらに、速攻の蹴り技を持つ―――、

 彼女の蹴り技の発動速度は、我々の手わざに匹敵する―――、

 一瞬でも隙を見せればそこに”最強の蹴り”が飛んでくるというわけで―――、

 俺も多津美も―――負けたのは”隙を見せた”から―――という事になる」

「なるほど―――」

「ついでに―――お前は―――」

「俺?」

「そうだ―――、

 お前は基本”頑丈な体”を持つ―――、

 そして、反射的に攻撃に対する体捌きによる打撃軽減を行って、かなめ君の蹴りをほとんど無効にしている。

 だから、お前はかなめ君のツッコミに、”痛い”という反応だけで、平気でいられる―――」

「む? でも、俺一度多津美ちゃんの”破皇掌”で―――」

「そうか―――、それは多分、”破皇掌”の―――、

 軽く手で触れる―――という予備動作を攻撃と認識していなかったからだろうな。

 多分、今ならほぼ無効に出来るだろう―――。

 少なくとも、お前の各打撃に対する防御性能は、俺の”筋肉鎧”に匹敵するほどもある―――」


ゴリっちはそう言って俺に笑う。


「―――で? お前はどこでその体捌きを―――、

 ってやっぱり宮守の爺さんの指導か?」

「―――さすがは刈谷さん。

 その通りです」


ゴリっちの言葉にかなめが返す。


「こいつ―――司郎は、昔うちの道場にいたんだけど。

 道場が男だらけなのと―――、おじいちゃんのスパルタが嫌で逃げ出したんです。

 おじいちゃんはかなり見込んでたんで、がっかりしてましたが―――」

「かなめ―――、

 嫌なこと思い出させないで。

 あそこまでキツイ練習させられたら、誰でも逃げ出すって―――」


俺のその言葉に、かなめは苦笑いした。


―――と、その時、


「あら? あなた方は―――」


不意にどこかで聞いたことのある、優し気な女性の声が聞こえてきた。


「え?」


俺たちが声のした方を見ると―――、そこに”あの人”がいた。


「あ!!!! ”高円寺こうえんじ あきら”さん?!」

「―――ふふ、覚えていていただいて、とってもうれしいわ」


かなめの言葉に夫人が微笑む。


「―――そう、貴方たち、そこの多津美ちゃんも。

 この高校だったのね」

「―――この前は、ありがとうございます」


多津美ちゃんが夫人に丁寧に頭を下げる。

俺は疑問を夫人にぶつけた。


「でもなんでここに?」

「―――実は、わたくし来週初めに、この天城高校の理事長に就任することになったのよ?」

「え―――まじっすか?!」

「ええ―――”まじ”よ」


そう言って優しく微笑む。


「その関係でちょっと下見に来たんだけど―――、

 ミリアム―――」

「はい―――」


夫人の声に反応するように一人の少女が現れる。

それは、肩までの銀髪に青い瞳をした、色白の肌の美少女だった。


「この子は、私の”娘”―――、

 Miriam・J・Enfield(ミリアム・ジェイ・エンフィールド)って言うの、

 今度ここに転校する事になったからよろしくお願いね?」

「マジっすか!!!!」


その夫人の言葉に、俺は喜びの声をあげる。

それほど彼女は美少女であった。


「―――」


しかし、彼女は俺たちを見ても無表情で、ただ軽く会釈しただけで去っていく。

人見知りなのかな?


「あら―――ミリアム?

 もう、あの子ったら―――」


夫人は困った顔で彼女を見送る。


これが、第六の試練―――、その対象であるミリアムとの初めての出会いだったのである。

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