第六話 ラーメンと女王様

かなめが帰ってたった一人の病室。

そのベットに寝転んで俺は考える。


かなめの言では、今回の事件はハーレムマスターの試練であったらしい。

女神曰く―――、


『もしあのまま彼女を放置したら、この事件で彼女は射殺されて人生を終えるハズだったんですよ?

 それを司郎君が覆したんです!』


―――だそうだ。


結局、香澄を襲い拳銃を持った男は、警察が到着する前に逃走し現在捜索中であるそうだが、試練がこれで終わりという事は、もう香澄は襲われないという事なのだろうか?

―――何とも、納得できない結果だ。


もし、俺ではなく香澄が銃弾を受けていたら?

俺は心の底から震えがくる。―――そんなことになるなら、俺が受けたほうがマシまである。

まあ、そんな事言えばかなめが本気で怒るかもしれないが。


<自分を大事にしない奴は、他人も大事にできない―――>


そうかなめに言われたのはいつだったのか?


「ハーレムマスターの試練か―――」


不意に俺は嫌な思いに駆られる。

もしも、俺がハーレムなんて馬鹿な事を女神に頼んだから、女の子が危険な目にあっていると言うなら―――。

俺は―――、後悔しかない。

軽い気持ち―――ではすまない事態だ。


―――でも、


(もし逆なら?)


かつて女神は言った。

ハーレムマスター契約は女の子と関われる特殊な”絆”を与えるものだと。

―――ソレって、少なくとも日陰ちゃんたちを含めて、合計11人の女の子が―――、


絶望したり―――、死亡する可能性があるってことじゃ―――。


その考えに思い至って俺は背筋が寒くなった。


嫌な予感を感じる。

あの拳銃男は今も逃走しているのだ。

もしそれが女の子が、絶望したり、死亡する前兆だったら?

俺は腹の痛みをこらえて起き上がる。


(―――まさか、試練はまだ終わっていない?)


そう考えた時、初めに浮かんだのはあの女神の笑い顔であった。




-----




「とうかさ~~~~ん!!!!!」


今日も天城高校には、エロ馬鹿男の声が響ている。

その軽すぎる足取りが向いているのは、長身で容姿端麗な金髪碧眼美女―――”三浦藤香みうらとうか”である。

エロ馬鹿男―――無論”上座司郎”である―――が、キモイ動きで飛び跳ねながら彼女へ近づくと、とうの彼女は深いため息をついて少年を見つめた。


「…またですの?

 司郎さん?」

「とうかさ~~~ん!!

 放課後一緒に食事とかどうっすか?!」

「…ふう」


彼女はこめかみに指を添えてため息をつくと彼に向かって言った。


「いいえ、結構ですわ。

 夜の食事は、家で家族で済ますきまりになっております」

「―――え~~? 本当にダメ?」

「駄目です―――、そもそも貴方とは、食事をするような間柄ではありません」

「つれないな~~~。

 俺が病院にいた時は、結構頻繁にお見舞いに来てくれてたのに」


その言葉を聞くと藤香は、


「―――それこそ早まったと思っております。

 あなたにこんな勘違いを起こすきっかけになってしまいましたから」

「勘違い?」

「貴方とは、学年が一つ違いますし。

 そもそもお話したのも病院で、です。

 わたくしは貴方をよく知らないし―――、貴方もわたくしを知らない。

 友達ですらないのです」

「俺は、友達以上になりたいって思ってますよ!!」


藤香はその馬鹿男のヘラヘラ顔を見て見下ろすように睨む。


「結構です―――、

 わたくしとしたことが、人を見る目はあったと自負しておりましたが、どうやら私の勘違いだったようです。

 これ以上付きまとうなら、それなりの対応をさせていただきます」


その藤香の冷たい視線を受け止めてなお馬鹿はへらへら笑う。


「怒った顔も美人っすね!!!」

「―――」


藤香はもう話すことはないと踵を返す、それでも付きまとおうとしたとき―――、


「―――」


黒服がその進行を塞ぐ。無論、藤香のボディガードである。


天城高校はそれなりの名門である。

かなめの宮守家をはじめ、日陰の大月家、―――そして、藤香の三浦家など両家の子息・子女が通う金持ち御用達の高校でもある。

不良と呼べる連中はかなり少なく、校内も整備されて綺麗である。

―――そして、その特徴の一つが、家の従者(ボディーガードなど)を一人つけることが出来る事であった。


「あ~~~藤香さん」


そんなことを呟きながら馬鹿男は藤香を見送る。

最近ではこれが日常となっている。


(ふう―――、本当に煩わしいですわ)


藤香はそう考えつつ校内を歩く。

彼女は普段、ボディガードをつけない。

自分のプライべーを縛られたくないからである。しかし、あの少年―――、

エロ馬鹿男”上座司郎”のせいで、最近はボディガードをつけざるおえない状況にある。


(”いい男”―――そう思っていましたが)


彼が、同級生の命を守るために自身の身をさらしたところは彼女も見ている。

だからこそ現状の彼の行動が信じられない。


(結局、下の事しか考えられない男だったのでしょうか)


彼が、この学校で名の知れた”オープンスケベ”だと、あとで知ったが―――、

―――その時、自身のスマホに着信が入る。


「はい―――、わたくしですわ。

 ええ、その取引は―――」


いい加減あのつまらない男の事は忘れよう。

そう思いつつ自身の”仕事”に集中する。

―――そして、彼女は今月に入って多くなったため息をまたついたのである。




-----




「ちょっと!!! 上座司郎係!!!」

「―――上座司郎係言うな」


風紀委員”岡崎香澄”は、お昼に”大月日陰”と共に二人で弁当を食べている”宮守要”にまくしたてる。


「どうなってるのよ司郎君は!!!

 最近、―――っていうか病院を退院してからずっと、あの三浦さんのお尻を追いかけてるじゃない!!」

「―――まあ、そうだね」

「そうだね―――じゃない!!

 まさか―――司郎君って、付き合い始めたら女の子を放置するタイプなの?!」

「香澄―――教室でその事を大きな声で言わない」

「だって―――」


香澄は抗議の声をあげる。

あの時、香澄は司郎のハーレムに入ることを決意した。

それはすなわち、司郎の正式な”恋人”になるという事ではないのかと考えていたのだが―――。

―――彼女らは、現在絶賛放置中であった。


「―――あいつが気が多いのは知ってるでしょ?」

「それにしても―――ひどいでしょ?」

「まあ、ハーレム自体男主体でひどい話だけどね」


そう、かなめは身もふたもないことを言う。


「かなめはいいの?!」

「―――ん?」

「かなめだって司郎君の事―――」

「…」


かなめが無言で香澄を睨む。

さすがに香澄は黙り込んだ。

その光景を見て日陰が”あわあわ”と慌てる。


「ふ…二人とも…喧嘩はダメ」

「「…」」


かなめと香澄は無言で見つめ合った後、


「日陰ちゃん、別に喧嘩なんてしてないよ」


かなめはそう日陰に言った。


「でも…少し司郎君…様子が変じゃないですか」

「え?」


日陰のその言葉に香澄は疑問符を飛ばす。

その言葉をかなめは黙って聞いている。


「どこが? いつものエロ馬鹿―――

 オープン痴漢男に見えるけど」

(―――あんたは本当に司郎のことを好きなのか?)


心の中でそう香澄に突っ込みながらかなめは考える。


(―――司郎。

 もうそろそろ何とかしないと―――。

 私が彼女たちをとどめておけるのにも限界があんだからね?)


かなめはそうして、ただため息をつくのだった。




-----




「なあ女神? 聞こえてるんだろ?」


司郎がまだ天城病院に入院していた頃、不意に司郎は天に向かって話す。


「ちょっと聞きたいことがあるんだが?」


―――と、その言葉に呼応するように空中にたおやかな女性―――”天城比咩神アマギヒメノカミ”が姿を現す。


『はいは~~~い。司郎君からのお話なんて珍しいですね?』

「―――なあ。もしかして試練ってまだ終わってないんじゃないのか?」


その司郎の言葉に女神は笑顔で首をかしげる。


『なんでそう思ったんです?』

「自分でもよくわからん―――、でも、そう感じるんだ」

『う~~~~ん』


女神はしばらく考えた後、笑顔で司郎に告げる。


『まあ、自分でそう確信しているなら、答えてあげてもいいかな?

 ―――岡崎香澄の試練―――”第二試練”は完全に終わってますよ?』

「―――そして、”第三試練”は?」

『―――はい。同時進行中です』

「やっぱり」


予想が確信に変わる。


『まあ、今回はイレギュラー中のイレギュラーなんであえて言いますが、二つの試練が同時発生してしまっています。

 岡崎香澄さんがハーレムの対象であったから今回は助かりましたが―――、

 もしそうでなかったら―――、貴方は現在生きてはいませんでした』

「!!!!」

『―――あの時、無謀に他人を助けるべく銃弾に身をさらしたのは、結果的に助かっただけで最悪の選択―――、

 ”彼女”に関する試練においては”試練失敗”判定でした』

「…」


司郎はあの時の事を思い出す。

香澄を助けるべく身をさらしたのは後悔していない。でも―――、


『―――あの時、貴方がとるべき選択肢は他にもあったんです。

 その中でも最悪の選択をしてしまった―――、だから死にかけた―――、でも偶然ハーレム対象である”岡崎香澄”さんの存在が貴方の命を拾った』

「―――そうだったのか」

『ええ、もしこれからも試練を続けるなら。

 貴方はもっと賢くなるべきです。

 このような偶然はもう起きないでしょう』

「く…」


司郎は苦し気に俯いた。

女神はさらに続ける。


『もう理解しているようなので言いますが。

 ―――試練とは、これから起こるはずである”少女たちの絶望”への救いです。

 それを特殊な感覚で感知し、関わることのできる”絆”を貴方は得ている。

 それによって”絶望”は”愛情”へと昇華され、女性たちは貴方を心から愛するようになる。

 それは決して魔法などでの洗脳ではなく―――、

 当然の事をしたから、当然得られる結果なのです』

「ってことは―――」

『貴方はこれからも少女たちの”絶望”に相対しなければなりません。

 それは間違いなくあなたの命を奪う絶望を孕んでいます』

「…」


司郎は黙って女神の話を聞く。


『嫌になりましたか? 試練が怖いですか?』

「…」


司郎は少し考えて言った。


「いや―――俺はやっと”姫ちゃん”に感謝できるよ」

『姫ちゃん?』

「”天城比咩神アマギヒメノカミ”だから”姫ちゃん”」

『―――』

「ソレって俺の選択次第で、本来俺がかかわらず絶望するはずの女の子たちを”絶望から救える”ってことだろ?

 ならば命を懸ける価値のある事―――、願ったり叶ったりだぜ!」

『それでいいんですか?』

「無論―――」

『―――それは、他人のために自分を犠牲にしていません?』


不意に女神がまじめな表情でそう言う。


「? なんだよ?

 俺の事を心配してくれるのか?」

『―――』


いつになく神妙な顔で司郎を見つめる女神。

司郎はそれを見て歯を見せて笑った。


「はは!!!

 俺だってハーレムなんて大それた願いをしたんだ。

 そのくらいの危険は乗り越えて見せる!!」

『そう―――』


その時、初めて女神が心から優し気な笑顔を司郎に向ける。


『ならば―――今回は特別。

 試練内容は喋れませんが、その対象だけは教えて差し上げます』

「え?」

『第三の試練―――その対象は。

 ”三浦藤香みうらとうか”さんです』

「え…!」


その名を確かに聞いたことがある。

確か一つ上の上級生―――、


『―――貴方は嘘だと思うかもしれませんが。

 私はあなたが全ての試練を乗り越えるだろうと信じています』

「はは!! ―――当然!」


司郎はそう言って女神に微笑んだ。




-----




その日の放課後、俺は結局藤香さんに近づくことが出来ずに帰宅の途に就いた。


「あ~~~~腹減った。

 帰りにラーメン屋にでも寄るか?」


家ではたぶん養母がご飯を作っているかもしれない―――、しかし育ち盛りの俺にとっては少し物足りない量だ。

養母に量を増やすように頼むことも出来よう。でも―――そんなわがままを言うのは気が引ける。

養母のごはんの後に間食すればいいだろうが、それだって養母の心を傷つけてしまうかもしれない。

こうして、帰りに内緒で少し腹を満たしておけば―――、

少し遠慮しすぎだろうかと自分でも思う。でも俺の性分だから仕方がない。


「ん?」


中華料理屋”天城飯店”を目前にしたとき、その近くに見たことのあるベンツが止まっているのが見えた。


「お!!! あれって確か藤香さんの?」


そのベンツの扉が開いてとうの藤香さんが下りてくるのが見える。

それはあまりに似合わない組み合わせ。


藤香さんほどの金持ちならば家でシェフの料理を食べるだろうに。

その彼女が入ろうとしているのは、庶民向けのラーメン屋である。

その扉に手をかけた時、彼女がこちらに気づいて硬直した。


「あ…」

「藤香さん?」

「…これは」


藤香さんが見る間に顔を赤くする。


「貴方…なんでこんなところに?」

「いや…帰りにラーメンでも食おうかと」

「帰りに寄り道なんてしていいと思っているのですか?」

「今の藤香さんには言われたくないっす」

「う…」


藤香さんは俺をキッと睨むと言い訳を始める。


「わたくしはいつもこんなことをしているのではありません!!!

 たまたま、今日はお店が視界に入って―――、

 社会勉強としてラーメンというモノを体験してみるのもいいかもと―――」

「ラーメン食たことないんですか?」

「…まあ、そうです」

「じゃ、奢るっす!」


そう言って俺は彼女に笑う。

しかし、


「それは―――ダメです!

 貴方などに借りを作るなんて―――」

「俺って相当嫌われてる?」

「―――貴方は自覚ないんですの?

 まあいいです。―――貴方には話すべき言葉もあります。

 わたくしが奢りましょう」

「え? そんな事」

「遠慮しなくてもいいですわ。

 わたくしが貴方程度の料金を払えない貧乏人だと思っているのですか?」


そう藤香さんは言ってラーメン屋の扉を開ける。

俺は彼女に続いてラーメン屋に入った。


―――そして、




-----




「ああ…なんて…」


彼女は感動のあまり恍惚の表情を浮かべている。

その顔がなんとも艶めかしくエロい。


「本当に旨いでしょ?」


俺がそう言うと彼女は恍惚としながら頷いた。


「―――一見雑でおおざっぱな料理に見えますが、なんて繊細で、かつうま味が後から襲ってくる料理なのでしょう。

 このような料理は生れて始めて食べます」

「それは良かった! 私も鼻が高いってもんだ!!!」


そう言って喜んでいるのはラーメン屋の主人である。


「いやあ…! 店の前にベンツが止まった時はどうしようかって思ったが!!

 味の分かるお嬢さんだ!!」


主人はそう言って藤香のどんぶりに替え玉を入れる。


「―――藤香さん?

 そんなに食べて大丈夫です?」


俺がそう心配そうに彼女に言うと。


「大丈夫ですわ…。わたくしは太らない体質ですので」

「そうっすか」


少し冷や汗をかきながら俺は言った。

そうしてしばらくすると、彼女は満足そうに手を合わせた。


「大変おいしかったです。

 御馳走様―――」


そう何とも礼儀正しく言うと。

ラーメン屋の主人も頭を下げた。


「いや―――お嬢さんが満足できてよかったぜ!」

「―――また、きっと寄らせていただきますわ!」

「おう!! ありがたい話だ!」


その嬉しそうな表情を見て俺は少し笑う。


(こんな表情もできる人なんだな―――)


それまで俺は怒った表情しか見ていなかったので新鮮な思いがした。


「それでは―――会計を、これで」


そう言って彼女は懐から何やらとりだす。

それを見て―――、


「?」


その場の、彼女以外の全員が硬直した。


「お嬢さん―――」


ラーメン屋の主人が申し訳なさそうに言う。


「それは何だい?」

「何って―――天城プラチナカードですわ」


それはここら一帯の金持ち御用達のキャッシュカードであった。

プラチナカードはその中でも最高の物であり―――、

当然、庶民の飲食店では使われることのないものである。


「―――すまねえが、ここはそれ使えねえんだ」

「え?」


その主人の言葉に藤香さんが硬直する。


「現金は?」


そう俺が助け舟を出すと―――。


「―――」


黙って彼女は俺を見た。


(持ってないのね―――)


さすがお金持ちである。

さすがに焦った彼女は、次にとんでもないことを言い出す。


「な、ならばこれで支払います!!」


それは自身が身に着けているネックレスであった。


「これは現金にすれば一千万になり―――」


あまりの事に俺たちは硬直し―――、


「お嬢さん―――いくら何でも、それはもらえねえよ」


主人は困った顔でそう言った。

藤香は慌てて言う。


「でも―――私はこのくらいの価値が、このラーメンにはあると思って」

「―――それはありがたいが、もらえねえ」

「う―――」


困り顔の二人を見て俺は助け舟を出した。


「やっぱり俺が払うよ」

「しかし―――」

「食い逃げしたいの?」

「う―――」


まあ、外で待機している送迎車の運転手ならお金を持ってるだろうが―――、

今の彼女はその事にも気づいてはいない。


「―――やっぱり」


そう彼女が言ったとき、ラーメン屋の主人は言った。


「今回は未来への投資と思ってただにするぜ!」


そう言って笑う。

藤香は慌てて言う。


「そんな、ダメですわ」

「いいんだよ―――、これからも通ってくれるんだろ?」

「それは―――そうですが」


彼女ははっきりと頷く。

ならば―――、


「次来た時に払ってくれ―――、

 これが”ツケ”ってやつだ」


そう言って主人は笑った。


「ツケ―――」


彼女はそう感慨深く呟く。


「ならば―――せめて私の事がわかるものを置いていきますわ。

 この名刺と―――、他に」


…と、不意に俺は思いついた。


「それは俺が何とかしようか?」

「え?」


俺はラーメン屋の主人に色紙を準備するように言う。そして―――、


(さて―――)


その瞬間、俺の右手の星が淡く輝く。


「!!!」


色紙に描いたのはラーメン屋の主人と藤香さんの笑顔であった。


「貴方―――、その絵、かなりの腕前ですわね」


俺は少し苦笑いする。


(日陰ちゃんの”特技スキル”なんだけどね)


その色紙を見つめて彼女は満足そうに笑う。


「ありがとう上座君―――。

 御主人、これを証明として置いていきますわ」

「おう!!」


ラーメン屋の主人は嬉しそうに笑ったのである。




-----




「…」


ラーメン屋を出ると藤香さんが黙って俺の方を振り向く。


「おいしかったですわ」

「それは良かった」

「それと―――」


彼女は真面目な表情で言う。


「―――貴方、なかなかいい絵を書きますわね」

「え、ああそれは―――」

「正直、感心しました―――。

 アレは繊細な心がないと書けない絵です」

「ははは…」


まあ日陰ちゃんはかなり繊細な娘だしね。

俺がそう考えていると―――、


「なぜあのような絵を描ける人が―――、わたくしを追いかけまわすのですか?」

「う~~~ん?」

「貴方のお噂は聞いています。

 多くの女性に色目を向けていると―――。

 わたくしに対してもそうなのだろうと―――、

 勝手に思っていましたが」

「それは―――」


俺は少し躊躇する。

果たして彼女に”試練”の事をしゃべって信じてもらえるだろうか?

―――逆に混乱を与えて、状況を悪化させないだろうか?


ならば―――、


「俺は―――藤香さんに本気っす!!

 恋人がダメだってんなら―――、俺を藤香さんの側においてください!!」


俺はそう言ってその場にしゃがんで土下座をした。


「…」


黙って藤香は俺を見つめる。

その目はとても真剣で―――、


「わかりました―――、貴方をまだ信用できませんが、

 御付き見習いとしてわたくしとの同行を認めてあげます」


そう言って彼女は深く頷いた。


―――こうして、俺はしばらく彼女の使用人として働くことになったのである。




-----




闇の中、男が写真を切り刻む音が聞こえる。

―――それは”三浦藤香”の写真。


「クソ…また邪魔された…。

 あいつのせいで―――、会社は―――、

 家族も失ったのに―――また」


もはや彼にとって、あの”岡崎香澄”は記憶にすら残っていない。

ただ藤香への憎悪だけが募っていく。


殺す―――、

絶対殺す―――、

もはや、俺の命すらどうでもいい―――、

周りの何人が死のうが構わない―――、

―――奴の屋敷に乗り込んで、この銃を撃ち込む―――、


それは、まさしく”第三の試練”―――、

彼による三浦家襲撃が起こる、一週間前の夜の事であった―――。



<美少女名鑑その4>

名前:三浦 藤香(みうら とうか)

年齢:17歳(生年月日:3月10日 うお座)

血液型:AB型

身長:168cm 体重:54kg

B:91(F) W:59 H:89

外見:金色がかった黒髪のモデル体型美女。ハーフの為に瞳が青い。

性格:根っからの経営者であり生まれついての金持ち。

それゆえに庶民生活に疎いところがあるが、常に公平であろうとし経営者としての矜持を忘れない。

時に冷徹な判断を下す事もあるが、基本的には誰にでも優しい人柄である。

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